空き家の家主と借りたい人の間をつなぐ「さかさま不動産」が地域を活性化する! | ナチュラルライフ 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2023.09.17

    空き家の家主と借りたい人の間をつなぐ「さかさま不動産」が地域を活性化する!

    地方で喫緊の課題といえば空き家だが、じつは借りたい人は少なくない。マッチングはなぜ進まないのか。逆転の発想で問題に切り込むのが、その名も「さかさま不動産」だ。

    さかさま不動産運営会社 株式会社On-Co代表 水谷岳史さん

    みずたに・たけふみ 1988年三重県桑名市生まれ。大学中退後、実家の造園業に従事。その後名古屋で空き家をリノベーションし飲食店を経営。その体験をもとにレンタルスペースなどの空間プロデュース、アップサイクル事業を手がける。株式会社On-Co代表取締役。元印刷工場を活用した、未知なるモノを生み出そうと志す人の拠点「madanasaso(マダナサソウ)」も運営。

    空き家を使って何かを始めたい人が家主さんにアピールするサイト。それがさかさま不動産です

    国土交通省の調査によれば、全国の空き家総数は2018年の段階で849万戸。過去20年間で約1.5倍に増えている。国も手をこまねいてきたわけではない。2015年には空き家対策特別措置法を施行、各自治体に空き家バンク制度の導入を促した。同措置法が改正された今年からは、空き家の固定資産税率を上げたり、危険な建物を行政の判断で取り壊せるようになった。空き家は個人の財産だが、管理責任を強く問われる時代に入ってきているのである。
    一方では近年、古くてもよいので空き家を借りたいという人が増えている。需給関係は成立しうるわけだが、貸してもらえないというのもよく聞く話だ。
    このマッチング問題に原因から切り込み、よい出会いの流れを広げようとしているのが水谷岳史さん(35歳)だ。

    ──「さかさま不動産」という屋号、すごく気になります。

    「じつは僕らは不動産業じゃないんですよ。10年くらい前に、僕は街の空き家を借りてリノベーションし、飲食店やレンタルスペース、シェアハウスなどの運営をこの名古屋界隈で始めました。その中で気づいた空き家をめぐるさまざまな現実、課題が、さかさま不動産の発想になりました」

    廃棄物をまったく新しい発想の素材に再生するアップサイクル事業も手かける。

    家主はなぜ貸したくないのか? その不安にきちんと寄り添う

    ──具体的にはどのような取り組みなのですか。

    「簡単にいいますと、空き家を探している人と、貸してもいいよという所有者を引き合わせるサービス。ですが、対価はいただいていません。そもそも僕らは不動産取引に必要な免許は持っていないんで(笑)。さかさま不動産は僕らが経営する株式会社On-Coの一事業部門という位置づけなんですね。
    収益を目的としない理由を説明する前にまず知っておいていただきたいのは、日本の空き家率です。

    2040年には40%になると推測されています。不動産市場に出していけばそれなりに解決できるだろうという考え方もあるわけですが、国交省の調査アンケートでは、じつは所有者の85%が情報を公開したくないと答えています。
    なぜかという理由を僕らなりに分析してみました。ひと言でいえば、不特定多数の人に閲覧されるのが嫌なんですよ。空き家仲介サイトに実家の住所や写真が載るのはプライバシーを晒される感じがするわけです」

    ──でも、住所や写真がないと情報要件を満たしません。

    「既存の空き家仲介サイトに載っているのは、情報を開示してもいいと考えているごく少数の方々の物件なんです。興味深いのは、オープンにしたくないという85%の方々のうち半分くらいの人は、条件次第で貸してもいいといっていること。条件とは端的にいうと安心。借りたい人は信用ができる人か。空き家をどう使いたいと思っているのか。地域の方々にとってどうすればよりよい活かし方になるかということまで考えている人も多いのです」

    ──周囲からお金に困っていると思われたくないので貸さないという話もよく聞きます。

    「所有者も、なんとかしなきゃとは考えているんです。安心感と同時に借してよかったと思える実感が欲しいと感じています。こういう人に家を貸せば、地域が明るくなり活気も生まれそうだということも、貸す理由のひとつになります。
    もうひとつの不安は責任の所在です。たとえば雨漏り。既存の仲介だと常識としては家主側が修繕しておくべきことです。しかし、雨漏りが心配になるような空き家はそもそも価値評価が低い。不動産会社は修繕まではやりたがりません。家主が修繕コストを持てばそれなりの投資になるので家賃に転嫁せざるを得ませんが、そうすると今度は割高に映ってしまいます。

    さかさま不動産を利用する借り主の多くは空き家を使って事業や文化を創りたいと考えている方々。そこを拠点に夢を実現したいという強いベンチャーマインドを持つ人がマッチングしやすい傾向にあります。理由は先ほどもいいましたように、活用方法次第では貸したいと前向きに考えている家主さんが多いからです。修繕や片付けは自分でする代わりに安く借りて初期投資を抑えたいという人が多いですね。そのあたりは話し合いの中で決めていただいています」

    ──目配りの利いた発想ですね。で、そもそもなぜさかさま不動産という名前なのですか?

