『遠野物語』の元になる伝承を柳田国男に語って聞かせた、佐々木喜善の著作『座敷童の話』と『老媼夜譚』が読みやすい現代仮名遣いで復活。
民俗学、伝承・昔話好きにはたまらない一冊だ。
●ザシキワラシの誕生伝説は少し残酷
前半はザシキワラシにまつわる伝承を集めた『座敷童子の話』。ザシキワラシ、ザシキボッコ、カラコワラシ、クラワラシ、ノタバリコ、テフピラコ、ホソデ、ナガテ……
「ザシキワラシのいる間は裕福だか、出て行ってしまうとその家は零落する」というのはみなさんご存知のお話し。でも、ザシキワラシの由来となると知らない人も多いのではないだろうか。
盗み癖のある子は実の父親に………され、「トトなにすんじゃ」という言葉を残し……。大角を持った化け物の正体は、味噌樽に逆さづりされた……。遠野物語のレギュラー、オクナイサマは元祖ニート? 座敷の由来は座敷牢?
ザシキワラシの誕生伝説には結構残酷なところがある。実話が元になっているむかし話はこども相手にも容赦しない。一般的な福の神=ザシキワラシ像が実はいいとこ取りだったことになかなかの衝撃を受けた。でも、何故こんなに魅力的な神様(妖怪)が生まれたのかを識ることで愛おしさが増す。
全国ザシキワラシ調査の協力者の中に、あのフィールドワークの達人が登場するのも嬉しい。
そしてお話は、婆さまの夜語り(『老媼夜譚』)へとつづく。
●お話採集フィールドワークの結晶
「私は婆様の家に、1月の下旬から3月の初めまで、ざっと五十余日の間ほとんど毎日のように通った。深雪も踏み分け、吹雪の夜も往った」(本文から)
外は大吹雪。戸のすき間から吹き込む粉雪が、床に小さな尾根のように積もる。暖をとるためにたっぷりとくべた生木の混じる薪が囲炉裏でブスブスと燃える。婆様も霞むほど煙ぶる炉端_燻され真っ赤になった目で梁を見あげれば、そこに、こちらをじっと見つめる小さな顔が……
ゾッとする話、マヌケな話、ジンとくる話、理不尽な話、よくわからない話……。婆さまの口から、囲炉裏端に集まった人の口から、昼に夜に、じんわりじんわりと百三つのお話が語られ、積もっていく。
そう、著者は昆虫や植物を集めるように物語を採集する。
「手帳が二冊三冊とだんだん増えて行くのが嬉しかった」(本文から)
そこに出向き、自分の耳で聞き、足りないものは人脈を使い調べる。「話」を手帳という標本箱に集める。まさにフィールドワーク。町で里で山で川で海で、ものを見て、ものに触れ、人と話す……自分の足で物語を探しだし、集めていく。
フィールドには、指先を動かすだけで手に入る情報とは違う面白さがあふれている。
この本は作者が見つけたその面白さの結晶だ。
『ザシキワラシと婆さま夜語り_遠野のむかし話』
著: 佐々木喜善
河出書房新社
2020年4月30日初版発行
SBN:978-4-309-02881-1
Cコード:0095
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309028811/
その気になれば、誰でもお話しの採集家になれる。にわか民俗学者になって、出向いた先々でお話を集めてみよう。
第一歩は「メモ魔」になること。常に手帳(ビーパル・フィールドノートとかね)を持ち歩いて、なんでもメモる。
スマホで写真を撮るのもいい。そこにひと言、自分の言葉を加えるだけで、1枚の写真が「物語」へと昇華する。
※こちらの記事は過去の読者投稿によるものです。
yuzuさん
野外活動好きのイラストレーターです