ぶっつけ秋祭りで有名な栃木県鹿沼市には「ちょうどよい」暮らしが待っている

2019.07.08

「イベントが本当に多くて、5月は『春祭り』や『さつきマラソン』、『花火大会』を開催していて。大型連休で日光に行きたい人が宿泊地として利用するので、ものすごく賑わうんですよ!」

辻井まゆ子さんが運営するゲストハウス「CICACU」は、栃木県、JR鹿沼駅から徒歩17分ほどのところにある宿。旅館として営業していた建物をまるごとゲストハウスとして活用しています。建物内にふんだんに使われた木材や、長押にかかる提灯箱などが、情緒感をかもし出しています。

入り口は別で建物を同じくする居酒屋「ROBACICA」は、お酒を飲みたい時や、小腹が空いた時に活躍します。徒歩数秒なので、酔っ払ったとしても、帰り道は安心で便利。

「この建物、ものすごく広いんですよね」

と辻井さんが言う通り、CICACUの宿泊客の収容数は最大で30名。客室はいずれも6畳以上で8部屋、それに共用部である居間と台所、洋室があります。こんなに広いところに大勢が泊まるとなると、とてもにぎやかで楽しいに違いありません。

訪ねた日の宿泊客はそんなに多くはなかったのですが、県外から移り住んできた夫婦の歓迎会が行われていました。その会の参加者が、入れ代わり立ち代わりで15名ほど。それで台所と共有スペースはちょうどよいくらいだったので、この宿のキャパシティの大きさが伺えます。

共有部の居間。奥には旅人や地元の人が置いていった本が並ぶ書棚と、辻井さんの知り合いがくれた鹿の剥製が飾ってある

観光ではない、それぞれの鹿沼を訪れる理由

栃木県の観光都市である日光に隣接し、東京からは1時間半ほどで訪れることのできる町である鹿沼市には、ユネスコ無形文化遺産に登録された「鹿沼ぶっつけ秋祭り」があります。

今宮神社の氏子である34町のうち27町それぞれが所有する屋台で市街地を練り歩くお祭りで、5月の大型連休中には、「春祭り」としてそのダイジェスト版も開催されます。冒頭で辻井さんが言っていた春祭りは、これのこと。

CICACUから望む、鹿沼ぶっつけ秋祭りの様子(提供:辻井さん)

屋台にはとても精巧でかつ迫力のある彫り物が施され、とても豪華な催しものですが、隣に「日光」という超有名観光地が控えているがゆえに、鹿沼に降り立つ人は少ないのが現状です。

「鹿沼で観光する人はあまりいないので、ゲストハウスを始めた時はどんな人が来るのかもわからなくて。いざ蓋を空けてみたら、いろんなパターンがありました。例えば、出張やゴルフの人など。鹿沼にはゴルフ場が多くありますが、もう宿泊施設が営業していないところが多いらしく、2日間ゴルフに行く人が宿泊難民になってしまうんです。その他は、ゴールデンウィーク中に、日光や宇都宮、益子など、県内の複数か所をまわりたい人が拠点として利用してくださいますね」

面白いのが、実家に帰省したけれど「布団がない」と泊まったり、実家はもうないけれど「ふと懐かしくなって」来た人が泊まったりするのだとか。さらに、撮影会などでも利用されるのは、とても雰囲気のあるこのゲストハウスならでは。

「コスプレを趣味にしている人が、20名以上で団体利用してくれるんです。ここを貸し切って、好きな格好でご飯を作って食べたり、建物内の良い場所で撮影をして。すごく楽しそうに使ってくれます」

入り口からすでに趣深い

不思議な流れにのって鹿沼に住むことに

辻井さんは、ここ鹿沼市の出身ではありません。また、大抵のゲストハウスのオーナーのように、元バックパッカーなわけでもありません。辻井さんが鹿沼に落ち着くまでは、長く、とても不思議なストーリーがありました。

男女共用のドミトリーは、それぞれの布団にコンセント2口つき

「出身は京都です。那須の『非電化工房』という電気を使わない生活実験をしている施設があるんですが、そこへ行くと日帰りは難しいので、泊まる場所を探したんです。その時、ちょうど私の周りには『ゲストハウスが面白い』という人が多かったので、泊まってみることにしました」

ところがその頃、栃木県内のゲストハウスはとても少なかったのだそう。アクセスや日程などを考慮して、泊まる場所は日光になりました。その時の旅行のメインは那須でしたが、ゲストハウスの人から「ここも行ったらいいよ」とすすめられたのが鹿沼でした。

「どこか面白いところはありますか? って聞いたら『毎月第1日曜日に“ネコヤド商店街”をやってるから見てきたら?』っておすすめされました。それじゃあ行ってみますと来てみたら、ちょうど県外から来た視察団と地元の人に会って。あちらこちら連れ回されました笑」

鹿沼は、若者がどんどん集まる、活気集まる地域です。その起点のひとつは、1999年に日光珈琲の風間教司さんがオープンした「café饗茶庵本店」。風間さんは、1店1坪ほどのお店が並ぶ「ネコヤド大市」(後のネコヤド商店街)を開催していて、この大市は、自分のお店を持ちたい若者がチャレンジする場となりました。辻井さんが鹿沼を訪れたのは、2013年、ネコヤド商店街になってからのことです。

鹿沼に関わる人たちで作成した市街地の地図。CICACUにもおいてある。「数年前の地図なので多少変化はありますが、たくさんのお店が営業してますよ」(辻井さん)

