DAY 14【Grosmont to Robbin Hood’s Bay 総距離25km】
昨夜は他にお客さんが本当にいるのかと、疑ってしまうほど静かで、お陰さまでぐっすり熟睡し、すこぶる爽やかな朝を迎える。

朝食会場もまるでショールームかのようにセンスが光っている

ブルーベリーが乗ったオートミールにセルフサービスでパンやフルーツをそれぞれが皿に盛れるという朝食スタイル
Grosmont House B&B のオーナー曰く、この建物は古いクラシックカーを沢山所有していた人から買い取って、ダイニングルームはガレージスペースだったという。オーナーは約3000万円かけて大改装をし、そのローンを返さなければならないから多少高い料金設定になってしまっているのだと説明してくれた。
一瞬にしてファンタジーの世界から俗っぽい世界に引き戻された感があったが、それでもここは多少高くてもその価値は十二分にあり、オススメ。

ラトビアからやってきたどことなく岡田准一似のイケメン青年。英語を学ぶための語学校に行くためにアルバイトをしているという。お金を貯めながらも、お客さんたちとのコミュニケーションを通じて、英語を学べているので一石二鳥だという。
居心地が良すぎる宿に後ろ髪が引っ張られる思いはしつつ、今日はいよいよ最終日! 相変わらず、今夜泊まる場所も決まっていないまま、目的地、Robin Hood’s Bayを目指す。

気合いを入れるも、勢い虚しく、早くも急登。

たまにこうしたCattle grid(家畜脱出溝)があり、足を踏み外し転ばないように注意をして歩く。
濃霧の中、ヒース(Heath)の花に(※ イギリスではヘザー(Heather)と呼ばれている)覆われた荒野を歩く。

水彩画の中を歩いているような、幻想的な時が続く。

紫、ピンク、オレンジと三色が混じり合い、みごとに調和している。

人だけでなく、馬も通過できる道を意味するBridleway。

Little Beckの森に入っていく。森の入り口の案内板は どことなく絵本のイラストのようだ。

“The Hermitage”(隠者のすみか)と呼ばれ、中が空洞に掘られた巨大な石。
他のウォーカー達との会話の中で、公園内にある滝の近くには、スコーンが美味しいカフェがあるという話題が盛んに出た。お互いにスコーンを食べ尽くさないようにと、と牽制し合いながら、早足でカフェを目指した。
滝の近くに確かにあったFalling Foss Tea Gardenに迷わず入る。
日頃は乳製品を食べない私だが、優雅なアフタヌーンティーの雰囲気を少し味わいたく、例外的にクリームティーを注文。紅茶とともに出てきたスコーンとイチゴジャムとクロテッド・クリーム(バターと生クリームの中間で濃厚)。
さて、このスコーンは二通りの食べ方があるという。
先にクリームを塗り後からジャムをのせるデヴォン風と、先にジャムをのせ、後からクリームをのせるコーンウォール風があるという。正直、どっちが先でも口に入ってしまえば、味は一緒のように思えるが私は何となく見た目的に、白いクリームを塗り、その上にイチゴジャムをのせた。甘いジャムと濃厚なクリームで口の中がしつこい感じになってくる度に飲むストレートティとの組み合わせは絶妙 。
完全にチャージしたところで、いよいよ、最終目的地、Robbin Hood’s Bayまであと一息。

森を抜け、ヘザーが咲き乱れるトレイルを石塀に沿って海を目掛けて歩く。
遠くに、Robbin Hood’s Bayの隣の大きな港町、WhitbyとNorth Sea(北海)が見えてきた。

のどかで緩やかな丘陵をゆっくりと歩く。

可愛らしいヤギたちがもはや沿道の応援団にように見えてきた。

羊達も熱い視線でもって応援。

Robbin Hood’s Bayまで残り2.5 mile (約4km)の時点で小休止。

Rigg Farm Caravan Parkを抜け、海に向かって歩く。
スタートしてから一度も見ることがなかった海と再会し、テンションが上がるも、なかなかRobbin Hood’s Bayが見えてこない。
ここまで来ると、想定内ではあったが、早くゴールをしたい気持ちと同時に、毎日毎日、見知らぬ土地を歩く喜びが終わってしまうのかと思うと、やはり終わって欲しくないという心境が募ってきた。
そんな複雑な気持ちと同時に、実はこの時、私は人生で最大ともいえる、ある妄想をしていた。
その妄想は、アリーがスタート地点であるSt.Beesを出発する際に、輪のような模様が入った石を二つ拾っていたのを見ていたことが発端となる。

輪の模様が入った石。
2日前に宿、Lions Innのベンチでお互い持ち歩いている石を日光浴させているときにも確かに持っていたのを確認したことから、「もしかしたら、Robbin Hood’s Bayに着いたら、輪の模様が入った石を指輪となぞり、結婚のプロポーズをされるかも!」と想像し、ゆっくりとしたペースは裏腹に胸の鼓動は高鳴るばかりであった。
とうとうRobin Hood’s Bayが見えてきた。

この下り道を辿ると、いよいよゴールが待っている!!!