    「条件次第で家を貸していいと思っている所有者が潜在的には多いなら、その条件に合致する情報を提供したらいいと考えました。既存の不動産仲介は貸したい側の情報を掲示してきたわけですが、さかさま不動産の場合はそれとは反対に、空き家を使ってやりたいことがある希望者が情報を公開するしくみです。
    自分はどういう人間で、どの地域でどんなことをしたいと考えているのか。不特定多数の空き家所有者に向け、想いをプレゼンテーションするのです」

    ──普通と逆だから、さかさま。

    「はい。借りたい人たちの情報を掲載しています。まずサイトの問い合わせフォームから情報を入力していただきます。それを基に僕たちが個別にインタビューをします。なぜインタビューか。それは機械的なヒアリングだけだと実現したいことの細かいニュアンスや想い、熱量までは伝わりにくいから。
    僕が空き家を使い店舗を立ち上げたころ、仲良くなった家主さんたちからいわれたのは〝誰かほかにもいい人はいませんか〟でした。いい人とは、貸してもいいと思える、今いった信用のおける人。そういう人なら空き家を委ねてもいいと思っている人がいることは、これまでの経験からわかっていました。

    しかし、いい人というのはあいまいな言葉ですよね。人柄なのか、社会的な肩書なのか。空き家を使ってやろうとしている想いも、かみ砕かないと世間一般には伝わらないかもしれない。
    日本人は謙虚だから、自分で自分を〝すごくいい人なんですよ〟なんていわないでしょう(笑)。ですからインタビューで客観情報を補足するのです。登録フォームの行間に隠れている借りたい側の情報や想いを確実に可視化することで、よりよいプレゼンテーションにします」

    名古屋市熱田区の新刊書店「TOUTEN BOOKSTORE」。左は借り主の古賀詩穂子さん、右は家主の河田圭介さん。

    ──行政の空き家バンク制度をどのように見ていますか。

    「不動産取引は世間のイメージだとビジネスですが、空き家は所有者にとって単なる財産ではないと思うんです。とくに代々続いた家はファミリーヒストリーも背負っています。自分だけの判断でドライな流通システムに乗せてしまってよいのかという葛藤もあると感じます。
    空いているなら貸しませんか、登録しませんかとだけいわれても、なかなか踏み切れない気持ちの方もいらっしゃるだろうなと思います。借りたい側が所有者に物件への想いを伝えるさかさま不動産のやり方は、そうした心情への配慮にもなっています。家の情報を出せる方は空き家バンクや既存の不動産情報に掲載すればよいと思います。いずれにしても大切なのは、所有者の心情への配慮です」

    名古屋市内の古民家で「KIWAMI SAUNA」を開業した中島惇生さん。建物も庭も生かす考えが家主の心に響いた。

    ──契約までの流れはどのようになっていますか。

    「この人なら貸してもいい、もう少し話を聞いてみたいという所有者には直接連絡をとっていただきます。僕たちは契約に関与しません。あくまで当事者同士で進めていただいていますし、先ほどいったように仲介料はいただきません。マッチング後も、借りた方の活動が加速するようPRに協力をしたり、交流会にお誘いするなど継続応援をしています」

    ──現在までの実績は。

    「この6月で設立3年。のべ21件のマッチングが成立しています。たった21件かと思われるかもしれませんが、営利事業ではないさかさま不動産には、そもそも必達目標がありません。むしろ結果を急いではいけない。ベストマッチしかさせたくないので、今くらいのペースがちょうどいいかなと思っています。
    拠点が名古屋ということもあって初期のマッチング例は中部エリアの市街地が多いのですけれど、さまざまな利用例があります。こだわりの本屋さんや自転車屋さん、地域の子どもたちの居場所となる駄菓子屋さん。ユニークなところでは古民家を活用したサウナもあります。いずれもサイトの記事を読んだ所有者の方が、こういう人にまかせたいと共感されたことでよいご縁が生まれました」

    自転車ライフを提案するデイヴィッド・ユーさんが愛知県瀬戸市に開いた自転車店「FUN SETO GINZA」。

    空き家問題で大切な視点は、売買や賃貸を超えた第三の委ね方

    ──田舎の希望例はどうですか。

    「海のそば、島、森に囲まれた場所を希望される方は多いですね。ただ、自然豊かな田舎でのんびり暮らしたいとか、好きなことをして過ごしたいという感じの希望だと成約に結びつきにくいイメージがあります。地域を元気にしてくれそうな人かどうか、やりたいことにはどんな社会的意義があるかを見られているように感じます。

    田舎とは真逆ですが、直近では東京・南麻布の物件を僕らにまかせていただいた例があります。職住一体のビルで1階が畳屋さんの作業場だったのですが、お父さんが他界され作業場をどうしようかということになった。その相談でした。広尾駅から徒歩7分でフランス大使館の近く。普通の不動産仲介業者に頼めばすぐ借り手が決まるような一等地だと思うのですが、わざわざ僕たちにお声がけくださいました。そこはカフェギャラリーとして活用されることになりました。ご家族の家に対する思いというものをあらためて感じたケースです」

