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    2025.05.14

    水を求めてトレイルを右往左往し、予定の倍も歩く…【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.27】

    水を求めてトレイルを右往左往し、予定の倍も歩く…【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.27】
    トレイルの本場であるアメリカには、連邦政府によって認定されたトレイル(ルート)がいくつかあります。そのうち「シーニックトレイル」と呼ばれるものが全11ルートあり、総距離は約17,800マイル(約28,646km)におよびます。

    日本で唯一のプロハイカー・斉藤正史さんは、そんなシーニックトレイル全11ルートの踏破に挑戦中です。2024年9月から10月にかけては、アメリカ東部の「ポトマックヘリテージトレイル」と「ニューイングランドトレイル」に挑みました。斉藤さんによるアメリカのトレイルの最新レポート第27回をお届けします。

    1年ぶりの再挑戦のため、トレイルの入り口へ【プロハイカー斉藤のナショナルシーニックトレイル踏破レポ vol.26】 | 山・ハイキング・クライミング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

    [New England Trail Day 1-2]

    意外な場所であっさり入手できた水

    ニューイングランド・トレイル初日。

    キャンプを予定していた場所の少し手前にある給水スポットは枯れていました。次に水がありそうなポイントは、ベンウッド州立公園内にあるルイスレイク。現在地からルイスレイクまでは、3マイル(約4.8㎞)の距離です。

    初日は5.7マイル(約9㎞)歩いて終了するつもりでした。しかし、水がなく、今後の給水の見通しも不透明なままでは、トレイルを歩けません。そう思い、ルイスレイクを目指して歩きました。

    が、実際に着いて湖を見てみると、思い切り水位が下がっていて、底の方に泥というかヘドロがたまっている状態です。とても良い香りとはいえない、発生源不明の匂いも漂っていました。

    さすがに、ヘドロ混じりの水を浄水するのは無理があるというか、それを口にする気になれません。そこで、次に水が汲めそうな、ベンウッド州立公園からタルコット・マウンテン州立公園に向かう途中にあるゲイル池に来てみたのですが…。どうやら池の周囲は私有地らしく、柵で囲われていて汲水できません。

    徒労に次ぐ徒労、骨折り損のくたびれもうけ。でも、水を入手できないと、トレイルどころか命にも関わります。どうにか重い足を動かし、隣接するタルコット・マウンテン州立公園へと入っていきました。

    タルコット・マウンテン州立公園入り口。

    でも、公園の登りに差し掛かるころ、この先は水が望めないと勘が働き、一度は通り過ぎた干上がった川に戻り、水を探しました。事前にチェックしたネットの情報では、この川は一カ月ほど前まで水が汲めたようでした。

    わずかな期待を胸に、必至に藪をこいで下流方向へ歩いていきます。すると、川の水は干上がってはいるもの、ところどころに水たまりがありました。その水に指で触れ、匂いを嗅いでみたところ、無臭。見た目も全く濁っていません。生活排水などが混入する危険があるため、地図で川の上流を確認しますが、特に集落はなさそうです。

    水たまりの水深が浅いので、浄水器のボトルでは水は汲めません。コップで少しずつ汲んで浄水する、という気の遠くなるような作業を試みました。

    どうにか2リットルほど水をつくり終え、平らなところにテントを張ろうと、登り道を上がっていきました。しかし、急坂が続くばかりで、テントが張れそうな平らなスペースは見当たりません。水の問題をクリアしたと思ったら、今度はテントを張る場所探し…。

    なかなか適切な場所が見つからないまま、徐々に辺りが暗くなり始めるころ、ハイカーのカップルに会いました。彼らによると近くに史跡があるようで、急いで地図をチェックすると実際に距離も離れていませんでした。

    そのままテントが張れそうな場所があることを期待して歩いていくと、観光スポットのタワーに向かう遊歩道と合流しました。すでに夕方5時過ぎですが、観光客が大勢歩いています。その道をそのまま進んでもタワー近くにはテントは張れないので、少し戻り、わずかに平らになっている場所を見つけてテントを張りました。

    斜面のわずかに平らな場所でテントを。

    すでに日が落ちかけていて、急激に冷え込んできます。とりあえずダウンを着込み、暇つぶしに近い感覚で観光スポットのタワーまで足を運んでみることにしました。

    すると!

    なんと、タワーの外に給水設備があり、誰でも使えるようになっていました。しかも、近くにあるトイレも問題なく使えました。

    散々気をもんだのに、結局、給水スポットもトレイルも、ニューイングランド・トレイルのルートからすぐそばの場所にあったのです。ちなみに、アメリカの観光スポットや歴史的名所は冬場になると16:00ごろに閉まってしまうところが多いのですが、この場所の給水設備やトイレは日が落ちてからも使えました。

    Heublein Tower

    タルコット・マウンテン州立公園内にあり、その高さは165 フィート (約50 メートル)。タワーを建てたのは、A.1ステーキソースやスミノフウォッカの製造業者として知られるヒューブライン社の創業者、ギルバート・ヒューブラインです。彼は、当時の婚約者、ルイーズ・M・ガンドラックとタルコット山をハイキングしていたときに、いつかここに城を建てると彼女に約束していたんだとか。

