珍しい雑魚を美味しく!予約でいっぱいの人気店「Kai’s Kithcen」の未来を紡ぐストーリー | アウトドアショップ・自然派の店 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2020.10.31

    珍しい雑魚を美味しく!予約でいっぱいの人気店「Kai’s Kithcen」の未来を紡ぐストーリー

    私が書きました!
    イラストエッセイスト
    松鳥むう
    離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。訪れた日本の島は107島。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島かいてーばん』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島かいてーばん』(スタンダーズ)、『ちょこ旅瀬戸内』(アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)、『島好き最後の聖地 トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)、最新刊は初監修本『初めてのひとり旅』(エイ出版社)等。http://muu-m.com/

    ムカチのカチカ

    みなさん、“雑魚”はお好きですか? 市場に出回らない謎な魚たち“雑魚”。それらを超絶美味しく食べられる店が、神奈川県二宮町にあるという。

    小さく、かつ人口もさほど多くない町だから店は混まないだろうと思って油断したら大間違い! 予約でいっぱいの日が多々ある人気店なのだ。その名は「Kai’s Kitchen」。

    JR東海道線二宮駅から徒歩約5分、国道1号線沿いに佇む小さな古民家。もともと、落花生の焙煎所だった建物だ。日本で初めて落花生の種を撒いたといわれている二宮の町らしい。木製枠のガラスの引き戸をカラカラと開けると、そこには広い土間が広がる。テーブル席や小上がり、小さなカウンターがゆったりと配置され、左手奥の窓が開け放たれた小部屋はオープンキッチン風になっている。

    31歳の若きオーナーシェフ・甲斐昂成さんが腕をふるい、土間では、1歳になる美羽ちゃんをおんぶ紐で背負ってキッチンと客席を行き来するパートナーのゆかさんの姿がある。

    「今日は、この魚たちを調理してお出しします」。ゆかさんがテーブルに抱えて持って来てくれたトロ箱には、魚たちが海から揚がったそのまんまの姿でズラリと並ぶ。それぞれの名前が書かれた木製手板も共に並べられている。ネンブツダイ、イトヒキアジ、ハシキンメ……etc.。初めて見聞きする魚ばかりだ。雑魚は島や漁師町でも漁師さん達と仲良くならないとなかなか手に入り辛い。実は貴重な魚たちなのである。

    「ネンブツダイは唐揚げにすると美味しいんです」。「これは柊の葉に似てるからオキヒイラギって言う名前なんですよ」。ゆかさんは、一品一品丁寧に説明をしながら運んで来てくれる。一緒に食べに行った某食堂の店主である友人は「こんな丁寧な仕事(=調理)、ほんまに素晴らしいなー!」と、ひとくち口にする度に何度も何度も大絶賛のため息をついていた。

    「“ムカチのカチカ”がテーマなんです」。一寸の迷いもない言葉が甲斐さんから飛び出す。

    「ある地域ではゴミ扱いの食材が別の地域では美味しい食材として需要があるんです。例えば、クロシビカマス。これは、千葉では雑魚ですが、小田原では高値で売買されているんですよ。その土地の人や雑魚を扱う人が、その土地の雑魚を無価値なモノと決めつけてしまっているだけなんですよね」

    甲斐さんが“価値”について初めて疑問を持ったのは大学生の頃。生まれも育ちも熊本で、大学も地元熊本の学校に通っていた。釣りとバイクに明け暮れていた当時、釣りの帰りに立ち寄った天草諸島の道の駅のような地の物を売っている店で、海水と共にビニール袋に詰められ販売されている魚たちに出会った。まだ、元気に生きている。鮮度抜群だ。なのに、町なかのスーパーと比べると、値段はめちゃくちゃ安い。締めてからだいぶ経ち、鮮度が落ちているのに、なぜ、スーパーに並ぶ魚は高い値段が付いているのだろう? 雑魚そのものよりも、“流通”に疑問を持った。

    その時のひっかかりは、就職活動の際にも現れる。大学卒業後、甲斐さんが就職したのは飲食店だった。九州の離島で朝に獲れた魚介を空輸して、夕方には東京の店に出し、それらの流れもすべてお客さんにストーリーとして魅せるというコンセプトの会社だ。

    「1年間、東京で流通マーケットを学んで熊本に帰ろうっていう気持ちだったんです」

    入職当初は鶏肉関係の店舗に勤務していたが、魚好きというコトでいつの間にやら魚部門の店を任されるコトに。また、バイヤーと話しているうちに生粋の魚好きだと知られ、仕入れたメインの魚に混じって、毎度毎度、季節ごとの雑魚が入って来るようになった。自身も知らない雑魚がどんどんやって来る。そこからは独学と実践あるのみ。辞典で名前や生態等を調べる。調理して、まずは自分で食べてみる。そして、美味しいと判断すれば、店のメニューへ次々と取り入れていった。

    「雑魚が市場に出回らない理由は、鮮度落ちが早いからなんです。でも、朝獲れを空輸して夕方から夜に調理して出すなら、鮮度にまったく問題はないんですよね」

    そりゃそうである。現地の居酒屋だって、朝獲れを仕入れて客に出すのは夜なのだから。甲斐さんは、雑魚の想像以上の美味しさと共に、鮮度落ちが早かったり、需要がないから高く売れない等のマイナス面のストーリーもすべてお客さんに伝えながら雑魚のメニューを増やしていった。すると、次第に雑魚好きの人たちが常連として付くようになっていったのだ。

