「灯油ストーブは旅の五感を刺激する燃焼器具だ!」シェルパ斉藤、大いに語る
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    2023.11.29

    「灯油ストーブは旅の五感を刺激する燃焼器具だ!」シェルパ斉藤、大いに語る

    シェルパ斉藤の燃焼器具コレクション

    現在発売中のBE-PAL2023年12月号では「ストーブ&ランタン徹底研究」と題し、100年変わらぬレジェンドギアから最新人気まで、渾身の大特集を展開。本誌連載でもおなじみのシェルパ斉藤さんに不変の燃焼器具への想いを語っていただいたので、ぜひご一読を!

    「灯油ストーブは旅の五感を刺激する燃焼器具だ!」シェルパ斉藤

    元号が昭和の時代、自転車でアジア大陸を走る旅に出た。
     
    出発前に某登山店で装備の相談をしたら「ストーブはこれにしなさい。故障しないし、どこでも燃料が手に入る」と、オプティマスの灯油ストーブをK店長にすすめられた。
     
    K店長の助言は正しかった。
     
    パキスタン、インド、ネパール‥‥…。どの国でも、ガソリンスタンドがない山村でも、ケロシンと呼ばれる灯油は安く手に入った。面倒な着火の手順も、すぐに慣れた。むしろプレヒートやポンピングの手間が伝統的な作法に思えて、いい緊張感を持てた。野犬が出そうな真っ暗な野外でテントに泊まるときは、ゴーッと奏でる燃焼音に頼もしさと安らぎを感じた。町の屋台では灯油ストーブや灯油ランタンが日常的に使用されており、同じ燃焼方式の灯油ストーブを使いこなす自分が地元に入り込めている気もした。
     
    放浪の旅を続けて約2か月後、ネパールのカトマンズで僕は肝炎にかかってしまった。同じく肝炎にかかった日本人女性とともに、安宿で自炊をする療養生活を送った。
     
    近くの食堂でダル(豆)のスープをもらい、市場で買ったタルカリ(野菜)を煮込む。野菜中心のヘルシーな食事の調理で活躍するのは、僕の灯油ストーブだ。

    「斉藤さんは火の扱いがとても上手」と彼女がおだてるものだから、僕が調理を担当する自炊生活が1か月以上続いた。彼女との食事は、体も心も温まる時間でもあった。
     
    あれから36年。重くて収納しにくく、着火の手間も時間もかかるタンク一体型の灯油ストーブを旅に持ち出す機会はほとんどない。でもふと手にとりたくなる衝動に駆られるから、棚の中央に飾っている。
     
    今号の特集で液体燃料系のストーブを紹介するついでに、あの灯油ストーブを着火したら、ポンピングの感触や燃焼音、灯油臭さが入り混じって、ダルスープの味やカトマンズの安宿の光景、帰国後に命を絶った彼女の笑顔が頭に浮かんだ。
     
    灯油ストーブは旅の五感を刺激する燃焼器具だったんだと、いまになって思う。

    旅の記憶を灯すストーブとランタン

    国内外において、幅広いスタイルで旅を楽しむシェルパ斉藤さん。そんなシェルパさんに、液体燃料仕様のストーブとランタンの魅力、そして、それにまつわる旅の思い出をたずねてみた。

    招かれた心地よい小屋には、傍らの小川のせせらぎと調和するような古いジャズが流れ、コーヒーの香りが立ちのぼっていた。窓辺には数々のランタンとストーブが並べられており、いずれも歴戦の跡を刻んだ、無骨な顔を見せている。

    「これがオプティマスのナンバー00、27歳のころ、アジア大陸自転車旅で使ったストーブだね」
     
    先に書かれていたのは、このオプティマスだという。当時、すでに本誌にてライターデビューを果たしていたシェルパ斉藤さん。限られたチャンスを手にした書き手にとって、海外への長い旅は仕事を失うことになりかねない。それでも旅に出て、新たな世界を切り拓く――このストーブには、そんな若き日の決意がこめられていた。

    「その当時、すでに時代遅れであり、ずいぶん重くて野暮ったいとも思ったんだけどね。アジアの片隅でも手に入る灯油を燃料とし、壊れず毎日元気に食事を作ってくれた。そんなストーブです」
     
    その旅で肝炎を患った翌年、シェルパさんは再びアジアを訪れた。目指すは前年たどり着けなかった、エベレストのベースキャンプ。ただ、エベレスト街道にはバッティ(茶屋)がいくらもあるので、ストーブは持参しなかったという。

    「ところが高いところまで行った反動なのか、今度は赤道のほうまで足を延ばしたくなった。そうなるとストーブがないと心細いでしょ。で、カトマンズの登山用具屋で手に入れたのが、このオプティマス・スベア123Rなんだよね」
     
    店先には、数々の登山隊が下山後、売り払った道具が並んでいた。そんななか、目についたのがスベア123Rだった。

    「コンパスと何か、それにいくらかを現金で渡し、いわば物々交換で入手し、それからインドネシアを旅したんだよ」
     
    懐かしいなぁ……そうつぶやくと、コーヒーを淹れてくださった奥さまの京子さんが、おかしくてしかたないという顔で「サハラにも持っていったんでしょ」と。

    「そうそう、子供が生まれると知ってなんだか怖くなり、現実逃避じゃないけど、モロッコを自転車で旅したんだよね」
     
    そんなスベア123Rは、パシフィッククレストトレイルでも旅を共にした。その後、パタゴニアの旅では、MSRのガソリンストーブ、ウィスパーライトインターナショナルを使用している。

    「冒険家の九里徳泰くんから、チリのプンタアレナスの雑貨屋で“ベンシーナブランカ”っていえば白ガス(ホワイトガソリン)が手に入ると教わり、そのスペイン語を覚えて旅に出たなあ」
     
    国内の旅では当初からガスストーブを使っていたし、アメリカやヨーロッパでも同様だった。灯油やレギュラーガソリン対応のストーブを持参するのは、よりハードな異国の旅に限られる。

    「だから、イチかバチかの大勝負ではないけれど、灯油やガソリン仕様のストーブを持つ旅となると、準備の段階から気合いが入るよね」

    愛機を前に思い出を語るシェルパ斉藤

    自宅敷地内のカフェ「チームシェルパ」。物語の中にあるような小屋の窓辺には、シェルシェルパさんが旅で使用してきた数々のストーブとランタンが並べられている。

    オプティマスとプリムスのストーブ

    アジア大陸自転車旅で使用した、オプティマスのナンバー00。奥は、同様のスウェーデン製のストーブである、プリムスのNo.210。

    旅をする若き日のシェルパ斉藤

    当時の写真。

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