
私の名は橋爪ヨウコ39歳。身体はしっかり熟れてきているが、芸人としてはなかなか売れずにいるお笑い芸人だ。
夢の《ヒマラヤツーリング》を達成し「もう一度、冒険に繰り出そう!」と目的地を《ベトナム》に決めて、日本での予行練習を開始。
まずは、愛車であるスーパーカブ110で『東京から熊本』まで完走。(その様子はこちらをチェック!)
徳島港に到着、いざ出発まではよかったのだが…
オーシャン東九フェリーで「徳島」と行き先を貼ってもらう愛車。 次の目的地を〝愛媛県宇和島市″に決め、有明から徳島を繋く「オーシャン東九フェリー」で揺られること18時間。無事「徳島港」に到着したのである!
天気も良好!ウキウキワクワクの四国横断バイク旅をスタートしたはずだったが……私は今絶望している…。
何故なら…。
私は今、街灯もない薄暗い山道で「ガソリン」「スマホの充電」「モバイルバッテリー」というバイク旅の友を全て失ってしまったからだ…。
なぜ、こんな事になってしまったのか振り返る
フェリー内のデッキで。 昼過ぎに徳島港を出発した私は、すぐにガソリンスタンドで給油。(ここまでは良かった…)ガソリンが満タンになったところで出発したのはいいものの、ガソリンスタンドが全く無い山道を長時間走行。
ガソリンメーターのメモリが半分になったところで「これはヤバイ!」とガソリンスタンド探しに全力投球した結果、目的地まで程遠い山道で「ガソリン+スマホ+モバイルバッテリー」をほぼ同じタイミングで失ってしまったのだ。
「あぁ…詰んだ…詰んだよ…」
見知らぬ土地で〝ガソリン&スマホ″切れはもうお手上げ状態。すでに薄暗くなった空を見上げながら、ボソリと呟く。
「私は、今どこにいるんだろう…」
ガソリンスタンド探しに夢中になり、方向は合っているものの、今いる正確な場所が分からない。
しかも、スマホの充電も無き今…あれほど避けたかったJAFを呼ぶ事も出来なくなってしまった。(※理由は前回のコラムを読んでね!)
前回記事:徳島県から愛媛県への原付移動中、トラブル大発生!?【39歳女芸人・橋爪ヨウコのスーパーカブ110の旅VOL.5】
時刻はまもなく19時。誰かに助けを求めようにも、人はもちろん…民家すら見当たらない。
さて、どうしよう…
暗い山中の様子。 「今日はここで野宿するしかないのか?」と一瞬脳裏に浮かんだが…街灯もない暗い山道で朝まで過ごすのは季節的にもメンタル的にもキツい。
ただ、このまま立ち止まっていても状況は何も変わらない。ついに「バイクを手押しする」というストロングスタイルで向かうことにした。
街灯もほとんどない真っ暗な山道。たまに見かける【動物注意】の標識を横目にスーパーカブを手押ししながら進む。
ハァハァと息切れしながら「頼む!動物も幽霊も変態も出てこないでくれ!!」と強く願いながら、進むこと1時間。
もしや希望の光!?
小さな看板を見つけた。
【この先通学路あり】
お!これは近くに小学校がある!?近くに誰かが住んでいるかもしれない。淡い期待を抱きながら、スーパーカブを手押しし続けるとポツンと一軒家を発見!!
しかも、家の灯りがついているじゃありませんか!
「あぁ…通学路の神様、ありがとう…」
そんな神様がいるのかはさておき…お礼を言うにはまだ早いが、少しの希望が見えてきた。時刻は20時すぎ。ポツンと一軒家の方もまだ起きている可能性がある。
ご迷惑をおかけしてしまうのを承知の上で「電話だけでもお借りしたい」という願いを胸に、一か八かでノックをしてみることにした。
「トントン」
『…………』
「夜分遅くにすみません!どなたかいらっしゃいませんか!?」
『…………………』
物音もせず、誰もいない様子。
「トントン」
『…………』
「すみません!怪しい者じゃありません!どなたかいらっしゃいませんか?」
『…………………』
こういう時によく言う「怪しい者じゃない」と言ってる奴が1番怪しい。ノックを繰り返してみたが、残念ながら誰もいなかった。
仕方ない。全て私が悪いのだ。「ヨシ、朝までバイクを手押しして山を越えよう!」と覚悟したその時!?
