武骨でいて上品さも感じる金属ボディーの液体燃料系ストーブ。灯油やガソリンを使い、たんなる機能性では現代のガスストーブに敵わないかもしれないが、魅力ははるかに凌駕している。
シンプルで頑丈!クラシックストーブには機能を超えた魅力がある
「123Rスベアストーブは、今でも日本で年間1000台ほど売れています。これは世界で一番の数。レトロな製品を愛する人は予想以上に多いんです」
そう話すのは、オプティマスの製品やマナスルを取り扱っているスター商事の太田和良さん。
「マナスルも人気ですが、製作を手がけている吉川製作所の工場が手いっぱいで、なかなか作れないんですね。だから、予約すらお断わりせざるを得ない状況になっています」
それでも購入できる可能性があるだけましだ。ホエーブスに至っては、はるか昔に生産停止。現在はネットオークションなどでもかなりの高値になっている。
これらのストーブの需要の大半が、懐古的なロマンに支えられているのは事実だ。だが、本誌でも連載をもつ作家の角幡唯介さんが2015年のグリーンランド遠征に持参したのは、灯油が燃料のマナスル96だった。
「世界でもっとも手に入りやすい燃料ですから、角幡さんが目指すような辺境地向き。修理がしやすいのも長所です」
そもそもシンプルで頑丈な構造のストーブは、今のような高精度の加工が困難だった時代でも故障が少なく、多くのアウトドアズマンから信頼を得ていた。
たとえば、日本のアウトドアの古典である『バックパッキング入門』(1976年発行)では、芦沢一洋さんがストーブの代表としてスベア123をピックアップ。その特徴を数ページにわたって解説している。また、アメリカの伝説的なバックパッカーのコリン・フレッチャーは、名著『遊歩大全』(原著1968年、日本版1978年発行)でスベア123を「信頼を裏切らない私の最良の友」と絶賛している。
そんな『遊歩大全』で、過酷な環境でも出力が落ちないと、「スパルタ的条件向き」「馬車馬のように働く」と表現されているのが、ホエーブスNo.625だ。ただ、驚くのは「893gと軽量」(当時の重量)という記載。現代では考えられないヘビーさだが、それだけストーブはどんどん進化し、軽量化している。
ところで、ここで紹介した3モデルを現代的な視点で比較すると、分解できて収納時にコンパクトなマナスルは非常に便利なストーブだと感じられる。だが、『世界山岳百科事典』(1971年発行)などの古書の記述では、ホエーブスやスベアのほうが「組み立てる必要がない」と、むしろ評価が高いのがおもしろい。現代ほど高い精度で加工ができなかった時代には、組み立て不要の単純構造のほうが故障は少なく、安全に使えたのだ。
スベアやマナスルは、発売当初から大きなモデルチェンジもなく、現在も生産中。昔からのレトロな魅力を味わってほしい。
1957年
まさに機能美。光り輝く真鍮製
マナスル/
マナスル96
¥28,600
今から66年前、1957年に生産開始された日本ブランドのケロシン(灯油)ストーブ。発売前年に今西壽雄がマナスル世界初登頂という快挙を成し遂げ、その山名がモデル名として冠された。もともとはプリムスなどが手がけていたストーブを模したものだが、タンク内の無用な圧力を逃がす独自の安全弁を持つなど、機能性はアップしている。
●燃料=灯油
●サイズ=直径160×高さ170㎜
●タンク容量=0.2ℓ
●燃焼時間=約1.5時間
●重量=660g(タンク本体・バーナー・三脚)
問い合わせ先:スター商事 TEL:03(3805)2651
本誌創刊第5号(1981年11月号)の記事「小型ガソリン・ストーブのロングセラー」にもスベア123R、ホエーブスNo.625が登場。
タンク、バーナーヘッド、ゴトクに分解でき、コンパクトに収納。なお、マナスルには「96」「121」「126」の3種があり、96はもっとも小型だ。
1920年
パーツを交換すればガソリンでも、灯油でも
ホエーブス/
ホエーブスNo.625
販売終了
オーストリア発祥のブランドで、1920年ころから同国の陸軍用に生産。故障の少なさには定評があり、次第に山岳用途としても活用されるようになった。4タイプがあり、「625」はタンク容量が最大で長時間の使用が可能。最上部のキャップ状のパーツはサイレンサーで、燃料音は控えめだ。
●燃料=ホワイトガソリン/灯油
●サイズ=直径170×高さ180㎜
●タンク容量=0.6ℓ
●燃焼時間=約3時間30分
●重量=940g
細長いパーツは、ポンプ。これを何度も押してタンク内部の圧を上げ、予熱を与えて気化させた燃料に点火して使う。
1955年
"バックパッキング"の歴史を彩る名作!
オプティマス/
123Rスベアストーブ
¥21,780
100年以上も前にスウェーデンで生まれた小型ストーブを母体に、1955年に販売開始されたのが「スベア123」(のちに改良され、123Rに)。1969年には同国のオプティマス社に買い取られ、現在も生産が続く。その特徴は、コンパクトさ。手のひらに乗るサイズ感で重量も軽く、今も多くのファンがいる。
●燃料=ホワイトガソリン
●サイズ=直径100×高さ130㎜
●タンク容量=0.12ℓ
●燃焼時間=約1時間
●重量=550g
問い合わせ先:スター商事
調理用具にもなるアルミ製カップをフタ代わりに収納。この形状は出っ張りがなく、パッキングにも便利であった。
※構成/高橋庄太郎 撮影/後藤武久
(BE-PAL 2023年12月号より)