異色ドキュメンタリーから昭和末期の少年成長譚まで、映画館で観るべき5本
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    2023.04.08

    異色ドキュメンタリーから昭和末期の少年成長譚まで、映画館で観るべき5本

    行動制限を気にしなくて済むようになった今こそ、劇場で映画の世界に浸ってみては?

    写真家の小林紀晴さんが初めて手がけたドキュメンタリー映画から、人間の尊厳を問う衝撃作まで。濃密な映画5本を紹介!

    ※掲載情報はBE-PAL4月号のものです。最新の公開スケジュールは各作品のオフィシャルサイト等でご確認ください。

    『トオイと正人』

    (配給:Days Photo Film、配給協力:プレイタイム)
    ●監督・脚本・撮影/小林紀晴 
    ●原作/瀬戸正人『トオイと正人』(朝日新聞社) 
    ●出演/瀬戸正人、尾方聖夜 
    ●ナレーション/鶴田真由 
    ●3/25~シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

    ©Days Photo Film 2023

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    「原作を読むと映像がつぎつぎ浮かび、どこか映画のよう。これは映画になるな……と勝手に思って。おこがましいですが、それを撮るなら自分しかいない、そんな気持ちになったのです」
    それが小林紀晴と、同じ写真家の瀬戸正人による自伝エッセイの出合い。でも映画を撮ったことも、撮れると思ったこともない。それから約20年、機材の進化で動画撮影はぐっと手軽に。写真を撮るように映画が撮れるかも。映画化が動きだす。

    「ある監督が書いた映画づくりの本に〝最初にしたのは友達に電話すること〟と。確かに映画は、写真と違ってひとりではつくれない。10年以上前に飲み屋で隣に座った人が映像関係と思い出して連絡したり、ポスターデザインを高校の友達に頼んだり。手探りの手づくりでした」
    瀬戸の父は、終戦をラオスで迎える。そのまま残留日本兵となり、タイに渡り、ベトナム人になりすまして写真館を始める。国王の写真で思いがけずひと財産を築いて…と、まるでフィクションのような人生!

    「映画にするにあたって演者は不在でいい、モノローグだけで成立するかも? そう思ったら道が開けたようになりました」
    撮影隊は7人、「僕も行こうかな」という本人の思いつきで瀬戸も同行することになった。

    「撮影で大変なことは一切ない。珍道中で、もう毎日が楽しい」
    それはトオイと正人の物語でもある。トオイと呼ばれた瀬戸は8歳で帰国、正人として福島に暮らした。やがて写真家になり、20年前に書いた少年時代の記憶を撮影で追体験していく。

    「僕はトオイが正人になった日のことを思い出せない」――、そんなモノローグで始まる映画は、ただのドキュメントでも映像詩でもない。それでいて失われたトオイとしての記憶と見つからない写真と、〝不在なもの”を探し求めるセンチメンタルな旅のよう。小林紀晴の写真集を見るようでもあって、どこか新鮮な映像体験をもたらす。

    「音楽も映像もストーリーもあって、映画づくりは難しいけど魅力的。編集をしていて、文章を書くことに近いなと。プロットは考えていましたが固めていたわけではなく、思いついたら撮るし、撮れないものは撮れない。そうした偶発性を受け入れながら前に進む。確かに旅と似ているのかもしれません」

    写真家 小林紀晴さん

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    こばやし・きせい●1968年長野県生まれ。1997年写真集「DAYS ASIA」で日本写真協会新人賞、2013年個展「遠くから来た舟」で林忠彦賞受賞。ノンフィクション、小説も執筆。

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    原作者でもある写真家の瀬戸正人。習い始めたばかりというバイオリンを旅に持参、メコン川を背に「ふるさと」を弾く。

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    原作の『トオイと正人』(朝日新聞社1998年刊・第12回新潮学芸賞受賞作)。映像的な記憶を文字にしたような、写真家らしい文章。

    『飯舘村 べこやの母ちゃん――それぞれの選択』

    震災による原発事故に遭遇した酪農家
    母ちゃんたちの約10年を記録

    (配給協力:リガード)
    ●監督/古居みずえ 
    ●3/11~ポレポレ東中野にて1週間限定上映ほか全国順次公開

    ©Mizue Furui 2022

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    原発事故で全村避難となった福島県飯舘村。放射能汚染の懸念で牛乳の出荷も牛の移動も禁止。酪農家の母ちゃん、どうする?
     
