「失敗した山も徹底的にトレーニングして再度挑戦」山野井泰史さんを追った映画監督が語るほかの登山家との違い | 山・ハイキング・クライミング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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  • 「失敗した山も徹底的にトレーニングして再度挑戦」山野井泰史さんを追った映画監督が語るほかの登山家との違い

    2022.10.29

    登山家の山野井泰史さんを追ったドキュメンタリー映画『人生クライマー  山野井泰史と垂直の世界  完全版』が公開されます。監督の武石浩明さんは大学時代は山岳部に所属し、ヒマラヤ登山経験もあるジャーナリスト。知られざる山野井さんの素顔を語ってもらいました。

    山野井さんと監督のツーショット

    山野井泰史さん(右)と武石浩明監督のメイキングシーン。

    ――今回、映画化に至った経緯を教えてください。

    「マカルー西壁は、まさに”第一章”でした。そのあとも山野井さんを見ていくと、その挫折から立ち上がってなんども挑戦していく。それがスゴくて。上昇気流ばかりで成功したのでは魅力を感じませんが、ぼろぼろになり、また挑戦してぼろぼろになって。そうしたことを何回も繰り返すのをずっとウォッチし、キリがいいのかわかりませんが四半世紀が経った。いまなら、登山家・山野井泰史を見つめ直すいい時期なのかなと。

    それで去年の3月くらいに思い立ち、4月に声をかけて。7月に深夜番組『ドキュメンタリー「解放区」』(TBS)で放送しました。その後、今年3月に『TBSドキュメンタリー映画祭2022』で上映し、さらに新規カットを追加した完全版として劇場公開することになったと。でも不思議なことに、僕が動き出したあとに山野井さんがピオレドール生涯功労賞を受賞したんです。過去の受賞者12人はいずれも、レジェンドのレベルをさらに超えた人ばかり。山野井さんの場合はソロでの数々の挑戦やマカルー西壁の失敗を含め、トータルで評価できるというのが受賞理由でした。挑むことさえ難しい山ばかりですから」

    ――山野井さんは他の登山家と何が大きく違うのでしょうか?

    「登山家って、ヒマラヤに行く人でもあまりトレーニングをしない人が多いんですよ。でも山野井さんの場合は、初めてお会いしたころからアスリートのような考え方で、いまの自分に何が足りないかを徹底的に考えて準備します。

    まずフリークライミングを最高難度までしっかりトレーニングし、目指す山を想定して準備していく。それで年にいちど、どこかの山に挑むのです。とにかく、いろいろなことを考えているのだと思います。冬のフィッツ・ロイ(アルゼンチン南部パタゴニア地方、アンデス山脈にある山)やポタラ北壁(中国・四川省)と、いちど失敗した山にもう一回挑戦することも何回かありましたが、そういうときも徹底的にトレーニングをする。そこが、他の登山家とは全然違います」

    トレーニングしている山野井さん

    登る山を決め、自分に足りないモノを冷静に分析し、日々淡々とトレーニングを積む。

    ――まずいまの自分の力、レベルを正確に把握して冷静に判断する能力に長けると?

    「それが、どんなに難しい山に挑んでも死なないことに通じますよね。ものすごく慎重ですから。映画の中でも支点をつくって、それが効いているかを、そんなにやるの? というくらいに引っ張っていましたよね(*)。あれは、どんなときでもやると言ってました。ハーケンが一本だけ残って助かったことが何回もあるって。そうしたことを何度も繰り返し、学習していったのでしょう。ひとりで登るという特殊なスタイルをとりながら、生き残るために。

    あと映画のなかでも言っていますが、”降りてくる力”も重要です。初見で降りてくるって、ものすごく難しいんですよ。しかもハーケンなどのギアの数を計算しながらです。途中で全部を使い果たしてしまったら、降りられませんから。そうしたことを、日本の壁で何度もトレーニングしているから出来るんですよね。山野井さんがいちばんスゴイのは、どんなところでも降りて帰ってこられるところ。失敗した登山もありますし、大けがを何度もしてますけど、必ず降りてきます」

    *クライミング中は仮に落ちても途中で止まるよう、岩壁の割れ目に金属製の楔(ハーケン)を打ち込んで支点をつくり、数メートルおきにロープを岩壁に固定しながら登る。普通は2人(以上)の組で、先に登る人を、後から登る人がロープを使って下から安全を確保する。

    氷壁を登る山野井さん

    氷壁を登るアイスクライミング。氷が割れる瞬間を思って、見ているだけで恐ろしい。

    ――取材を通して、山野井さんの印象は?

    「人間に対するときと、山に対するときとでは違いますよね。ゾーンに入るとものすごい集中力で、一緒に登っていても、人のことをよ~く見ています。だから一緒に登った人は、怖いって言いますよ。見られているから。映画にも登場するポーランドの登山家、ヴォイテク・クルティカもそうですが、山野井さんも、一緒に登った人を含めて誰も死んでないんです」

    ――映画の中でも、「一緒に登っている人がどういう状態かがすごく気になる」とおっしゃってましたね?

    「でも奥さんの妙子さんに対しては違うみたいです。完全に信頼しているから、ほっといてもいいんですって。ほっといて大丈夫、生きていけると」

    ――山野井さんは2002年、ギャチュンカン北壁(エベレストとチョ・オユーの間にある山。標高7,952m)に妙子さんと挑み、雪崩に遭って。凍傷で手足10本の指を失ったとか。

    「そもそも靴の調子が悪く、右足が濡れてしまったらしいです。それで右足の指が全部なくなって。さらに下山するときに目が見えなくなってしまったので、ハーケンを打ち込むためにクラック、溝を指で確かめて、それで指も凍傷になってしまったと。でも手足の指を失ったから、逆にマカルー西壁の呪縛から解き放たれたのかもしれません。もうマカルー西壁は無理ですから、他の目標を立てるしかない。そうでなかったら、ず~っとマカルー西壁を登ろうとしていたと思います」

    ――これからこの映画を観る方に一言。

    「タイトルに『人生クライマー』とあるように、山野井さんの人生そのものが魅力的だと思うんです。これまでの多くの登山を扱った映画のように、海外の登山の迫力あるシーンをベースにしたものではありません。でも如何に観た人の心に残るか、ちょっと考えさせるものになるか。自分でつくっていながらなんですが、いい映画だなと(笑)。なんど挫折をしても立ち向かい、でも楽しみながら生きている。彼の生き方がすべてつまったような、心にしみる映画だと思います」

    人生クライマーのメイン写真

    作品データ

    映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』(配給:KADOKAWA)

    ●監督:武石浩明
    ●ナレーション:岡田准一
    ●11月25日~角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
    (c)TBSテレビ

    取材・文/浅見祥子

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