窓に並べられたマトリョーシカ。

原色のドアが眩しいお洒落な住宅街を抜ける。

下り坂だというのに、この時点で心臓は緊張と期待で早鐘のように打っている。
そして、いよいよ待望のゴールに到着!

早速二人でハイキングシューズをNorth Seaに浸す。ここまで運んでくれた登山靴を波が清めてくれるようだ。
無事にゴールができて喜び合うも、違う意味でのゴールインのプロポーズは特にない(笑)。
私が勝手に抱いた妄想の高波は、砕け波のごとく木っ端微塵となり、サーっと大海原に引いて行った。

ゴールとされている港の隣に立つThe Bay Hotel

アリーは私の妄想など露知らず、さっさとホテル内のパブへ急ぎ、ビールで乾杯〜!

St.Beesで拾い、ずっと一緒に歩いてきた石ころに感謝の気持ちを込めて、儀式通り海にそっと海に返す。

次から次へと、横断を終えた人々がやってきては石を海に返していく。

自転車で横断した人たちもタイヤを海に浸からせる儀式を行っていた。

豪快に泳ぐお年寄りの方もたくさんいた。
そして、ひとしきり儀式が終わったところで、バーのあるTheBay HotelでC2Cを走破した記念に記帳。2年前にアリーが歩いたときの記録もしっかりと残っていた。
14日間かけてイギリスを西から東へ、1日も休まず、自分の足でまさか横断できるとは、正直自信はなかったが、一歩一歩前に進めて行くうちにいつの間にか辿り着いていたというのが実感であった。
スタート前夜、St. Beesで出会ったパブのオーナーのアランがC2Cを歩き終わったら、「歩き終えたことを残念に思うよ」と話してくれたのはその気持ちが痛いほど、わかった気がしたものの、目の前に広がる海によって歩きたくても物理的に歩けない状況を作り出してくれることによってそうした心境をなだめてくれた。
さあ、次は気を取り直して、今夜の宿をどこか見つけなければと狭い通りを歩いていると。。。
途中、多くの家の前に飾られていたゴブリンの石像をここでも発見。
私はそれを見つけるやいなや、「私たちのテントポールを次々と折ったのは、君達のゴブリンの仲間の仕業だろ!」っと心の中で声をかけると、何とも言えないイタズラっぽい表情から、返事が返ってきた気がした。
「人生、すべてが思った通りに行かないから面白いんだよ!」
と。

The Bay Hotelの前に掲げられた看板。
後日談:帰宅した後、テントポールについてメーカーに報告したところ、どうやら設計に問題があったらしく、新しいバージョンのポールと交換してくれた。なので、ゴブリンだけのせいにしてゴメンナサイ、ということでした。
写真・文/YURIKO NAKAO
(実際歩いた距離28km, 万歩計43,310歩)
プロフィール
中尾由里子
東京生まれ。4歳より父親の仕事の都合で米国のニューヨーク、テキサスで計7年過ごし、高校、大学とそれぞれ1年間コネチカットとワシントンで学生生活を送る。学生時代、バックパッカーとして世界を旅する。中でも、故星野道夫カメラマンの写真と思想に共鳴し、単独でアラスカに行き、キャンプをしながら大自然を撮影したことがきっかけになり、カメラマンになることを志す。青山学院大学卒業後、新卒でロイター通信社に入社し、英文記者、テレビレポーターを経て、2002年、念願であった写真部に異動。報道カメラマンとして国内外でニュース、スポーツ、ネイチャー、エンターテイメント、ドキュメンタリーなど様々な分野の撮影に携わる。休みともなればシーカヤック、テレマーク、ロードバイク、登山、キャンプなどに明け暮れた。2013年より独立し、フリーランスのカメラマンとして現在は外国通信社、新聞社、雑誌、インターネット媒体、政府機関、大使館、大手自動車メイカーやアウトドアブランドなどから依頼される写真と動画撮影の仕事と平行し、「自然とのつながり」、「見えない大切な世界」をテーマとした撮影活動を行なっている。2017年5月よりオランダに在住。
好きな言葉「Sense of Wonder」
2016 Sienna International Photography Awards (SIPA) Nature photo 部門 ファイナリスト
2017 ペルー大使館で個展「パチャママー母なる大地」を開催。