    ──さかさま不動産は収益を目指していないということでしたが、会社自体はどのように回しているのでしょう。

    スタッフはPRの専門家、元行政マンなど多士済々。「よってたかって皆さんの夢を後押します」(笑)と水谷さん。

    「さかさま不動産のような取り組みに関心がある人って、いろんなチャンネルを持っているんですよ。僕らにとってはステークホルダーなんです。これまでシェアハウスなどの空間づくりやコミュニティー・まちづくりなどを手がけてきましたが、今後新たな事業に挑戦するとき、必ず生きてくる関係性や考え方になると思うんです。
    人って〝あなたの夢を教えてください〟と聞いてもなかなかうまくいえないじゃないですか。でも面白いことに、不動産という言葉を使うと具体的に出てくる。そして、そういう夢を意気に感じてくださる空き家の所有者は確実にいます。皆さん、売買とか賃貸を超えた、第三の委ね方を模索されているんです。

    やりたい人を応援することが地域を元気にすることにつながるんだという意識が広がれば、もっとよい日本になります。空き家を活用できたことでその人の生き方はどう変わったか。地域がどう面白くなったか。そういう場にリアルに立ち会えることは、僕たちにとって何ものにも代えがたい価値です。
    なぜ僕らは食えているのか。それは〝さかさま不動産って面白いね〟という人たちが〝君たちだからこそ一緒に何かやりたい〟と次々に新しい仕事をくださるからなんですよ」

    ──今後の目標はなんですか。

    「その物件の特徴を見て、どういう場にすれば社会にフィットするかということを、今までずっと仕事にしてきました」

    「支局制度を充実させたいと思っています。現在、全国に10の支局があり、ありがたいことに今では全国の家主さんから問い合わせが来るのですけれど、人と人という関係性で展開していくのが理想なので、土地勘のある世話人のような立場の人が入ってくれると、地域にとってよりよい形でマッチングが進みます。たとえば北海道で起業したい人には北海道の人が話を聞いてあげるほうが話は早く、より具体的に進みます。
    最近は行政からも相談が来るようになり、連携協定を結んだ自治体もあります。全国に支局や協定先が増えれば、本質的な空き家活用の進め方のひとつとして、そのネットワークから国に提案ができるようにもなると考えています」

    行政もさかさま不動産に関心を寄せる。三重県桑名市は連携協定を結んだ最初の自治体。

    800種以上の〝いきものクッキー〟で生物多様性を表現する専門店

    桑名市の市街地の一角にある「クリマロコレクション」。今では全国からいきもの好きな人たちが集まる。

    さかさま不動産に登録したことで理想の空き家と出会った人たちの「やりたいこと」はいずれもユニーク。中でも注目の事例が三重県桑名市北鍋屋町にあるクッキー専門店「kurimaro collection(クリマロコレクション)」だ。ただの焼き菓子店ではない。じつは店主の栗田こずえさんは、いきものクッキーデザイナーを名乗っている。
    いきものには動物群ごとにコアなファンがいる。クリマロにはそれぞれの動物群の特徴を的確にとらえ高い完成度で表現できるクリエイター系スタッフが在籍。栗田さん自身は、アートクッキーで生物多様性の重要性を伝えることをライフワークにしている。

    単に姿かたちを表現するのではなく、生態や棲息環境などもストーリー化して盛り込む。たとえばイグアナのグリーンは好物の小松菜の粉末で色づけする。そんな遊び心も受け、クリマロのある桑名は今やいきもの好きの間では聖地になっている。動物園や水族館とのコラボ企画も大人気で、これまでクッキーで表現した絶滅危惧種は800種以上。「地球上にいるいきものたちの魅力やつながりをクッキーを通して伝えたい」という栗田さんの夢は、一軒の空き家との出会いから実現した。

    クッキーにする対象は微生物から深海生物まで。写真は東山動植物園とコラボした世界の絶滅危惧動物シリーズ。

    水谷岳史 流 空き家活用で成功するための3つのアドバイス

    1 まずはパッション!自分の思いに情熱的であれ

    熱量は人を納得させるための第一条件。本気だということが家主に伝われば、次への段階につながり良い方向に開けてくるはずだ。

    2 やりたいことは明確に。社会的意義は大きいほうがいい

    空き家で実現したいことがあまり個人的だと家主の信用は得られにくい。地域の賑わいや社会的意義につながると伝わりやすい。

    3 家の歴史に敬意を払い、家主の気持ちに寄り添う

    空き家は単なる「物件」ではない。どの家にも歴史がある。家主の気持ちに寄り添い一緒に挑戦する雰囲気を作っていければ理想。

     

    ※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平 写真提供/On-Co さかさま不動産 https://sakasama-fudosan.com

    (BE-PAL 2023年9月号より)

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