焚き火と野外料理がある里山暮らしを実践している、長野修平さん。神奈川県・道志川の畔で、手作りの家「みのむしハウス」に家族4人で暮らしつつ、アトリエ「NATURE WORKS」を主宰。毎日の日課は裏山や庭先での焚き火だ。どんなに忙しい日々を送っていても、焚き火の横でコーヒーを片手に一服することで、心がリラックスして満たされるという。
クラフトも焚き火も、古き良きアメリカがお手本だった
無人島に持っていきたいものは? の問いに「刃物とたばこと…コーヒーかな」と、思案気味に答える長野さん。
「食料は現地で調達できるし、ナイフがあれば火もおこせるし、寝ぐらも作れる。でもこの3つは代わりになるものがないからさ」
30歳になるかならいかのころ、アウトドアに目覚め、キャンプをするようになった。幼少期から西部劇が好きだったので、ネイティブ・アメリカンに憧れてネイチャークラフトをはじめたのもそのころだ。20年以上前、実際ネイティブ・アメリカンゆかりの地、ニューメキシコ州サンタフェを旅し、クラフトのルーツも学んだ。
「ネイティブ・アメリカンではスマッジングという儀式があるんです。ホワイトセージの葉を燃やし、その煙を浴びることで身も心も浄化される。焚き火の横でたばこを吸っていると、そんなことを思い出しますね」と、旨そうに紫煙をくゆらせる。
いまではすっかり日課となった豚バラ肉の燻製作り
西部劇で印象に残ったシーンがもうひとつある。焚き火に吊るされた塊肉だ。傍には黒くなったコーヒーポット。肉は焼けたところからナイフで削ぎ、そのまま口に運ぶ。そのワイルドな姿がなんとも格好良く、いつからか長野家でも焚き火と塊肉がセットになった。
「キャンプに行ったらまず、火をおこすでしょ。そうしたら、塩漬けした肉を吊るしておくだけ。ゆっくりじっくり丸1日かけて自然な煙で燻すから、香りがのって旨いんだよ。広葉樹だったらどんな薪でもいい。木の種類によって香りが変わるから、それを楽しむのも面白い」
塊から数枚削り出し、温めた鉄板でジュっと焼く。
「彩りに野草でも積もうか。カキドオシとベーコンの相性がいいんだよ」
旨い肉をいただいたあとは、コーヒーで一服し余韻を楽しむ
食後はコーヒーで一服。ここ数年、気に入っているのが、スウェーデンスタイルのコーヒー。
「もともとパーコレーターで淹れていたんだけど、お湯が沸いたら火を弱めたりと、側についていなければらなくて、結構面倒なんだよ。でも、スウェーデンスタイルなら、お湯が沸いたら粉を入れて、遠火に置いておけばいい」
待っている間に、薪の燃えさしでたばこに火をつけ、一服。
「昔、スキー場でバイトしていたとき、ロッジ に暖炉があってね。暖炉の火でたばこに火をつけると夢が叶う、っていわれたんだよ。それがウソかホントかは知らないけど、その感覚が好きでね。100円ライターで火をつけるのはなんか寂しいけど、燃えさしで火をつけるって、ワイルドだし、その行為の中に寂しさがないんだよね」
ケトルを振って粉を沈殿させたら、ククサに注ぐ。
「焚き火で料理作るでしょ。食べ終わりにコーヒー飲みながら、残り火で火をつけたたばこを吸う。これこそ至福の瞬間。ひと作業終わったとき、車を降りたとき、リラックスしたいときに吸うことが多いんだよね。自分の“間”を作るというか、リズムを刻むというか。コーヒーとたばこは僕のリラックスツールなんですよ」
構成/大石裕美 撮影/小倉雄一郎