キャンピングカーの一日
「動く自宅」「別荘」などと形容されるキャンピングカー。展示車の内装写真などを見ると、ホテルの一室のような洗練されたインテリアに胸が躍ります。
しかし忘れてはいけないのは、どんなに豪華に見えても、あくまでクルマであるということ。自宅とは異なる部分がたくさんあります。今回は朝起きてから寝るまで、キャンピングカーのリアルな衣食住をご紹介します。
すでにキャンピングカーを愛用している方にはきっと “あるある”。これから購入するなら「こんな一面もあるのか」と想像していただけたらと思います。
キャンピングカーの朝は早い
キャンピングカーに乗っていると早起きになります。と言っても、旅が楽しいから……だけではありません。朝日が昇ると、車内温度がぐんぐん上昇してくるからです。
春や晩秋など夜間は寒くて毛布にくるまるほどの気温でも、朝になると日光にさらされた車内の温度は急上昇。太陽の偉大さを感じるとともに、普段何気なく過ごしている住宅の断熱性能には驚かされるばかりです。
もちろん窓を開けたりベンチレーター(換気扇)を回したりと対処しますが、何度も起き上がってスイッチなどを操作しているうちに「寝ていられない!」となるのが常です。
家庭用エアコン搭載のハイグレードモデルでない限り、キャンピングカーの旅は暑さとの闘いと言ってもいいでしょう。個人的には寒さよりも暑さのほうが強敵です。
そのぶん「日が落ちたら早々に寝たほうがいい」という知恵にもつながります。涼しいうちに寝てしまうということですね。
走行前のひと仕事
身支度をととのえて、いざ目的地に出発。そんなときには、ひと仕事あります。ご存じのとおり走行中の車内は前後左右に揺れます。
ダイネット(ダイニング)に優雅に並んだティーセットや、窓辺に飾られた観葉植物は素敵ですが、それらは「展示車だからできること」。
実際は床に置いた荷物はあっという間に車内後方に滑り去り、テーブルの小物は落下、棚に入れた食器はカチャカチャと不快な音を立てます。きっちり畳んだつもりの寝具も、目的地に着いてみれば、だらしなく崩れていることもしばしばです。
荷崩れに気をとられると運転にも集中できないので、いかにきっちり荷物を納めるかが快適なドライブのポイント。100円ショップの滑り止めマットを駆使し、荷物が動かないよう、また小物が出しっ放しにならないよう気をつけます。うっかり飲みかけの飲料なんかが置いてあったら……ご想像のとおりです。
意外に安定するのが「フックにかけたもの」なので、お土産など大事なものは空中に浮かせることを心がけています。また、耐震グッズとして売られている粘着シートも小物の固定におすすめです。
一日の楽しみは食事
キャンピングカーで日本を走るからには、各地で新鮮な野菜や魚介を入手して料理をしたいという人もいると思います。旬に食べる地物は、それだけでごちそうですね。
キャンピングカーの車内で料理をするか否かはユーザーによってかなり方針が分かれます。私のように「一度もシンクを使ったことがない」という外食派から、「釣った魚をその場でさばく」という本格派まで千差万別。
もし車内で調理をしたいと考えるなら、ビルダーの販売している標準的なモデルを過信せず、しっかり動線を考えることをおすすめします。少なくとも展示車のギャレー(キッチン)に実際に立ってみるべきです。
過去の記事で、大人ひとり0.5mというベッド幅の規格が、実用には耐えなかったというエピソードを書きました。面積や高さなど、法で定められた数値は「快適に使える基準」ではなく「法律で許可できる最低限の基準」であることがほとんどです。
ギャレーも同様で、構造要件は満たすけれども、実際に水仕事や調理をするには現実的ではないというモデルを多く見かけます。
火を使った加熱調理の場合、一酸化炭素中毒への対処はもちろん、料理から出る煙や油も考慮に入れなければなりません。車内は匂いが残りやすいので、ベンチレーターなども検討する必要があります。
キャンピングカーで本格的な調理を楽しむなら、やはりオートキャンプ場が最適。
半オープンエアーにしてギャレーを使ったり、熱源だけは車外に設けたりが可能です。サイドオーニングがあれば大がかりな設営が不要ですし、すぐ手の届くところに冷蔵庫やシンクがあるのはかなり快適。クルマから拡張テーブルを引き出せるようなモデルもあります。
ただし、あくまでキャンプ場限定です。道の駅などの公共駐車場はもちろん、RVパークでも車外での調理は禁止されていることが多いのでルールを確認する必要があります。
あとは買ってきたものを食べる “中食” か、ちょっとした小型家電を使う方法もあります。過去記事でご紹介したサンコー株式会社の「2段式超高速弁当箱炊飯器」では炊飯とレトルト食品の温めができます。また、「タケルくん」(炊飯器)や「ワクヨさん」(湯沸かし器)といった車載用家電も市販されています。
洗面や入浴にはひと工夫が必要
国内で流通するモデルのほとんどは、車内で入浴まではできません。防水加工のマルチルームを備えるレイアウトは多くありますが、温水が出るモデルは少数派です。
好きなときに洗面や入浴ができないのは、クルマで寝泊まりするキャンピングカー旅の弱点でもあります。
たとえばRVパークは24時間トイレを利用できることが条件となっていますが、洗面所があるか、温水が使えるかといった条件はまちまちです。
入浴施設を併設しているところでは、入浴料金が込みになっていたり、割引料金で入浴できることが多いものの、翌朝のことまでは考慮されていません。
ご厚意で朝に洗面脱衣所を使わせていただいたこともありますが、あくまで特例と言えるでしょう。真冬に手洗いの冷水で顔を洗うというのもなかなかツライ。
逆に「何度でも入浴可能」というチケットをいただいたり、トイレであっても紙コップや綿棒などの洗面用具が備えられていたりして、気配りに感激することもあります。
人によって「毎日必ず入浴したい」「髪は朝に洗いたい」「化粧なしでは車外に出たくない」といった最低許容ラインが異なるかと思いますが、ボディシートやドライシャンプーなど代替手段を用意しておくのがよいですね。
同じく洗濯も「車内で十分にできないこと」のひとつなので、コインランドリーを活用したり、なるべく手洗いできる服を選ぶなどの工夫が必要になります。見た目よりも「場所をとらず」「洗いやすく」「乾きやすい」衣類にばかり偏るのが目下の悩みです。
それでも楽しいキャンピングカーの旅
長旅を終えて自宅に帰ってくると「好きな時間まで寝られる!」「お湯も水も使い放題!」「好きなときに洗濯できる!」と感激することも少なくありません。リモコンやタイマーで自在に調整できる室温にホッと気が抜けることもしばしば。
しかし、上記のような不便と引き換えにしても惜しくない喜びや楽しみがキャンピングカーにはたくさんあります。帰宅後に思い出されるのは、なんてことのないレトルト食品の味だったり、ぼんやりと乾燥を待ったコインランドリーの一室だったり……。ようやく見つけた入浴施設が休みだった、なんてハプニングも後になれば笑い話です。
決して万能ではない。けれども唯一無二の魅力がある。それがキャンピングカーだと思います。