福岡の小さな書店「本屋アルゼンチン」から広がる、豊かな旅の世界
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  • 2022.09.26

    福岡の小さな書店「本屋アルゼンチン」から広がる、豊かな旅の世界

    本屋アルゼンチン

    福岡県糸島市にある「本屋アルゼンチン」。コンパクトな本屋の前には広い芝生が広がっています。筆者が本屋の中にいる間、娘と夫は芝生でサッカーをして遊んでいました。

    今年7月、2021年3月のオープン以来、ずっと気になっていた「本屋アルゼンチン」に行ってきました。店主が選んで仕入れた本が1冊ずつ机や棚に並ぶ空間に、すっかり魅了されてしまいました。

    そこは、旅の出発点

    ワンクリックで本が買える時代に、わざわざ本屋に足を運ぶ理由はなんでしょうか?

    人はそこに「未知との出会い」を求めているのではないでしょうか。目的の本ではない、偶然の本との出会いを。

    JR筑肥線電車

    JR筑肥線・大入駅。ちょうど真っ赤な電車が発車するところ。線路の向こう側には糸島の海が広がり、手前には緑が青々と生茂る山。この駅から徒歩1分のところに「本屋アルゼンチン」はあります。

    わずか4.5坪の小さな本屋

    福岡県糸島市二丈にある「本屋アルゼンチン」は、合同会社こっからが運営する4.5坪の小さな本屋です。週末だけオープンしています。「糸島には本屋がなかったので、自分たちで作ってしまった」という、店主たちの夢がつまった空間です。店主の大谷直紀さんと、その仲間たちが、職人歴60年の大工さんにしかられながら建てたという建物の中には、店主選りすぐりの本がゆったりと並んでいます。

    本屋アルゼンチン

    「本屋アルゼンチン」の店内。座り心地の良いソファに腰掛けて、自分だけの時間を過ごしてみませんか。

    建設中の本屋アルゼンチン

    本屋アルゼンチンを建設中のメンバーたち。

    「ビジネスと学問の橋渡しになる一冊」を

    コンパクトな店内には、絵本や哲学、文学や雑誌と多様なジャンルの本が並んでいます。筆者も定期的に近所の本屋に足を運ぶのですが、ここで目にする本は、初めてのものばかり。自分では見つけることのできないような本がたくさん並んでいて、とても刺激的です。店主の大谷さんに、店内に並べている本についてお話を伺いました。

    「ひとことでいうと、『ビジネスと学問の橋渡しになる一冊』をイメージして選んでいます。

    お客様の大半が企業勤めなので、タイムパフォーマンス(時間帯効果)を常に問われる環境にいます。僕自身もそうでしたが、書籍は『すぐに会社で活かせるか?』『キャリア形成に有用か?』が選書の観点になります。

    目の前のことに集中しすぎると、焦って大事な観点を見落としたり、全体を俯瞰するスペースがなくなってきます。

    『急がば回れ』の心持ちで、『人間とは何か』『生活とは何か』『ビジネスとは何か』などを学問の領域から問い直してくれるような書籍を軸としています。

    明日には役には立たないかもしれませんが、明後日には効いてくる。そんなイメージです。

    加えて、アカデミック過ぎると敷居の高さを感じて余計に遠ざけてしまうため、“あいだ”を取り持つ読みやすさとビジネスへのつながりがある程度想起できる、絶妙な具合を狙っています」

    大手企業で人事を担当したのち、糸島から人材開発に関わる事業を起こした店主が、次世代に伝えたい想いを「本屋アルゼンチン」という場を通して届けているように感じます。

    本屋アルゼンチンのフライヤー

    「本屋アルゼンチン」に置いてあるフライヤーです。設立に込めた店主の想いがギュッと詰まっています。

    旅先で本の仕入れを楽しむ

    「本屋アルゼンチン」に並ぶ本について店主にお話を伺う中で、どのように本を仕入れているのかが気になり聞いてみました。

    本の仕入れ方は大きく2つあるといいます。

    「ひとつは、一般的な本屋さんは取次店に頼って本を仕入れていますが、ウチは本屋としては素人。なので東京・神保町にある、本屋だけが入れる『八木書店』さんで実際に手にとって装丁をみたり、作者・内容、アルゼンチンにフィットするかなどをめくりながら選んでいます。すべての本を読んだわけではありませんが、頭の中にある作者の主張やジャンルの関係図を頼りに選んでいます。