視察団に混じって鹿沼を闊歩する。午前中には帰ろうと思っていたのに、「あそこもいいよ」「ここいこうか」と、連れて行かれ、とても楽しい初・鹿沼を経験しました。

「帰ろうとすると、『もう?』って言われるんですよ。合流してから結構時間が経っているのに笑。ふと思って『この辺って、泊まれる場所はあるんですかね?』って聞いたら『ないよ。ないからやる?』『空き家ならそのへんにいっぱいあるよ』と言われたのが、ゲストハウスを始める一歩目です」

鹿沼では自分でお店もセルフビルドしている人が多くて、コツコツと形にしていくお店が多いのも、辻井さんの背中を押しました。気さくに接してくれる人もいて、「このまちだったら大丈夫かもしれない」と思ったのだそう。

鹿沼を訪れたのが2月。その3ヶ月後の5月には、関西で3つ掛け持ちしていたアルバイトをすべて辞め、バックパックひとつで栃木県に移ってきました。とても軽いフットワークで、まずは前回に泊まった日光のゲストハウスで、ヘルパーとして働きはじめたのです。

ゲストハウスは地元の人が集まる場にも

そうして「いつ住もうかな」と半年間、時期を伺っているうちに、鹿沼市の観光協会の臨時の職員の求人を見つけた辻井さん。ようやく鹿沼にうつり、働きながら物件を探しすうちに出会ったのが、現在の建物です。

階段。前の旅館のオーナーのこだわりで、ちょっと変わった意匠がちりばめられている

「ただ、一人で管理するには広すぎました。日光珈琲の風間さんに相談して、まずは日光珈琲の経営で始めることにして、そこからゲストハウスを始める準備をして、立ち上げまでは、1年くらいかかったかと思います」

旅館業の許可の申請や図面を引いたり工事したりして、オープンしたのは2015年。その2年後には辻井さん1人の経営となりました。現在は宿泊客を受け入れる一方、地元の人が集う場所としても機能しています。

大人数で集まって2階の部屋から花火を見たり、月1でカレーを食べる会を催したり。こうして参加する人の多くは、県外から移り住んできた人だといいます。

「たくさんの人が宿にいても全員が地元の人達で、誰も泊まらないこともあります。私が地元生まれ・地元育ちじゃないっていうのもあって、大人になってから引っ越してきた人が多く集まる場所になっているみたいです。かといってそういった人だけじゃなくて、もちろん地元で生まれ育った人も来てくれるし、とっても楽しいですよ」

広い2階は、団体向けの宿泊部屋としても宴会場としても活躍

滞在している間に接した鹿沼の人はほがらかで、垣根を感じません。辻井さんは、こんなエピソードを話してくれました。例えば、扇風機や椅子、ストーブ、お皿……。ゲストハウスの備品の大半は、別々の人から譲り受けた物ということ。

「『お皿を整理したんだけど、いるのある?』『ストーブがあまってるんだけれどもいる?』と、いろいろな人が声をかけてくれます。買ったものはほとんどないんじゃないかなぁ」

鹿沼での暮らしはどんな感じなのでしょうか。

「スーパーや病院など、生活に必要なものが近くにあって便利。実家では電車に乗って買い物に行くような生活だったけれど、鹿沼だったら、自転車とか徒歩でも行ける。ちょうどよい距離感で、生活しやすくていいですよ。徒歩15分圏内に飲み屋もあるから、終電を気にしなくても飲みにいけますし笑」

アウトドアもまちの良さも楽しめる鹿沼市

宿から車でちょっと遠乗りすれば、里山に行けるのも、魅力のひとつ。辻井さんの山の楽しみは、車で20分ほど山へ向かったところにある「LAKE WOOD RESORT」とその先へさらに進んだどころにある「前日光つつじの湯交流館」です。

「LAKE WOOD RESORTには、釣り池とドッグパーク、バーベキュー、ツリーハウスなどがあってすごく素敵な場所です。カフェではおいしい料理を食べられるし、すごいのんびりできます」

とても静かで、のんびり過ごせる。車で簡単にアクセスできるので、アウトドアに縁がなくても自然を満喫できる施設だ

つつじの湯交流館は、温泉施設。アルカリ単純硫黄泉なので、浸かった後は肌がツルツルに。「普段からよく訪れる場所です」と辻井さん。実際に行ってみると、山をぐいぐい登ったところにあって、市街地に比べると少し寒いくらいの気温。その分、空気が澄んでいて、露天風呂はとても気持ちよく入れました。

さらに、ゲストハウスから「車で10分ほどのところでは、ホタルを見れますよ」と、泊まった日の夜に連れて行ってくれました。

辻井さんは、とても肩の力が抜けていて、鹿沼の土地にしっくりと馴染んでいるようです。その人柄はとても素敵で、ゲストハウスではこちらもゆったりと過ごせるよう。

鹿沼にはキャンプ場もあるし、自転車をレンタルして街乗りや山の方へ遠乗りもできます。小さな規模の土地だからこそ、アウトドアも街もじっくりと楽しんではいかがでしょう。

店舗情報

ゲストハウス
CICACU

住所:〒322-0067 栃木県鹿沼市天神町1704
MAIL:info@cicacu.jp
URL:http://www.cicacu.jp/

―――
数珠つなぎでゲストハウス津々浦々について
訪ねたゲストハウスの方に、おすすめのお店と次に伺うゲストハウスを紹介していただく連載です。
今回は、ゲストハウス錦(埼玉県秩父市)のご紹介で訪問しました。
次回は、ゴリョウゲストハウス(北海道富良野市)にお邪魔します。お楽しみに!

執筆・構成:松本麻美

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