間違いない!人の声がする!!
『おー、なんだ?どうした?』
と建物の奥から懐中電灯を持った人影が声をかけてきた。
「あ!あ、あの!私、橋爪ヨウコと申しまして、今徳島から愛媛までバイクで向かっていたら、ガソリンが切れてしまって…スマホも電源も切れてしまって…本当申し訳ないのですが…お電話をお借りすることは出来ませんか?」
とにかく「怪しい人間ではない」という説明をしなくては!と早口で全てを説明。やはり、その姿は誰よりも怪しかった。
懐中電灯を持った方は微笑みながら「ちょっと待ってな!」と私がノックしていた家の奥に入っていき、パチンパチンとライトを付けてくれた。
改めて、その家の方に事情を説明。
『え!東京から!?』
「はい…」
『真っ暗で怖かったやろー』
「はい…ご迷惑おかけしてすみません」
『熊じゃなくて良かったわ!ガハハハ!』
「本当申し訳ないのですが、JAFに電話したくてお電話お借り出来ませんか??」
『こっちきな!』
と家ではなく軽トラが止まっている場所まで案内してくれた。
「なぜ?軽トラ?」と疑問に思っていると手慣れた手つきで、軽トラのガソリンをポンプで引き抜き「これをバイクに入れな」とガソリンをお裾分けしてくれようとしたのである!
まさかの展開にテンパる私。
「え、え、いただけません!」
『かまんかまん!もらっとって!』
ガソリンをお裾分けしていただき本当にありがとうございます。 と私のスーパーカブにガソリンを給油。どんどん上がるガソリンメーター。とにかくお礼と謝罪を繰り返す私。
「すみません!ありがとうございます!」
『スマホの充電もしとき!』
「そんなそんな、ガソリンだけで十分です!」
『道が分からんかったらまたガソリン分けなきゃいけなくなるやろー!ガハハハ』
と笑いながら、見知らぬ怪しい私を家まで招き入れてお茶まで出してくださった。
人の温かさに思わず涙がほろり…
「拝啓、お母さん…私は今、愛媛で人の優しさに触れて泣きそうだよ…」
見知らぬ怪しい私にこんなに優しくしてくれる人がいるなんて…思わず天国にいる母に伝えたくなるほど温かい気持ちになり、すでに涙が溢れていた。
『なーに、泣いちゅうが??』
助けてくれた方も私の涙にビックリしていた。見知らぬ怪しい奴が、突然泣き出したらそれはもう恐怖だ。
「すみません、優しさで涙が…」
『大袈裟だな!ガハハハ』
とまた笑い飛ばしてくれたその方は、私の両親と同世代のご夫婦。娘さんが一人いて仕事で地元をすでに離れていることを話してくれた。
私が「通学路の看板を見て来た」と話すと、通学路の看板は娘さんが小学生時代からそのままで、ここの周りには子供も人もほとんど住んでいない事、近くに民家もない事なども色々教えてくれた。
これはもう奇跡である。
通学路の神様は、本当にいるかもしれないと思った。
ガソリンもスマホも心も満たされ、そろそろ出発の時間になってしまった。
「ご迷惑おかけして本当すみません…せめてお礼をさせてください」とご夫婦にお願いすると『いらんいらん!ちゃんとケガなく到着すればそれでええ!』と何も受け取ってはもらえず、私が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
最後まで優しくて粋な方。この恩は一生忘れることは出来ないし、あのご夫婦みたいに優しい人間になりたいと思った。
ありがとう!おじさん、おばさん!
ありがとう!通学路の神様!
(改めてお礼をしに行った話はまた後日話すとして…)
そんな愛媛の優しさに触れパワーアップした私は、もう一度気合いを入れ直して出発!…したものはいいものの…ゴールは全く見えていない。
果たして、真っ暗な山道を抜けて目的地まで辿り着けることが出来るのか?
次回もお楽しみに!