様々な状況に置かれた人々のストーリーから、世界の「今」が垣間見える映画4選!
特殊な状況に置かれたファミリー、大人になってからの出会い…。海外の様々な人間関係を描く映画を4つご紹介。
CINEMA 01
物静かなリアルとまばゆい虚構が融合。トルコ映画の現在地
『葬送のカーネーション』
(配給:ラビットハウス)
●監督/ベキル・ビュルビュル
●脚本/ビュシュラ・ビュルビュル、ベキル・ビュルビュル
●出演/シャム・シェリット・ゼイダン、デミル・パルスジャン
●1/12~ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
©FilmCode
運転手と助手席に座るふたりのおしゃべりを聞くこともなく、後部座席に収まる無口な老人と眠そうな女の子。途中ぬかるみに車がスタック、荷台に積んだ簡素な棺とともに車を降ろされる。どこまでも続く、空虚な荒野に取り残されたふたり。老人は棺を引きずり、国境を目指して歩きだす……。
説明的なセリフや親切な描写を排除し、一見ぶっきらぼうな映像を積み重ねる。やがて老人は亡き妻を故郷に連れ帰ろうとしていて、少女がスケッチブックに描く素朴な絵から、故国での戦争の記憶が生々しいとわかる。いまにも雨が降りそうなグレーの空、無数の真っ黒な点みたいな鳥の群れ、BGMは荒野を渡る空っ風。ふたりの間には温かい心のやりとりもない。
ヒッチハイクした車のカーラジオや運転するおばちゃんらの、意味がなさそうな人生の真実を突くような会話。少女はときに子供らしく羊や野良犬と遊んだり、夜は洞窟にふたり、焚火を囲んで朝を待ったり。物語はゆっくり紆余曲折するように進み、観ているこちらの心まで冷たく凍りついたころ、彼らの歩みのその先を目撃することになる。
CINEMA 02
スペイン、バスク地方。性自認に揺れる8歳と見守る家族の物語
『ミツバチと私』
(配給:アンプラグド)
●監督・脚本/エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
●出演/ソフィア・オテロ、パトリシア・ロペス・アルナイス、アネ・ガバライン
●新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中
©2023 GARIZA FILMS INICIA FILMS SIRIMIRI FILMS ESPECIES DE ABEJAS AIE
母子4人で、バカンスに訪れたアイトール。不機嫌な少女に見える彼は"坊や"を意味する愛称を嫌い、心を閉ざす。養蜂や畑を手伝い、川で泳いで。自然との触れ合いで心が解放されていく……。
役としての自然を構築した主役に驚嘆。彫刻家としての野心と子への愛に揺れる母の葛藤も描かれ、物語の奥行きは深い。
CINEMA 03
リゾート気分満載!ウディ・アレン節炸裂の大人のラブコメ
『サン・セバスチャンへ、ようこそ』
(配給:ロングライド)
●監督・脚本/ウディ・アレン
●出演/ウォーレス・ショーン、エレナ・アナヤ、ジーナ・ガーション、ルイ・ガレル、クリストフ・ヴァルツ
●1/19~新宿ピカデリーほか全国公開
© 2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.
人生に行きづまるニューヨーカーのモート。パブリシストの妻に同行し、スペインのサン・セバスチャン映画祭へ。監督と妻の浮気を疑い子供みたいに不機嫌になるも、魅力的な女医と出会う。
海辺のカフェ、蚤の市、マルシェとヨーロピアンな旅気分と恋の予感。名画のオマージュもおしゃれな大人の娯楽作。
CINEMA 04
知られざる北朝鮮の素顔に迫る、緊迫と慟哭の記録
『ビヨンド・ユートピア 脱北』
(配給:トランスフォーマー)
●監督/マドレーヌ・ギャヴィン
●1/12~TOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋 ほか全国公開
©TGW7N,LLC 2023 All Rights Reserved.
4つの国を経て韓国を目指す5人家族の脱北の道のり。悪徳かもしれないブローカーに望みを託し、息子の脱北に奔走する母親、千人以上の脱北者を支援したキム牧師が人助けに命を懸ける理由、脱北者の語る北朝鮮の真実と、すべてが重量級のインパクト。改めて「再現映像は用いていない」という声明に震え上がる。
※構成/浅見祥子
(BE-PAL 2024年2月号より)