星空観察では、つい南の空を注目してしまいがちですが、北の空を見上げてみると意外な発見もあります。この季節は、こと座のベガ、ぎょしゃ座のカペラという、夏と冬の明るい1等星が同時に見える時間帯もあります。
いちばん北極星に近い1等星はカペラ!
10月中旬、20時ごろの空を見上げると、北東には、ぎょしゃ座の1等星カペラが昇ってきています。ぎょしゃ座は冬の星座に数えられますが、早々に顔を見せます。
ちなみに、ぎょしゃとは馭者、馬を操って車を引かせる人のことです。神話ではアテネの三代目の王で馬が引く戦車を乗りこなしたエリクトニオスとされていますが、星座絵で見るぎょしゃは、膝に子ヤギを載せたやさしそうなおじさんです。
この時間帯、西の空にはまだ夏の星座のこと座の1等星ベガ、はくちょう座の1等星デネブ、わし座の1等星アルタイルが残り、キラキラ輝いています。
一方、南の空を見ると、ポツンと1つだけ光るのは、みなみうお座の1等星、フォーマルハウト。今年は、その上のほうに土星が輝いていますが、この季節は西から北にかけての空のほうがにぎやかです。
ぎょしゃ座のカペラは、もっとも天の北極に近い、つまり北極星に近い1等星です。そのため一年を通してかなり長い間、地平線上に昇っています。10月には宵のうちから北東の空に昇ってきて、5月の半ばまで西の空に見られます。少し黄色がかった明るい星ですので、すぐに見つけられるでしょう。
同様に、はくちょう座のデネブ、こと座のベガも天の北極に近く、この3つの1等星は実は1年を通して、けっこう長い時間、夜空に滞在しているのです。
緯度を比べると、カペラは天の赤道から約46度、デネブ約45度、ベガ約38度と、カペラがいちばん天の北極に近い星であることがわかります。
1万2000年後に北極星になるベガ、南に下がるカペラ
ところで、北極星は長い歳月の中では変わります。現在、地軸を北に伸ばした先にある北極星はこぐま座の2等星のα星(ポラリス)です。
地球は地軸が23.4度傾いていて、その地軸の指す方向は毎年、ごく少しずつ変化しています。回っているコマが、グルングルンと首を振りながら運動するのに似ています。地球の首振り運動は約2万6000年周期で一周します。これを歳差運動と言いますが、この間、北極星も次々に変わっていくわけです。
現在、天の北極にいちばん近い星は、こぐま座のポラリスです。今後は少しずつ天の北極から離れていき、ほかの星に北極星の座を譲ることになります。約8千年後にはデネブが天の北極から7度まで近づき、約1万2000年後には今度はベガが5度の所に位置し、それぞれ北極星になります。そしてまた1万4000年ほど経つと、現在のポラリスに戻るわけです。
七夕の織り姫星として知られるベガは、距離25光年、明るさ0.03等級と、全天で5番目に明るい恒星です。この星が一年中輝いている北の空。また時代を遡って、1万4000年前の世界でもベガが北極星だったわけで、人類はすでに、北極星ベガを見ていることになります。
では現在、ベガより北に位置するカペラが北極星になるのはいつか? というと、カペラが北極星になる日は訪れません。ベガが北極星になる1万2000年後には、ほぼ天の赤道に位置していて、北半球でも南半球でも見える星になっています。
10月半ば。今年は日没後に西の空で紫金山・アトラス彗星を探したら、北よりの空も見上げてみましょう。
構成/佐藤恵菜