山道を抜けて、ふたたび住宅街に出た。ただ歩くだけでは物足りなくなったのか、息子、歩道脇の少し高くなったところに登り、そこからジャンプ! 高い場所を見つけた途端、登って飛び降りたくなる衝動は、何歳まで続くのだろう……。
だんだん息子のテンションが下がってきた。「暑い」「公園は行かなくていいよ」「もうそろそろ帰ろう」
歩き始めて1時間少々。体力的にはまだまだ余裕があるはずなのに、飽きてきたのだろうか。
北大路魯山人が晩年を過ごした星岡窯(せいこうよう)を通り過ぎると、小さな谷戸があった。すぐ近くにある小学校では授業の一環として、ここで野菜を育てているとのこと。さっきまで文句ブーブーだった息子は、いつの間にか高いところに登っていて、どこから飛び降りようか考えている様子で、岩の上をうろうろしていた。
さて、ここから最終目的地の鎌倉中央公園を目指したいのだが……、道が見当たらない。谷戸に遊びにきていた家族に尋ねてみたが、行けるとは聞いているけれど、実際には行ったことがないという。
登山アプリ「YAMAP(ヤマップ)」でダウンロードしておいた地図を確認して、どうやらここ、という位置を見つけたものの、草ぼうぼうだし、人が通るにはちょっと幅が狭すぎやしないか?
試しに、ちょっと入ってみて、厳しそうだったら引き返すことになった。
ここで驚きの行動に出たのが、ついさっきまで帰りたがっていた息子。急にスイッチが入ったのか、ずんずん早足で進んでいく。置いてきぼりをくわないよう、大人ふたりは必死でついていく。ロープ場も難なくクリアし、草をかき分け、「ねえー!」と後ろの大人を気遣って立ち止まり、ハアハアいいながら近づいてくる姿を確認したら、またさっさと駆け足で進む。
5分ほど歩いたところで険しい山道は終わり、先ほどのような道幅にゆとりのあるハイキングコースを少し歩いたのち、またまた住宅街へ。数分後にはゴールの鎌倉中央公園に到着した。着いたら着いたでさっそく木に登り始め、その後はサッカーに鬼ごっこにフリスビーと休む間もなく遊び、息子はニコニコ、大人はヘトヘトになった。
◎文=旅音(たびおと)
カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。
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