自分にぴったりの「ほど良さ」に出会える瀬戸内の島暮らし | 田舎暮らし・移住 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2022.12.03

    自分にぴったりの「ほど良さ」に出会える瀬戸内の島暮らし

    愛媛県佐島の佐島港に定期船の高速艇が入港している

    佐島の海の玄関口「佐島港」。島民の駐車場にもなっている場所。

     ちょうどいい不便が、ゆったり時間の素

    「ちょうどいい不便さと、ちょうどいい便利さが、佐島にはあるんです」。

     そう話すのは、瀬戸内海に浮かぶ愛媛県上島町の島・佐島の「古民家ゲストハウス汐見の家」スタッフ・工藤美絵さん(52歳)だ。
    愛媛県今治市にあるゲストハウスを退職し、転職期間中の数か月だけ「汐見の家」のオープニングの手伝いをするはずが、気が付いたら、佐島暮らし6年目になる。

     尾道市(広島県)と今治市(愛媛県)の間にある7つの島々を橋で繋いだサイクリストの聖地「しまなみ海道」。その少し東側にある「ゆめしま海道」の島々のひとつが佐島だ。
    「ゆめしま海道」には、弓削島、佐島、生名島、岩城島の4つの有人島があり、すべて愛媛県上島町に属し、それぞれ橋で繋がっている。本州とは陸続きになっておらず、隣の因島や今治などから船で渡らなければならない。が、因島から佐島までは高速船で約20分。佐島と橋で繋がっている同じ町内の生名島は因島から1時間に24便のフェリーが出ており、徒歩での乗船だと片道たったの70円。海上の所要時間もたったの3分ほどと、意外にも交通の便がいい。
    この"数分だけ船に乗る"という、ちょっとした不便さがポイントだ。ほんの少し海を隔てるだけで、上島町の島々に流れる時間は、とてもゆるやかになる。

    港に着岸したフェリーからトラックが2台降りてきている

    生名島と因島(土庄)間を行き来する生名フェリー。

     ちょうどいい便利さがある島

     そんな上島町には、今、IターンやUターン者の2040代が増えている。日本人だけではなく、イギリスやアメリカから移り住む人もいるのだ。そして、他の離島と少し違うコトは、移住者の定着率が良いと感じられるコト。その理由は、なんだろうか?

     「佐島と橋続きの弓削島には、小さいけれどスーパーもあって最低限のモノは揃うから、ひとり暮らしには困らないんですよね」と、美絵さん。

     スーパーだけではない。飲食店も以前から数軒あり、最近は移住者が新たに店をOPENしていたりもする。また、弓削島はヨット乗りの人達の係留スポットにもなっているため、コインランドリーやホテル併設の温泉まである。さらに、弓削島は上島町の中心地であるため、町役場に図書館、警察署、消防署、銀行、郵便局、保育園、小中高校、介護施設、診療所、ガソリンスタンド……必要なモノは事欠かないどころか、内地の山奥の田舎よりはるかに便利がいい。

    焼杉の壁が印象的な2階建ての木造の建物

    「海の駅舎 ふらっと」トイレやコインランドリーはもちろん、休憩スペースも広くて快適。

    バイトからはじまる恵みの循環

     「島暮らしをして気づいたコトは"お金がなくても困窮せずにやっていける"ってコト。野菜や魚とか食べ物は、誰かしら島の人が持って来てくれるコトが多いから、不自由しないんです」。

    その言葉の通り、「汐見の家」のキッチンには野菜も魚も常に溢れている。
    かと言って、まったくお金がなくても、それはそれで現代社会的には困るのだ。「汐見の家」の賃金だけでは、微妙に厳しく、移住してすぐは町内の様々なバイトを掛け持ちしたという。

    昭和初期ぐらいの木造の古民家の入口

    縁側で、ずっとぼ~としていたくなる「汐見の家」。

     弓削島の飲食店のホール担当をしたり、当時は岩城橋がかかっていなかった隣の岩城島へ定期船に乗り、柑橘の箱詰めへ行ったり、はたまたある時は、少し長めに定期船に乗り、ゲルハルト・リヒターの作品が展示されている豊島(上島町内の無人島)のホテルの清掃へ。時には、1か月限定の選挙のお手伝いバイトなんかも。

    同じ町内の島々でバイトをすると、必然と島の人に顔を覚えてもらえる。最初は、なかなか見つからなかったバイトも、知り合い伝いにどんどん入ってくるようになった。「美絵さんにお願いしたら、ちゃんとやってくれる」という絶大の信頼とともに。そして、島に知り合いが増えると、必然的に野菜や魚をもらうコトが増える。ありがたい循環だ。

    波打ち際に落ちているプラスチックごみを素手で拾っている美絵さん

    海辺にさんぽに行く際には、無理のない範囲でゴミ拾いをする美絵さん。

     バイトだけではない。メインである「汐見の家」の仕事もある。
    「汐見の家」は、古民家をリノベーションした男女別相部屋のゲストハウスだ。朝夕のシェアごはんが人気であり、スタッフとゲストが一緒に調理して食べる(強制ではない)。時には、ご近所さんが加わるコトも。そのアットホームさは、まるで島に住んでる感覚に陥いり、ほわっと心がほぐれる。リピーターが多いのも頷ける。

     自分の「ほど良さ」を知ると、島暮らしが楽になる

     「汐見の家」のスタッフとして2年が経った頃。バイト三昧だった美絵さんは、バイトで疲れ果て、好きだったはずの「汐見の家」の仕事が辛いと感じるように。

     「島を出ようかとも考えました。けど、とりあえず、バイトをすべて辞めてみたんです。そうしたら、すごく楽になって、汐見の仕事に楽しく取り組めるようになったんですよ」。

     それは、都会で働き詰めで疲れて田舎へ移住したいと思う状況に似ている気もする。どこに行こうが、もしかしたら、同じコトなのかもしれない。

    「自分にとって、ちょうどいい状況を選ぶ」

    そうするコトが、疲れすぎるまで自分を追い詰めてしまう現代人にとっての一番の答えなのかも。

    左側に黒いTシャツを着た黒髪のケイコさん。右側に青いTシャツを着て猫を抱っこしている美絵さん。

    「汐見の家」を美絵さんと一緒に管理しているIターンの富田桂子さん(左)。二児の母。子供たちは、島人とのコミュニケーションのきっかけを作ってくれる存在でもある。

    けれど、「すべてを辞めてみる」という選択ができるのも、「ちょうどいい不便さと、ちょうどいい便利さと、食に困らない」という"ほど良さ"がそろった上島町の島だからこそなのだろう。

     自分に合う「ほど良さ」に、自分で気づいて納得できるからこそ、その土地で心地よく暮らしを紡いでいけるのだと、教えてもらった気がするのだった。

     

    古民家ゲストハウス汐見の家
    http://shiomihouse.com/

     

     

    私が書きました!
    イラストエッセイスト
    松鳥むう
    滋賀県出身。離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。訪れた日本の島は118島。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島かいてーばん』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島かいてーばん』(スタンダーズ)、『ちょこ旅瀬戸内』(アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)、『島好き最後の聖地 トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)、『むう風土記』(A&F)等。Podcast&Radiotalk 「松鳥むう」で検索♪ http://muu-m.com/

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