    その常連のひとりで辻堂(神奈川県藤沢市)在住の人に誘われ、その後、甲斐さんたちは東京のビル街から海に程近い辻堂へ引っ越すコトになる。

    「都内のスーパーの売り場を見た時に、ココでずっと生活するのは無理だなって思ったんです。魚は切り身ばかりで、魚そのものの姿形がない。野菜もしなっていてビニールに詰められている。食材が新鮮じゃなくて……」と。

    これまた、そりゃそうだである。生まれ育ちは熊本の自然豊かな山。小学生の頃から、親戚の釣り好きおじさんに連れられて、天草諸島等の海でピチピチと粋のいい魚を釣り、それらを食べて育ったのだから。九州や瀬戸内海沿岸に住む私の友人たちも「都会のスーパーに売ってる魚は買う気がしない。鮮度が落ち過ぎていて……」と口を揃えて言う。“ホンモノの新鮮さ”を見て育ったからこそだ。

    さて、越した先の湘南は辻堂で、Kai’s Kitchenの前身が誕生する。知り合ったカフェオーナーに声をかけられ、週末だけ間借りで店をはじめるコトになったのだ。もちろん、店で扱うのは雑魚たちである。

    「私もこの時からお店を手伝ってるんです。雑魚の名前と味、どの調理方法があう魚だとかは、毎日食べて覚えました。もともと、福岡出身で魚好きなんです、私も」

    そう語るのはゆかさん。料理を運んで来てくれるゆかさんの雑魚の説明が、すべて丁寧で細やかだったコトも、なるほどと納得である。

    未来へ紡ぐストーリー

    ところで、ココで私の中にぽわんっと浮かんだ文字がひとつ。「謎」。そう、謎なんである。町が賑わっているのは、二宮より断然、辻堂だ。素人考えだと、飲食店をやるなら辻堂の方が良いのではないかと思えてしまう。

    「この家のストーリーを断ち切るコトなく紡ぎたかったんです」と言う甲斐さん。今のKai’s Kitchenのこの場所は、以前、甲斐さんの友人が住んでいたのだと言う。落花生の焙煎所だった頃からリノベーションはされているものの、現在、飲食店スペースになっている土間は焙煎所の頃のままだった。

    「知らない人がココを借りて土間をなくしたり、この家のストーリーを壊されるのが嫌で……、だったら自分が譲り受けようと思って」と。甲斐さんの気持ちの真ん中にあるのはいつも何に対しても「そのモノじたいのストーリー」だ。この建物も雑魚も、ストーリーまですべてひっくるめて大切に想うからこそ、それらをお客さんにも伝えようと思う。そうした想いが、丁寧な調理として表れるのだろう。と、思いきや、甲斐さんからは、斜め上をいく言葉が返って来た。

    「僕はあくまでも“流通”を良い形に変えたいんです。調理人としてやりたいわけではないんですよ」

    はいーーーーー!!??
    あまりにも予想外すぎて、脳内で小さな私が何人も汗をかきながら、右往左往! 甲斐さんは斜め上の、更に斜め上発言を連発する。

    「この場所(二宮町のKai’s Kitchen)も、魚好きで調理も好きで、この店でやりたいって人が現れたら、僕のノウハウをすべて教えるから譲りたいって考えているんです」。私の脳内、完全にショート! 素敵にリノベーションされた古民家。丁寧で美味しい料理。しかも、他にはない珍しい雑魚料理。……てっきり、コレが甲斐さんの目指してたトコロなのかと思っていたら、当の本人は、まだ、道途中であり、最終形態ではないと言う。

    「無価値と思われているモノに価値を与えるコトで、その無価値と思われていたモノを持って困っていた人に、ちゃんとした価値としてお金が支払われて潤う流通の形を作りたいんです」

    彼の最終形態はココという点だけではなく、それこそ、地球まるっと包み込むぐらいの話だった。

    今やりたいコトは、全国各地の食文化を訪ねるコトだと言う。その土地で、雑魚と言われるモノを美味しく調理して地元の人に食べてもらい、その価値を知ってもらいたいと。そして、各地の食文化が混じり合うコトで、ある土地ではゴミであったモノが、別のある土地では宝物で、すべてのモノに価値があるコトを伝えていきたいのだと。

    その話を聞いた瞬間、25年前の私が私の中にポッと現れた。無類のアニメ好き高校生だった私。けれど、当時はアニメ好きはアニメオタクと呼ばれ蔑まられていた。それがどうだ。25年経った今、“クールジャパン”だ、“アニメは日本の文化”だと国内外が認めるほどに。こんな未来は予測だにしなかった。高校生の私が知ったら、なんて天国のような世の中になったんだと飛び跳ねて大感動するだろう。価値は、時代と共に確実に変わる。それに対して、愛情と熱意を注ぐ人が存在し続けていれば。

    Kai’sKitchenの小上がりで、甲斐さんの1歳になる娘っ子、美羽ちゃんが、きゃっきゃっとアンパンマンの人形と戯れている。彼女が大人になった時、雑魚と呼ばれ、世間には価値がないと思われていた魚たちが、価値ある食材として各家庭の食卓に、様々なお店のメニューにと当たり前のように存在する世の中に、きっとなっているのだろう。もしかしたら、雑魚という言葉すら過去のモノになっているかもしれない。

    死ぬほど暑かった夏が終わり、なんだか短い秋も過ぎようとしている。雑魚も季節ごとに変わる。そろそろまた、旬の雑魚を食べにKai’s Kitchenに行きたいなと思いはじめている今日この頃である。

    【データ】
    Kai’s Kitchen
    住所:神奈川県中郡二宮町二宮169-4
    TEL:なし(予約はサイト内の予約フォームから)
    営業時間:18~22時(※来店受付は20時まで)
    アクセス:JR二宮駅下車 徒歩約5分
    http://kais-kitchen.shop/

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