たった5kmでも十分な歩きごたえが得られた「竪川」トレイル【プロハイカー斉藤正史の東京GREEN WAY FILE.51】 | アウトドア・外遊び 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

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2026.10.17

たった5kmでも十分な歩きごたえが得られた「竪川」トレイル【プロハイカー斉藤正史の東京GREEN WAY  FILE.51】

たった5kmでも十分な歩きごたえが得られた「竪川」トレイル【プロハイカー斉藤正史の東京GREEN WAY  FILE.51】
プロハイカーの斉藤正史さんが、独自の視点で東京23区内の緑道を「GREEN WAY」として捉え直し、実際に歩いた足跡を紹介します。身近なGREEN WAYでも四季折々の見どころがあり、街の意外な歴史にふれることができる、かもしれません。

今回も、前々回、前回に引き続き隅田川と旧中川を結ぶ竪川沿いを散策する「堅川ウエストGREEN WAY」です。
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51th ルート:堅川ウエストGREEN WAY

●前回はこちら

隅田川と旧中川を結び、首都高速7号小松川線のほぼ真下を通っている竪川(たてかわ)。前々回に旧中川付近から歩き始め、前回は両国の一之橋までたどり着きました。

ゴールの隅田川はすぐそばなのですが、さすがに両国周辺は見どころが目白押しなので、竪川と隅田川の合流点周辺をじっくりめぐりたいと思います。今回は「堅川ウエストGREEN WAY」です。

竪川に架かる一之橋から一之橋通りを南に進むと、前回紹介した江島杉山神社の筋向かいに老舗喫茶店のような外観のお店がありました。入り口の上の看板には「FOLKLORE CENTER」とあります。民間伝承や民俗学を意味するフォークロアのセンター?

両国フォークロアセンター

気になったので調べたところ、こちらは「両国フォークロアセンター」というライブハウスでした。1970年からの歴史があり、フォークを中心に数々のミュージシャンが出演しているそうです。バンドの「たま」をはじめ、フォークに疎い僕でも知っているミュージシャンの名前が過去の出演者にずらっと列記されていました。

勝手なイメージですが、両国にライブハウスって妙な違和感がある気がします。同じ中央線(総武線)でも新宿より西側の高円寺とか吉祥寺ならしっくりきますが…。

…なんてことを思いながら歩いていたら、両国にぴったりのものが目に止まりました。大相撲の名門である出羽の海部屋です。現存する部屋では最多となる9人の横綱を育て、日本相撲協会理事長を3人輩出した出羽海一門の本家です。

やはり、風格が漂う重厚な雰囲気の建物!なのですが、入り口に自転車が停められていました。僕のような素人には大相撲の部屋って俗世間から切り離された場所のように思えるのですが、当然ながら稽古だけでなく寝食も行う生活の場でもあるんですね。そういったことを入り口の真ん前に停まっている自転車を見ながら感じました。

名門、出羽の海部屋(と入り口前の自転車)。

近隣には、春日野部屋などの錚々たる部屋が点在しています。そうした中、伊勢ヶ濱部屋の看板がかかっている倉庫のような素っ気ない雰囲気の建物がありました。質実剛健…ってわけでもなさそうだけど、と思って調べたら、そこは稽古場で、本宅である部屋は別の場所にあるようでした。

伊勢ヶ濱部屋(の稽古場)。

このままだと、この連載が東京の緑道をめぐる「東京GREEN WAY」ではなく、相撲部屋探訪になってしまうので、そろそろ足を動かします。そう思ったのですが、そもそも今回のスタート地点である一之橋の説明がまだでした。

一之橋

墨田区両国二丁目と千歳一丁目を結ぶ竪川にかかった橋で、隅田川から数えて一番最初の橋であることが名前の由来。かつては、周辺の両岸に全国から水運で運ばれた物資を扱う商店や土蔵などが建ち並んでいたといいます。

一之橋は、赤穂浪士が泉岳寺に引き揚げる際に最初に渡った橋としても知られています。また、国技館のなかった江戸時代から、寺社修復などを目的とした資金集めの興行である勧進相撲が近隣で盛んだったそうです。

一之橋のたもとにある赤穂浪士に関する案内板。

かつて一之橋が物流の要衝であったことを示すものが、すぐ近くにありました。今でいう青果市場の跡地(の案内板)です。

本所一つ目青物市場

現在の墨田区千歳一丁目(旧町名は本所)、一之橋から隅田川にかけてのエリアには、青物(あおもの)市場がありました。神田や京橋とともに江戸の「五大やっちゃば(青物市場)」の一つにも数えられ、近郊の農村から野菜が集まる拠点としてにぎわったそうです。

青物市場の案内板。

ここまで一之橋の半径100mぐらいの範囲をうろうろしているだけだということに気づいたので、さすがに歩きます

一之橋を挟んで南北に伸びる一の橋通りを500mほど南下すると、隅田川に架かる新大橋の近くまで来ました。橋のたもとに「御船蔵跡」と記された小さな案内板がありました。

