ホーボージュンが度肝を抜かれた「ド級のダウンジャケット」の存在 - 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.03.01

    ホーボージュンが度肝を抜かれた「ド級のダウンジャケット」の存在

    ホーボージュンが度肝を抜かれた「ド級のダウンジャケット」の存在
    東京都新宿区歌舞伎町。欲望と混沌の街の片隅に『ROVERS/漂流者たち』という旅人バーがある。そこで生まれたのが、このダウンジャケットなのだ。

    【ホーボージュンのサスライギアエッセイ・旅する道具学】第6話「歌舞伎町の漂流者たち」

    ウェア「NEUN / P-MG1」

    「アニキ、今日はいいのが入ってますよ」

    そう言うとハカセはバックバーから1本のウイスキーを取り出し、カウンターに置いた。アードベッグ・スペクタキュラー。スコットランドのアイラ島にある老舗蒸留所が限定リリースしたとてもレアな1本だ。

    「基本はいかにもアイラって感じのスモーキーでピーティな酒なんですけど、そこにポルトガルのポートワイン樽で熟成した原酒をバッティングしてあるんですよ。だからアードベッグとは思えないくらい甘くてフルーティな香りがするんです」

    そういって琥珀色の液体をグラスに注いでくれた。

    ここは新宿歌舞伎町にある旅人バー「ローバーズ」。トー横広場と言われるあたりから、さくら通りに入ってすぐの雑居ビルの地下にある。1階はピンクとオレンジの卑猥な光線をまき散らす風俗無料案内所で、その下にローバーズ(漂流者たち)なんて名前のバーがあるのは、できすぎたジョークだった。

    ハカセこと大木ハカセがここに店を構えたのはいまから6年前のことだ。開店当時は地下2階にデリヘル嬢の待機所があって、バーの小さなガラス窓からは彼女たちの出勤風景を眺めることができた。僕はカウンターに座ってバーボンやスコッチを舐め、スマホのインカメで前髪を直しながら出撃していくミニスカート姿の戦士たちを見送るのが好きだった。

    そんな店の壁には常連のアウトドアズマンたちのサインが描かれている。世界的冒険家の関野吉晴、エベレスト登頂8回を誇る近藤謙司、クライマーの花谷泰広、冒険レーサーの田中陽希、サバイバル登山家の服部文祥など……。当代を代表する歴々にめまいを覚えるほどだ。みんな苛酷な冒険行のあとは、この店に心を癒やしにやってくる。ローバーズはそんな店だった。

    ハカセは僕の古いアウトドア仲間だ。もともとは音楽業界にいてライブやフェスの運営をしていたのだが、あるとき北極冒険家の荻田泰永と知り合い、彼の遠征事務局長となって極地探検の世界に足を踏み入れた。

    さらにアウトドアを通じた教育分野にも手を広げ、毎年夏休みには中学生たちと日本橋から京都まで、東海道全路をリヤカーを引いて歩いている。ほかにも小学生を無人島に連れて行ったり、大人たちを連れてモンゴルの大草原を馬で旅したりと、マルチに活動している。

    だからハカセから「じつは今度“ノイン”というアパレルブランドを立ち上げたんですよ」と聞いたときも、さして驚かなかった。元々おしゃれな男だし、かつてアパレルショップで働いていたことも知っていたから。でもこのダウンジャケットを見せられた時にはさすがに肝を潰した。なんというか、あまりにド級だったのだ。

    「おいおい! オマエ、また北極にでも行くつもりなのかよ」

    あきれてそう言うとハカセは「エヘヘへへ」と笑いながら、うんちくを授けてくれた。

    まず採用したのは800フィルパワーのマザーグースダウン。バルキーで暖かい空気をたっぷり蓄える高級素材で、ダウン94%、フェザー6%を封入する。

    そしてキルティングに大きな特徴がある。ダウンチューブの上に別のチューブが斜めに重なっていく瓦屋根のような構造をしているのだ。こうすることでコールドスポットが生まれず、ダウンがくまなくまとわりつく。

    いっぽう表地には60/40(ロクヨン)クロスを採用。緯糸にコットンを60%、経糸にナイロンを40%の比率で織ってあり、雨に濡れるとコットンが膨らみ目が詰まって防風性能が上がるクラシックな素材だ。

    じつは極地や高山など、氷点下の世界は空気が乾燥している。だから、完全防水素材は必要ないのだ。

    逆に防水ウェアを着たまま激しい運動すると、汗や水蒸気で内部のダウンが湿気り、バルク(膨らみ)が減って保温力低下に見舞われる。だから極地用のウェアにはある程度の通気性を持たせたほうがいい。このモデルにはハカセのそんな知見が込められているのだ。

    「でもこんな極地用ダウンは歌舞伎町じゃとても着れないだろ?」と言うと、ハカセは「いや、ここも極地みたいなもんですからね」と笑って、ウイスキーのおかわりを注いでくれた。

    今、僕は雑誌の撮影のために厳冬期の北横岳に来ている。さきほどから叩きつけるような風に見舞われ、体感温度はマイナス20度C近くまで下がってきた。風上を向いているとまつげが凍るので、ウールのビーニーの上からすっぽりとフード被り、うつむいて天候の回復を待っている。まるでブリザードの中で卵を温め続けるコウテイペンギンにでもなったような気分だった。

    それでも凍死や低体温症の恐怖を感じず、それなりに楽しい気持ちで過ごせたのはハカセのダウンのおかげだった。

    「そうだ、帰りにローバーズで、ウイスキーを一杯やろう」

    ホワイトアウトした山中で、僕は歌舞伎町のことを考えていた。混沌と欲望が渦巻く街と、スモーキーでピーティなアイラモルトのことを。

    ゴウゴウと吹きすさぶ寒風の中で、コウテイペンギンの僕はひとりにやけていた。

    ダウンチューブ

    高密度に織られた表地の60/40クロスは、耐久性と撥水性を両立するのに加えて、ハリがあり上品な佇まいを演出している。

    内側のダウンチューブの隙間に手を入れると、指が埋まるような構造。まるでブラインドのように重ね合わせることで、ダウンが体にフィットし、コールドスポットを減らし暖かさをキープする。

    面ファスナー

    胸元と肩の2か所には、ブランドロゴ入りの面ファスナーが付いている。

    image

    ホーボージュン

    大海原から6000m峰まで世界中の大自然を旅する全天候型アウトドアライター。X(旧Twitter)アカウントは@hobojun。

    ※撮影/中村文隆

    (BE-PAL 2025年3月号より)

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