    ふたつ目は、出張先・旅先ではできるだけ古本屋さんを回るようにしています。そこでピンとくる本があれば抜いてきますね。北海道では北海道大学周辺の本屋さんに通い詰め、持って帰るのが苦労するぐらい購入しましたし、京都に行くときには毎回スーツケースは空っぽでも持っていくようにしています。

    旅先で仕入れを意識するのはいいですね。普段よりも感覚が鋭いのか、本のタイトルや作者が飛び込んできてくれるような感じです。まぁ、小さい店だからこんな感じでも事業が回るんですけどね……」

    店主が旅先や出張先で歩き回って見つけてきた本が並ぶ空間。1冊1冊に、店頭に並ぶまでのストーリーがあるというのも面白いですね。

    書店員は元・大学教授

    「本屋アルゼンチン」の書店員として働くみーさんこと南さんは、この3月まで九州大学大学院の教授としてご活躍されていました。「本屋アルゼンチン」主催の大人の発達スクール「Un」のシェルパ(道先案内人)も務めていらっしゃいます。

    本屋をやることがずっと夢でした。なので大学教授を退任後、修行させてもらっているんです。ここで働いていると、いろんなイベントで面白い出会いもあり、とても楽しいんですよ」と笑顔で語ってくださいました。

    ちなみに筆者は、「本屋アルゼンチン」のインスタグラム更新を密かに楽しみにしています。みーさんの言葉で紹介される本の世界に触れることができたり、不定期でおすすめの本や、その日に売れた本が紹介されます。現地に赴くことが難しい方も「本屋アルゼンチン」の世界観にそっと触れることができます。

    本屋のスタッフ、ミーさん

    4月から書店スタッフとして働くみーさん。基本、隔週土曜の午後に「本屋アルゼンチン」にいらっしゃいます。「『本屋作りたいんです〜』と言っていた店主が、あれよあれよという間に自分たちの手で本屋を作って行くスピード感や行動力、すごいなぁ」と、みーさん。

    立ち止まり、遠くを見つめることができる場所

    テクノロジーが発達していく世の中では、便利になった分、時間に追われることが多くなったように感じています。ワンクリックで本が買える時代に、ちょっと足をのばして「本屋アルゼンチン」に来てみたら、そこは旅の終着点ではなく、出発点でした。

    自由気ままに旅することは難しくても、「新しい目を持つ体験は、旅である」(お店のフライヤーに記載されている店主の言葉より)を胸に秘めて……。

    「本屋アルゼンチン」で店主オススメの本を手に取り、未知の世界へ旅してみませんか。

    本屋アルゼンチン

    • 住所:福岡県糸島市二丈福井3119-4
    • 最寄り駅:JR筑肥線・大入駅
    • 営業時間:基本、土日12:00~16:30 ※月ごとのオープン日など詳細はインスタグラムをご確認ください
    • 追加情報:「本屋アルゼンチン」主催の『本屋でキャリアを考える会』、『大人の発達スクール「Un」』などのイベントも注目。ご興味をお持ちの方は「本屋アルゼンチン」を運営する合同会社こっからのホームページへ
    合同会社こっからオフィスの入り口にある看板

    こっからオフィスの入り口にはこの看板。

    ふるやさおり
    私が書きました!
    寄り道ライター
    ふるや さおり
    福岡在住、1児の母。福岡をはじめ九州のローカル情報や自然、アウトドア、スローライフに関する情報をお届けし、皆さんの人生に「ワクワクの種」を撒くお手伝いができれば嬉しいです。18年半の会社員生活を経て、2021年10月からフリーランス。「正しい道より、楽しい道を。最短距離より、寄り道を楽しんで」がモットー。noteにて「寄り道な日々」を発信中! https://note.com/sao7878

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