にっぽん刃物語『 公園管理人の “ どこでもナイフ ” 』~ ナイフを使いたいときはいつも突然やってくる ~

2019.02.13

刃物の持ち主
柏崎・夢の森公園 管理事務所
中村拓郎さん
栃木県生まれ。専門学校卒業後、上高地や奥多摩の国立公園で働く。青年海外協力隊員としてサモアでも活動。
※ 所属や肩書は取材当時のものです。

フランスのオピネルや日本の肥後守を彷彿させる素朴な質感。右は焚き火をしながらヤマザクラの枝を削って作った自在カギ。オンもオフもナイフは良きパートナーだ。

切る、削る、割る、穿つ、はがす…。公園管理では刃物の出番は多いが、ナイフについては基本的にどの現場もスタッフの個人装備品だ。中村拓郎さんの1本は、20歳から使い込んできたスカンジナビアン・ナイフである。

炭素鋼の宿命として、錆びやすい。「ステンレス鋼のナイフが中心の今、水や泥にまみれる野外活動では、炭素鋼はめんどくさい素材かもしれません。でも、錆って“手入れをしろ”というサインだと思います。錆びれば研げばいい。それでいいんじゃないかな」

「里山は人の暮らしが作り上げた自然です。これまでの職場は、いずれも保全が基本の国立公園だったので、自然に手を加えながら管理する里山公園の考えを聞いたときは新鮮でしたね。そのぶん作業も多岐にわたるので、刃物は欠かせない道具です」

こう語るのは、新潟県にある『柏崎・夢の森公園』スタッフの中村拓郎さん(34歳)だ。夢の森公園が誕生したのは今から7年前。使われず荒廃していた里山と農地を柏崎市が市民との協働で再生。農業や手作り体験、自然遊び、環境学習などの場として開放している。

草刈りに田んぼ仕事。森の整備に木造建物のメンテナンス。こうしたバックヤードの仕事のほか、来訪者の案内や体験プログラムのインタープリテーション業務も中村さんの仕事である。

「ナイフを使いたいときって、いつも突然くるんですよ。農作業に紐がいる。木にからんだ蔓を切っておかないと。枝で焚き火のスターターを作りたい。竹に穴をあけよう。樹皮を静かにめくって隠れている虫を子供たちに見せたい…。ポケットから取り出すことさえもどかしい場合も多いので、僕はいつも首から紐でぶら下げています」

愛用品は20歳から使っているスウェーデン製のモラ(MORA)だ。現地発音に倣いモーラとも呼ばれる。刃はラミネーテッド・スチール。つまり日本の肥後守のように、硬い炭素鋼を軟鉄で挟んだ複合材である。紡錘形のハンドルは天然木で、刃を納める鞘も、素朴な作りだが本革だ。スカンジナビアの質実なデザインセンスは、こんな小さな刃物にも流れている。

「たしか3000円か4000円で買えました。気に入っている点は刃が欠けないことですね。炭素鋼の刃物ってよく切れるけれど欠けやすくて、現在主流のステンレス鋼ナイフのように、しゃくったりねじりながら切る作業は苦手なんです。モラのこのタイプは、少々乱暴に使っても欠けません。半面、刃持ちはそう長くないんですけれど、研げばすぐに切れが戻ります」

中村さんは年齢は若いが刃物に対する造詣は深い。子供のころの遊び場は祖父が営んでいた製材所だった。大工道具を引っ張り出しては、日が暮れるまで木を切っていた。自由に刃物で遊ばせてくれた祖父だったが、労働災害で手の指が1本なかった。

「刃物は使い方を誤れば危険な道具。だからといって、子供に触れさせないでおこうという考えは間違いだと思います。正しい使い方を学び、そのありがたさを実感する場は家庭や社会に絶対に必要です」

家では包丁代わりにモラナイフを使う。鍋料理のときは、食材を手のひらの上で切る。小さなナイフには本来そういう使い方もあるんですよ、と屈託なく笑う。ナイフを手の延長のように使いこなすナイスガイだ。

刃物の持ち主
柏崎・夢の森公園 管理事務所
中村拓郎さん
栃木県生まれ。専門学校卒業後、上高地や奥多摩の国立公園で働く。青年海外協力隊員としてサモアでも活動。
※ 所属や肩書は取材当時のものです。

文/かくまつとむ 写真/大橋 弘

※ BE-PAL 2014年11月号 掲載『 フィールドナイフ列伝 04 公園管理人の “ どこでもナイフ ” 』より。

『 フィールドナイフ列伝 04 公園管理人の “ どこでもナイフ ” 』掲載号
BE-PAL編集部
BE-PAL 2014年11月号

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BE-PAL編集部
BE-PAL 2019年3月号
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