    牛一筋45年の信子さん、仔牛にミルクを飲ませる姿が愛情たっぷりな公子さん、仮設住宅で管理人となる花子さん。各々のストーリーを掘り下げ、あの原発事故で酪農家の身に何が起きたかを内側から見つめる。これほど素朴で実直な働き者が、なぜこんな目に? 絶望的状況下でも決してへこたれない母ちゃんたち。そのたくましさこそが希望。

    『うつろいの時をまとう』

    時の記憶、常ならぬもの。
    日常に美を見出して服に昇華

    (配給:グループ現代)
    ●監督/三宅流 
    ●3/25~シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

    ©GROUP GENDAI FILMS CO., LTD

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    大量生産大量消費という世の流れに反し、日本の美意識をコンセプトに独自のスタイルを構築するファッションブランド「matohu(まとふ)」。風に吹き寄せられた色とりどりの紅葉、引いた波が砂に描く波打ち際の曲線。日常の美がコレクションになる過程を、風景描写の中で体感していく。
     
    ふたりのデザイナーは感覚的なはずのデザインの由来や意図を、厳しく磨き上げられた言葉でびしびしと語る。見終えたあとは目に映る街がまるで一変、その美が飛び込んでくることに。

    『トリとロキタ』

    アフリカから密航した偽姉弟の運命は?
    搾取と迫害、その先

    (配給:ビターズ・エンド)
    ●監督・脚本/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 
    ●出演/パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ、アウバン・ウカイ、ティヒメン・フーファールツ、シャルロット・デ・ブライネ、ナデージュ・エドラオゴ、マルク・ジンガほか 
    ●3/31~ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国順次公開

    ©LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA – VOO et Be tv – PROXIMUS – RTBF(Télévision belge)  Photos ©Christine Plenus

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    ベルギーに流れ着いた10代後半のロキタと幼いトリ。ドラッグの運び屋で生計を立てるも、ビザ取得の夢を叶えてふたりで暮らすため、ロキタは闇組織の新たな仕事に。3か月間地下室でひとり、大麻を栽培する。トリと離れたロキタは心が不安定になっていく……。
     
    カンヌに愛されるダルデンヌ兄弟による人間ドラマ。異国で寄る辺ない生活を送る幼いふたりの温かい絆、自身の利益を冷酷に求める大人たち。無駄な描写はゼロ、強烈な吸引力で観る者の心をつかむ。先が読めない。

    『雑魚どもよ、大志を抱け!』

    昭和末期、地方の町に暮らすヘタレ男子。がんばれ!

    (配給:東映ビデオ)
    ●原作/足立 紳『弱虫日記』(講談社文庫) 
    ●監督/足立紳 
    ●脚本/松本稔・足立紳 
    ●出演/池川侑希弥(Boys be/関西ジャニーズJr.)、田代輝白石葵一、松藤史恩、岩田奏、蒼井旬、坂元愛登、臼田あさ美、浜野謙太、新津ちせ、河井青葉、永瀬正敏 
    ●3/24~ほか新宿武蔵野館ほか全国順次公開

    ©2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会

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    親友の隆造らとつるんで遊びたい小5の瞬はある日、母から塾通いを言い渡される。塾で映画好きの西野と友達になるも、彼がカツアゲされる姿を目撃して……。
     
    今秋の朝ドラ『ブギウギ』の脚本も手がける足立紳による少年の成長譚。まずは永遠みたいに長い放課後を思い出させるヘタレ小学生男子の日常に半笑い。のんきな瞬ママら、見え隠れする大人の内面も実はカオス。泣きながら弱虫な自分と向き合う瞬に、そんなの遠い昔の大人も、温かい気持ちで胸がいっぱいに。

    ※構成/浅見祥子

    (BE-PAL 2023年4月号より)

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