ケイト・ブランシェットが南極でカヤックに挑戦!? 映画『バーナデット ママは行方不明』 | 海・川・カヌー・釣り 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2023.09.23

    ケイト・ブランシェットが南極でカヤックに挑戦!? 映画『バーナデット ママは行方不明』

    ケイト・ブランシェットは、この役でゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネート。監督は『恋人までの距離(ディスタンス)』『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイター。

    極端な旅嫌いの主婦が南極へ行ったら…!

    一流IT企業に務める知的で穏やかな夫エルジーと、成績優秀で母親と親友みたいに仲良しな娘ビーと、シアトルの一軒家に暮らすバーナデット。

    一見、彼女は何不自由ない暮らしをする幸福な主婦に見える。

    けれど娘のビーが、中学をトップの成績で卒業したお祝いに「南極へ家族旅行に行きたいの!」と言い出す、それがすべての始まりだった。そもそも夫はず~っと仕事にかまけて家族には無関心だったし、年代ものの家は雨漏りやら不具合が続出で、明らかに相性のよくないママ友で隣人のオードリーとのやりとりはうんざりすることばかり。日常に潜んでいたイライラの種、問題のカケラは次第に表面化し、なかったようには出来ないことになっていく。

    しかもバーナデットは極端な旅嫌いでもあった。「大勢の中が苦手」「人間が苦手」の彼女にとって、見知らぬ他人と一ヵ月も行動を共にするなんて!南極旅行は悪夢そのもの。でも愛する娘のために、買い物やらスケジュール管理までメールで依頼するバーチャル秘書を駆使して旅の準備を始める。

    そうして、バーナデットの物語が動き出す---。

    夫エルジー役のビリー・クラダップ。切れ者な会社員の顔と、人生への少しだけの疲れ、そして変り者な妻を大きく包む愛。大人な男を演じてステキ!

    そんなバーナデットを演じるのは、有無を言わせぬ演技派であるケイト・ブランシェット。どんな役でも、いつでも静かな説得力を持って画面の中に揺るぎなく存在する、それが彼女。

    今回も、他者から見たら行動が読めなくて突飛でただイラっとする変人、に終わってもおかしくないこの難役を、よ~く見たら他の人とは違う軸で生きるごく自然体の、なんともキュートな人としてごくナチュラルに、ときにコミカルに体現していく。

    それでいてバーナデットという人物の肝はかつて、天才!と呼ばれた建築家であること。ところが20年前に理由も告げずに突然引退し、「建築界の謎」と世間を騒がせた存在でもあることだった。なぜ、彼女は専業主婦に? 

    そこには切ない理由があるのだが、なにより重要なのは、彼女が作品をつくっていない芸術家であるという今現在の事実。リチャード・リンクレイター監督が「世界でもっとも危険な人間は仕事がない芸術家だ」という言葉を引用するように、バーナデットはまさにそんな状態にある。

    日常の中でイライラは募り、心の安定は絶望的な状況に陥り、医師から心の病を指摘され。エルジーとビーが南極へ行く間に治療を――、そう提案された彼女の混乱はピークに達し、「ちょっとお手洗いに」と言って姿をくらましてしまう。

    グリーンランドでロケを敢行。海と氷はCGに非ず!

    年齢的にもバーナデットは、いわゆる‟中年の危機”に差し掛かっている。髪を振り乱し、全身全霊で打ち込んできた子育てはひと段落。その間、棚に上げていた自分というものと、もういちど向き合う必要がある時期に来ている。

    年齢を重ねて経験を積み、より客観視したときに自分と対峙するのは、ナイーブでもある芸術家と呼ばれる人種にとっては恐怖でもあるだろう。それは大げさではなく、命をかけた‟冒険”と言っていいかも。だって人としての欠落を認めなければならないし、そうしないと真の創作なんて出来ないし。そうして夫と娘と現地で合流しようと南極へ。そこから彼女の、本当の‟冒険”が始まる。

    シアトルでは何をやっても空回り、変人ぶりが際立っていたが、南極に来てからの彼女はようやく歯車がガチっとハマったよう。表情はイキイキと輝き、行動はより大胆になる。

    こんなシーンがある。南極の海でカヤックをしながら「ハロー、あなたは誰?」と声を掛けられ、「偶然ね、私もそれを自分に聞いていたところ」と答えるバーナデット。見渡す限りの海と氷山、そんな風景のただなかでゆったりとカヤックを浮かべ、日常から遠~く離れた地で、何かが始まる前の凪みたいな時間を味わう。

    それもまた冒険。自分を生きることは本当の意味で命の危険をはらむけど、心臓がバクバクして楽しい!みたいな瞬間がきっとある。

    映画はバーナデットが、氷山に囲まれた海でカヤックをするシーンでスタートする。グリーンバックで撮影して合成する予定だったが、ケイト・ブランシェットの強い希望でグリーンランドでロケをしたそう。だからそこに映る海と氷は本物。

    冒険ってとっても危険、だけどやっぱりめっちゃ楽しい!

    『バーナデット ママは行方不明』(配給:ロングライド)

    ●監督・脚本/リチャード・リンクレイター 
    ●脚本/ホリー・ジェント、ヴィンス・パルモ 
    ●出演/ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、エマ・ネルソン、クリステン・ウィグ 
    ●9/22~新宿ピカデリーほか全国公開
    © 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.

    文/浅見祥子

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