にっぽん刃物語『 ボーイスカウトの手斧 』~ 子供たちの不器用さをあげつらう資格は今の大人たちにはない ~ | 刃物・マルチツール 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
  • OUTDOOR
  • NEWS
  • SUSTAINABLE
  • CAR
  • CAMP
  • GEAR
  • COOKING
  • 刃物・マルチツール

    2019.01.23

    にっぽん刃物語『 ボーイスカウトの手斧 』~ 子供たちの不器用さをあげつらう資格は今の大人たちにはない ~

    刃物の持ち主
    ボーイスカウト日本連盟 山中野営場場長
    佐久間宣吉さん
    さくま・のぶきち 12歳でボーイスカウトに入団。キャンプ技術全般に詳しく、刃物についても造詣が深い。
    ※ 所属や肩書は取材当時のものです。

    「そなえよ、つねに」を合言葉に、野外体験活動による全人教育を行なってきたボーイスカウト。このエキスパート集団にも、現代社会特有の問題が忍び寄る。野営用の一本の手斧から、刃物を取り巻く状況を考える。

    アウトドア体験を通じて社会に貢献する人材の育成を目指してきたボーイスカウト

    2010年、その活動の象徴ともいえるジャンボリー(スカウト教育イベント)でショッキングな出来事が起きた。鉈によるケガで59人もの参加者が救護を受けたのだ。事態を重くみたボーイスカウト日本連盟は、すぐに原因の調査と分析に入った。

    「さまざまな背景が浮かび上がりました。刃物の管理体制、指導方法、使用する薪の材質。でも、一番の原因は技能不足です。日常生活のなかで子供たちが刃物に触れる機会が失われているのです。ことボーイスカウトだけでなく、今の社会全体の問題だと私はとらえています」

    こう語るのは、ボーイスカウト日本連盟山中野営場(山梨県)の佐久間場長(67歳)だ。ボーイスカウトでは、薪を割る刃物は各班の装備品であり、班の備品係が班長の指導のもと管理する。

    「ボーイスカウトのキャンプでは、現地調達できる落ちた枝などを薪に想定しています。ストーブ用とは太さも割り方も違うので、刃物も異なります。世界的には携行しやすい手斧が一般的で、日本のボーイスカウトでは鉈も併用されてきました」

    山中野営場には、さまざまな時代の手斧や鉈がある。佐久間さんが好んで使っているのは、プラム社とコリンズ社の古い手斧。共にアメリカ製だ。

    手前はコリンズ社の「ハドソンベイ」というタイプ。柄は両手持ち用を4分の3に詰めたもの。奥はプラム社製。ヘッドのくぼみは釘抜き。柄の素材はともにヒッコリー。

    「昔は米軍の放出品の中にいい刃物がけっこうありましてね。これらの手斧はヘッドの大きさが適当で刃が薄身。鋼も硬すぎず、ちょっと研げばすぐに刃が戻る。野外で使う刃物は、研ぎやすさも大事なポイントです」

    ヘッド以上に重視するのが柄である。手斧は持ち手の肘を軸にした回転力で切る刃物なので、ヘッドと柄の調和が大切だと、佐久間さんは考える。

    洋式の斧には美しい曲線を持った柄がすげられている。太さにも抑揚がある。首の部分は衝撃を受け止めるためがっちり張っている。中ほどのくびれは、野球のバットのようにしなりを活かすためものものだ。グリップエンドは握力が逃げないようフック状になっている。力の吸収、反発、保持性、重心などの均衡を追究した結果が、この優美なシルエットなのである。

    ボーイスカウトの焚き火は、入手のしやすい木の枝を想定している。そのため、薪割り用の斧は小型で薄身のものが選ばれる。一度刃を食い込ませ、一緒に打ち付けるようにして割る。切り株の上は斜めに力を入れられないため失敗しやすい。丸太を横にするとよい。

    「いちばん大事なのは、すげ口から握りの端まで木目がつながっていること。つまり安全性や耐久性を考えて木取りがされているか。最近の柄には木目が途中で斜めに切れているものもあって、折れやすいんですよ」

    コスト至上主義の悪影響か。あるいは本質を見定める人間の眼が曇っているのか。刃物を提供するプロさえ本末を転倒させている今、子供たちの不器用ぶりをあげつらう資格は大人にはない。「社会全体で考え直すべき」と佐久間さんが言うのは、物事の道理の判断を含む「人間力」のことである。

    刃物の持ち主
    ボーイスカウト日本連盟 山中野営場場長
    佐久間宣吉さん
    さくま・のぶきち 12歳でボーイスカウトに入団。キャンプ技術全般に詳しく、刃物についても造詣が深い。
    ※ 所属や肩書は取材当時のものです。

    文/かくまつとむ 写真/大橋 弘

    ※ BE-PAL 2014年8月号 掲載『 フィールドナイフ列伝 01 ボーイスカウトの手斧 』より。

    『 フィールドナイフ列伝 01 ボーイスカウトの手斧 』掲載号
    BE-PAL編集部
    BE-PAL 2014年8月号

    現在BE-PALでは新企画『 にっぽん刃物語 』が連載中です!フィールドナイフ列伝でお馴染みの『 かくまつとむ&大槗弘 』のタッグでお届けしております!

    新企画『 にっぽん刃物語 』が読める最新号
    BE-PAL編集部
    BE-PAL 2019年2月号

    NEW ARTICLES

    『 刃物・マルチツール 』新着編集部記事

    キャンプの鉈はトヨクニの「豆鉈」がおすすめ!小さいことはいいことづくめだった

    2024.03.15

    オピネルのナイフのサイズ比較。キャンプでおすすめは何番?

    2024.03.14

    トヨクニの包丁をアウトドアにもっていくならこれ!小ぶり包丁+ナイロンケースが最強

    2024.03.05

    ヘレナイフからナイフカバーが登場!お気に入りの1本を大切に保管しよう

    2024.02.17

    ベアボーンズだから頼もしい! 万能フィールドナイフを腰に下げてフィールドへ

    2024.01.26

    無人ビーチで実証!かほなん監修の新型「さばいどるナイフ」はサビに強し

    2024.01.12

    ノルウェーの「ヘレナイフ」からアウトドアシェフナイフ登場!鋭い切れ味と洗練されたデザインに感動

    2023.12.26

    小粋なのこぎりをお探しならベアボーンズ「ティンバーソー」一択だ! 気分がアガること確実

    2023.12.25