自由にどこでも泊まれるバンライフは、毎日が新しい発見の連続。ポルトガルの海辺で、車内から朝日を眺めながら静かな朝を迎えたり、まるで絵本から飛び出したかのようなドイツの可愛い田舎町を散策したり、現地の人々とのふれあったり、雄大なアルプス山脈をドライブしたりと、バンライフだからこそできる特別な体験ばかりです。
しかし、旅は楽しいことばかりではありません。突然の車両トラブル、生活インフラの確保、予想外の悪天候など、さまざまな困難や挑戦が待ち受けていることもあります。今回は、そんな3年のバンライフの中で、今でも鮮明に思い出す、できれば2度と味わいたくない「2つの夜」を厳選してご紹介します。
イタリア北部のアルプスで“雹の嵐”に閉じ込められた夜

イタリア北部・ヴェネト州のアルプス山岳地帯で体験した、悪夢のような夜のことです。周囲は標高2,000m級の峰々に囲まれた、人里離れた山間部。日中はトレッキングを楽しみ、疲れ果てた私たちは、そのまま登山口で車中泊することにしました。周囲には街灯も家もなく、車通りもない静かな場所でした。
その日はトレッキングの疲れもあり、9時ごろに就寝。しかし、深夜0時ごろ、突然の雷音と車内を照らす眩しい光で飛び起きました。外は予報になかった激しい雷雨。前日は晴天だったのに「山の天気は変わりやすい」とは聞くものの、ここまで一気に荒れるとは…。
雷はどんどん近づき、雨は車の天井を激しく叩きつけます。暗闇だったはずの外は、稲妻の連続で昼間のように明るく見えるほど、今までに体験したことのない大嵐でした。「避難したほうがいいかな?」、「でも山を降りるには距離があるし、移動したほうが危険かも…」と判断に迷っていると、突然「ゴンッ!ゴンッ!」と天井を叩きつける大きな音が!なんと雹が降り始めたのです。
車を激しく打ちつける音が車内に響き、「ソーラーパネルやフロントガラスが割れたらどうしよう…」と私たちは車内で大パニック!急いで外側カバーをフロントガラスに装着し、ソーラーパネルにはキャンプ用マットをかぶせて応急処置。あたりは一切何もない山奥、避難できる建物もなければ、人影もない。雹は想像以上の音で、天井に穴が開くんじゃないかとヒヤヒヤするほど。私たちはただただ恐怖で震えながら「早く止んで!」と祈ることしかできませんでした。
数十分、永遠のように感じられた時間が過ぎ、ようやく雹の音は小さくなり、雷も遠ざかっていきました。安心して力が抜けたものの、そのあと眠れるはずもなく、朝日が昇るのをひたすら待つ長い夜となりました。
翌朝、明るくなってから山を下りると、道路には折れた枝や飛ばされた木片が散乱し、昨晩の嵐の凄まじさを物語っていました。「嵐の中走らなくて本当によかった…」そう心から思いました。

今回の出来事で学んだのは、“山の天気予報はこまめにチェックすること。そして常に警戒しておくこと”。雹自体はこれまでにも体験したことがありましたが、あの強さで、しかも逃げ場のない山奥で経験するのは初めてでした。あの夜の雹は、旅の中でも最も恐ろしく、2度と味わいたくない、そして忘れられない“教訓”となっています。
モンテネグロの湖畔で“侵入されそうになった”真夜中の出来事

バルカン半島を南下し、モンテネグロを旅していたときのことです。街の中心部から少し離れた、自然に囲まれた湖を訪れました。そこは湖を見渡せる広い敷地があり、昼間から釣りを楽しむ人が何人かいて、全体的にのんびりした穏やかな雰囲気だったので、その日はここで車中泊することにしました。
周りには街灯や民家もなく、日が沈むとあたりは一気に暗闇に包まれ、聴こえるのは風と湖の静かな音だけ。夜の10時ごろ、夕食を終えて車内でくつろいでいると、遠くから一台の車が近づいてくるのが見えました。「こんな時間に?」と思いながら窓から様子をうかがうと、乗っているのは男性ひとり。広い敷地で他にもいくらでも停められるのに、なぜか私たちのすぐ隣に車を停めたのです。なんとなく嫌な予感が…。
しかし、10分ほどするとその車はそのまま去り、私たちはホッとしてまた車内でリラックスしていたのですが…。30分後、再び同じ車が戻ってきたのです。「いや、これは絶対におかしいよね?」と一気に緊張が走りました。
私たちは車内の灯りを全て消し、あたかも寝ているかのように装い、窓をほんの少しだけ開け、外からは見えないようにしながら、その男性の様子をそっと観察しました。すると、その男性は車から降り、周囲をキョロキョロと見渡したあと、足音を殺すようにそろ〜り、そろ〜りと、私たちの車に向かって歩いてくるではありませんか!
車から50cmほどの距離まで近づいたその瞬間、夫が「バッ!」とロールカーテンを勢いよく開け、その男性を威嚇。予想外の出来事に、その男性は明らかに動揺した様子で飛び上がり、慌てて自分の車へ戻っていきました。

キャンピングカーは普通乗用車よりも貴重品や生活用品が車内にあることから、車上荒らしの標的にされやすいのです。おそらく、車内に入れる隙はないか、盗めるものはないかを物色していたのだと思います。そして、彼は少し離れた場所へ車を移動させ、エンジンをかけたまま、ただこちらをジーッと観察し始めたのです。
「ここで寝るのは絶対に危険だ」と即座に判断し、荷物をまとめて急いでその場を離れました。その夜は、多少お金はかかっても安心できる有料のRVパークで眠ることにしました。
車中泊は、自由で自然と一体になれる最高の旅のスタイルです。しかしその反面、外との距離が近い分、こうした危険と隣り合わせになることもあります。ヨーロッパの車中泊は比較的安全と言われていますが、場所によっては注意が必要。事前にレビューを確認したり、夜の人通りや周囲の環境をよく観察したりすることの大切さを、身をもって学んだ出来事でした。
トラブルがあるからこそ旅は色濃くなる

今回ご紹介したヒヤッと体験以外にも、細かなハプニングは数えきれないほどありました。しかし、その中でもこの2つの夜は、どちらも今でも鮮明に思い出す、忘れられない体験です。
ですが、こうした出来事があったからといって、私たちがバンライフを怖いものだと感じるようになったわけではありません。車中泊は自由度が高いからこそ、非日常的な楽しい体験ができる一方で、予想外の出来事に出会うこともあります。このひとつひとつの経験を積み重ねることで学びとなり、判断力が磨かれ、より安全で、より快適に旅ができるようになったと感じています。
多少のハプニングを差し引いても、それ以上に心を動かされる景色や出会いが味わえる。それが、私たちが今もバンライフを続けている理由です。