御船蔵跡

「御船蔵」と書いて「おふなぐら」と読みます。御船とは江戸幕府が所有する艦船で、この近隣の約4900坪の土地に14棟の船蔵が建ち並んでいたそうです。

蔵の外には巨大な軍船の「安宅丸(あたけまる)」も係留されていたことから、近隣一体が「あたけ」の通名でも呼ばていたとか。歌川広重の「名所江戸百景」にも「大はしあたけの夕立」という作品があります。

歌川広重筆「名所江戸百景・大はしあたけの夕立」出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-10569-7342?locale=ja)

よく考えたら、御船蔵や「あたけ」は隅田川にまつわる話題です。でも、僕が今回めぐっているのは竪川なのでした。

ということで、再び一の橋通りを北上し、竪川トレイルのゴールである隅田川の合流点に向かいます。というか、3回にわたって川沿いを歩いて来たにも関わらず、ここまで竪川についてきちんと説明していませんでした。

竪川

明暦三年(1657年)に起きた大火事、いわゆる「明暦の大火」の復興事業の一環で、1659年に隅田川と中川を結ぶ直線航路として開削された竪川。物資の輸送だけでなく、成田山や鹿島神宮などへの参詣路としても利用されたそうです。

名前の由来は、江戸城に向かってタテ(東西)方向に流れているから。ちなみに、前回紹介した横十間川や大横川が南北に流れているのに「横」なのも、江戸城が基準だからだそうです。

現在は竪川の上空を首都高速7号小松川線が通っている上、多くの区間が暗渠になっています。とはいえ、これまで紹介してきたように、暗渠部分も親水公園や緑道などとして整備されているところが多いですし、今なお川(運河)の雰囲気をあちこちで感じることができます。

隅田川と堅川の合流地点にある堅川水門。

竪川の全長は5.15kmです。日ごろからロングトレイルで1日に20マイル(約32km)歩くことも珍しくない僕からすると、5kmなど大した距離ではありません。いや、一般の人でも自宅、勤め先、近所のスーパーマケットなどを行き来していれば、すぐに5kmぐらい歩けてしまうはずです

でも、歩きながら近隣の歴史を知り、ありし日の川の姿を思い浮かべ、目に留まった気になる場所にフラフラと足を伸ばす。そんなふうにしてゆっくりじっくり歩を進めると、「たった5km」の竪川がとても味わい深く感じられます。これまで「東京GREEN WAY」でめぐってきた川沿いと同じく、竪川もまた歩きごたえのある水路でした。

…といったことを隅田川沿いのベンチに座って考えていたら、突然「釣りですか?」と尋ねられました。動画撮影用のカメラを長い棒に装着しているのですが、釣り竿と見間違えたのでしょうか。せっかく頭の中で今回の原稿のまとめができかかっていたのに、「釣りじゃないです」などと答えているうちに雲散霧消してしまいました。

僕が歩いたのは暑い時期ですが、多くの屋形船が隅田川を行き交っていました。

今回は一之橋近辺をぐるぐるしていただけであまり歩いていません。でも、記事に書けそうな興味深いことがいろいろと見つかったので十分だろうと考え、取材を切り上げてJR両国駅に向かうことにしました。

すると、駅の近くに「さすがは両国」と思わせる住所表示プレートがありました。

両国ならではの地名…!?

「横綱」の住所表示プレートを撮影して帰宅したのですが、あとから画像を見返して自分の勘違いに気づきました。落ち着いて画像を見れば分かりますが、正しくは「横網」でした。

「よこあみ」という地名は、かつて近隣で盛んだった海苔採りの網を干す風景が由来、といわれているそうです。両国国技館の住所も墨田区横網一丁目で、僕と同じく「横綱(よこづな)」と誤読する人が後を絶たないのだとか。ややこしいので横綱に変更してはどうかという議論が起きたこともあるそうですが、江戸時代から続いている地名ということで今も大切に残されているといいます。

…すみません。横網の地名ネタは、竪川とまったく関係ありませんでした。

取ってつけたように付記しますが、竪川沿いではとても心地よい散策が楽しめるので、ぜひじっくりと味わうように「たった5km」を歩いてみてください。

■今回歩いたルートのデータ
|距離約1.5km
|累積標高差約2m

今回のコースを歩いた様子は動画でもご覧いただけます。

●堅川ウエストGREEN WAY

著者画像

斉藤正史さん

プロハイカー

2012年より日本で唯一のプロハイカーとして活動。トレイルカルチャー普及のため、海外のトレイルを歩き、アウトドア媒体を中心に寄稿する傍ら、地元山形にトレイルのコースを作る活動「山形ロングトレイル(YLT)」を行なう。スルーハイク(単年で一気にルートを歩く方法)にこだわり、スルーハイクしたトレイルだけで22.000km(地球半周以上)を超える。また、BE-PAL.netにて「TOKYO山頂ガイド」を連載。

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