ヒグマの人喰い事件の新たな考察が話題 。『神々の復讐』著者・中山茂大さんインタビュー
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  • 2023.02.26

    ヒグマの人喰い事件の新たな考察が話題 。『神々の復讐』著者・中山茂大さんインタビュー

    日本では北海道にのみ棲息するヒグマ。かつては人が喰われるという凄惨な事件が数々発生した。話題の本書が点と点の事件を繋ぐ。

    お話をうかがったのは……ノンフィクション作家 中山茂大さん

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    北海道生まれ。大学時代は探検部に所属し世界各地を放浪。卒業後、出版社勤務を経て独立。紀行譚、ホラー小説、DIYなど多彩な著作を持つ。昨年千葉にキャンプ場をオープンした。「事件発生現場を 地図に落とすと 見えてきたんです」

    忘れ去られたヒグマ事件が山ほどあった

    ヒグマは、成獣になると体重100㎏から数百㎏になる大型の野生動物。雑食性で単独行動を好み、めったに人と出くわすことはない。しかし明治以降、人が襲われ喰われる事件が発生した。なかでも、7人が犠牲になった苫前三毛別事件は世の中を震撼させ、長く語り継がれている。中山茂大さんも初めはそうした有名な事件を調べていた。

    ──本書には知られざる事件や事実が多く、とても驚きました。
     
    最初は三毛別の現場に行ったり、当時の新聞を調べたりしていました。すると他の事件も載っていて。それが結構ある。同じころに旧友からヒグマの本を貰ったこともあって、人を襲ったヒグマを調べようと新聞から事件を拾い上げていきました。

    ──当時の新聞の言い回しはとても引き込まれますね。
     
    昔の新聞の表現は率直で生々しい。本書でもそのまま活かそうと、手は加えませんでした。日々新聞を読むと、2日に一度くらいは目を引く事件が出てきて。樺太の伊皿山の事件を見つけたときは鳥肌が立ちました。

    ──恐ろしい事件のはずなのに妙に心掴まれるものがあります。
     
    野次馬的な気持ちもあるんでしょうけど、戦前の事件はとてもドラマチックなんですよね。今にはないものがある。例えば村田銃。単発銃で、一発撃ったら薬莢を出してはめて撃たなければならなかった。1発目を外してしまって、2発目をこめている間にすでに熊が迫っていて……みたいなことが書かれているんです。そういう緊張感。そこにドラマがあると思うんです。いまにはないスリルですよね。

    ──そうした話(事件)ひとつひとつをしらみ潰しに探した。
     
    地元紙はデータベース化されていないので、4か月間ひたすらに(笑)。ひとつの事件でも数か月後に続報が出ていたりするんです。結局、全部調べた(明治11年から昭和20年まで)ので後日談も拾うことができました。そうして集めた事件の現場を地図に落としてみたら、だんだん見えてきたという感じです。

    ──事件の関連性や同じ個体かもとの推測は興味深かったです。
     
    自分はヒグマの専門家ではないので推測したにすぎません。でも、『新版ヒグマ』の著者で50年以上研究を続けておられる門崎允昭先生に資料を持って伺ったことがあるんですが、「この研究は今までに見たことがない。私は少なくとも知らない」と、とても喜んでくださって。それで自信が持てました。

    ──次は何か考えていますか。
     
    昭和37年以降は北海道庁に記録があるのですが、それ以前の昭和20年から36年はいわばブラックボックス。戦争中は狩猟がほぼ止まり、男子は戦場に送られ、銃も徴収。埋もれている事実があるのではと。次はそこを調べてみたいと思っています。

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    執筆のきっかけとなった本。生態や行動、人身事故まで、ヒグマの総合事典的内容だ。『新版ヒグマ 北海道の自然』門崎允昭、犬飼哲夫著。

    『神々の復讐 人喰いヒグマたちの北海道開拓史』
    中山茂大著 講談社 
    ¥2,420

    北海道入植から始まる人とヒグマの壮絶な歴史を繙き、数々の人喰い事件をマッピング。事象を踏まえ埋もれた事実を多角的に推測する。

     

    ※中山さんがオーナーの「しげキャン」は、自らDIYしたプライベートキャンプ場。8組限定だ。
    詳細・予約はこちら。https://www.nap-camp.com/chiba/14805

    ※構成/須藤ナオミ 撮影/山本会里

    (BE-PAL 2023年2月号より)

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