    その後、ヒューブライン・タワーはハーフォード・タイムス紙に買収され、タイムズタワーとして知られるようになりました。1983年に国家歴史登録財に登録されたそうで、現在はコネチカット州エネルギー環境保護局によって管理されています。

    夕日に映えるヒューブラインタワー。
    タワー脇にはピクニックエリアがありました(写真は朝の様子)。

    水場を探し求めた結果、ニューイングランド・トレイル初日は、予定の倍の18マイル(約28.8km)という長い距離を歩きました。予想よりも少し寒い上、今後の給水スポットの見通しも立っていないなど、いろいろ不安要素の多いニューイングランド・トレイルの幕開けとなったのでした。

    トレイルのルート上にあったフクロウの彫刻。ほんの少しだけど、疲れを忘れることができます。

    ニューイングランド・トレイル2日目。

    前日夜の寒さを考えたら、それほど冷え込みの厳しくない朝でした。ともかく、ヒューブラインタワーそばの給水スポットで仕入れた4リットルの水を背負い、歩き始めます。調べた限り、今日も給水スポットは厳しそうな見通しです。

    昨日の感じでは、これまで歩いたポトマックヘリテージ・トレイルと比べ、夜明けも日暮れも30分ほど早い感じがしました。なので、今までより30分早く行動する方が何かと都合が良いと考え、予定を微調整しました。

    とりあえず、今日も前日と同じ距離、18マイル(約28.8km)を歩こうと決め、トレイルを進んでいきます。歩き始めた時点では、今夜の宿泊予定地は決めていません。結局、寝場所を決めても、その周辺に給水スポットがなければ仕方がないからです。

    トレイルは、湖畔を歩くルートから、いつしかファーミントン郊外の住宅地を抜ける道のりになっていました。トレイル沿線は私有地が続き、目と鼻の先に個人宅の庭があります。

    1軒の庭先を歩いていると、小学1年生くらいの男の子が、花壇の手入れをしているお父さんに何か言われて僕の方に近づいてきました。「どうぞ」と言ってキャンディーバーを僕にくれたのです。僕は父子にお礼を言い、先に進みました。

    ひょっとしたら、男の子とお父さんには僕の態度が素っ気なく見えたかもしれません。でも、ひさびさのトレイルマジック(ハイカーへの施し)に感動していたのです。ここ最近は無視されたりすることも多かったので、やたらとトレイルマジックの暖かさが心に響きました。

    本文と関係ありませんが、住宅街で見かけた小屋。「木」「林」と見えたのは気のせい…でしょうか?

    住宅地から山エリアに入ると、アパラチアン・トレイルと同じように、ひたすら山の頂上を越えていくアップダウンのきつい道が始まりました。僕は、ポトマックヘリテージ・トレイルを歩いてすぐ、休む間もなくニューイングランド・トレイルを歩いています。なので、すでにハイカーボディ(トレイルを歩くのに適した筋力や肺活量を備えた体)になっています。

    一度にそれなりの距離を歩いても問題ないはずですが、かなり苦労しています。きっと、ハイカーボディではない一般の人にとっては、とてもきつい道のりだろうと思います。

    道路からの山エリアへのアプローチ。ちょっと分かりにくいです。

    お昼過ぎ、ピナクル・ロック(ガラパゴス島のではありません)の近くにあるビューポイントで写真を撮ろうと思っていたのですが、先にカップルが来ていたので待つことにしました。

    すぐ交代してくれるだろうと待ちますが、いつまでたってもその場所をどいてくれません。しびれを切らし、三脚を出して「待ってますよ」アピールをしますが、彼らに僕は目に映っていないようです。

    ほどなくして、親子のハイカーもきたのですが、カップルのいちゃつきは終わりません。子どもたちにも場所を譲る気は全くなさそうでした。

    仲間意識というと変ですが、自然と子どもと目が合い、お互いに無言ながらも「困ったもんだね」と首をかしげました。結局、僕は三脚をしまいって山を降り、親子も彼らの目的地に向かっていきました。こんなに気持ちの良い自然の中にも、はた迷惑な若いカップルっているんですね。

    仕方なくビューポイントの端っこで写真撮影。

    ビューポイントから少し先に進むと街に出ました。食料を調達できるスーパーマーケットも近くにありそうです。ここで水を買わないとまずい状況に陥ります。無料の給水スポットはありませんが、背に腹は代えられません。

    |歩き始めて2日目
    |残り68.4マイル(約109.4km)

    ニューイングランド・トレイル公式サイト

    ナショナルシーニックトレイル踏破レポのバックナンバーはこちら

    斉藤正史さん

    プロハイカー

    2012年より日本で唯一のプロハイカーとして活動。トレイルカルチャー普及のため、海外のトレイルを歩き、アウトドア媒体を中心に寄稿する傍ら、地元山形にトレイルのコースを作る活動「山形ロングトレイル(YLT)」を行なう。スルーハイク(単年で一気にルートを歩く方法)にこだわり、スルーハイクしたトレイルだけで22.000km(地球半周以上)を超える。また、BE-PAL.netにて「TOKYO山頂ガイド」を連載。

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