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BOOK 01
海にも「けもの道」がある……心に染み込む言葉と教訓の数々
『沖縄 最後の追い込み漁 宮古島狩俣集落・友利組』
大浦佳代
南方新社
¥2,860

沖縄県宮古島で「追い込み漁」を生業とする狩俣集落の友利組。伝統漁法の追い込み漁は明治期に沖縄で始まったが、現在も変わらない形で産業として漁を行なっているのはこの友利組が最後だという。本書では友利組の漁を軸に沖縄の漁業史や漁師の精神性、さらに集落の慣習なども捉える。追い込み漁の一部始終を追った様子は臨場感にあふれ、口絵も相まって遥か南のサンゴ礁の海が脳裏に浮かぶ。
友利組を束ねる親方は昭和13年生まれ。15歳で「海で生きていく」と決めたという。親方の語りが本書の根幹となっており、丁寧な聞き取りに解説と考察が加えられている。「体で覚えないと、海では対応できないんだよ」何事も現場で覚えてきたその言葉にはひとつひとつに強い説得力がある。
沖縄は海に囲まれた農業県で漁業は後進の地域だ。近年、漁業も養殖業の割合が多くを占めるようになってきている。友利組の親方も養殖が生業の一部にあるが「本業は追い込み漁」だと話す。漁の面白さがそんな言葉につながっていて、何より心を掴まれているのがわかる。追い込み漁ではアイゴなどが多く獲れ、この漁法でないと獲れない魚もあるのだとか。友利組の魚は誰もが買えるというからローカルフードである友利組の魚を一度は食してみたい。
BOOK 02
山ヤ視点で見る巨大事業の実態。何が起きてる?
『リニアは南アルプスをくぐり抜けることができるのか リニア中央新幹線ダークツーリズムガイド』
宗像 充著
山と溪谷社
¥1,430

時速500㎞、東京(品川)─名古屋間を最短40分で結ぶ“夢”の乗り物リニア中央新幹線。南アルプス山脈を穿つ前代未聞の大工事は遅々とし完成時期ははっきりしない。本書はリニア建設の只中にある長野県大鹿村で暮らす著者によるルポ。著者が学生時代から慣れ親しむ南アルプスは懐深い。他と比べて取り付きまで遠く時間を要する山域だ。ゆえに濃い自然が魅力だが、深いだけにリニア工事も人目に触れないきらいがある。山ヤならではの機動力で実態を詳らかにする著者。本書で挙げる問題点は呆れるほどに枚挙にいとまがない。一体誰の“夢”なのか。しかし思考を止めてはいけない。
BOOK 03
身近なトモダチには仲間がいっぱいいた
『水の中のダンゴムシ あなたの知らない等脚類の多様な世界』
富川 光著
八坂書房
¥2,640

指でつつくと丸くなるダンゴムシは、誰もが遊んだ覚えがあるはず。ムシとは名ばかりの甲殻類のグループに属する彼ら。先祖は海の中にいたというダンゴムシは、海岸で見かけるフナムシや深海に棲む人気者オオグソクムシの仲間だ。本書に登場する仲間たちは大方同じようなあの原始的な形態で小さくて愛らしい。種類や生態の解説に加え、著者のフィールドワークの様子やオオグソクムシ味噌汁の実食、嚴島神社の鳥居を脅かすムシなど話が多彩で飽きさせない筆致も魅力。
BOOK 04
トゲトゲの世界へ! サボテンの力に脱帽
『サボテンは世界をつくり出す「緑の哲学者」の知られざる生態』
堀部貴紀著
朝日新聞出版
¥1,045

日本ではもっぱら観賞用として親しまれているサボテン。砂漠に生えているイメージが強いサボテンは所変われば日常的な食材として市場に並んだりもする。本書はサボテンの研究者として活躍する著者の様々なサボテンをめぐる旅の様子と生態を紹介する。
南米チリで生まれ、世界に広がるサボテンの分布は「寒さ」により決定づけられるという。多くは寒さに弱いサボテンだが浅く根を張り僅かな雨量も逃さない構造など知られざる生態に興味津々だ。
※構成/須藤ナオミ
(BE-PAL 2026年1月号より)







