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――沖さんは、全国にいくつかある“猫島”といわれる猫がたくさんすむ島に、よく1週間くらい滞在して撮影されているんですよね?実際どんな感じで撮影しているんですか?
島を歩いて、観察しながら撮っています。しばらく経つと、この子は頭なでたら喜ぶけど、この子は頭なでたらねこパンチ。でも、お尻をポンポンと叩いたら喜ぶよね。とか、その子ずつの個性が見えてくるんです。
ご飯をもらえる場所に、たくさん猫が寄ってくるんですけど、そのなかにも関係図があって。雄猫ってふつう子供に構わないんですけど、雄猫がぜんぜん知らへん子猫を毛繕いしてたりする。かと思えば、「シャーシャー」言って仲悪い親子もいるし、ご飯もらうときは寄ってくるけど、それ以外はめっちゃ離れたところにポツンとおる猫とか、そういうのを見ていくと、人間くさいなぁーって。

――人間みたいに、猫の社会にもいろいろあるんですね。
そうなんです。こんなに見た目かわいくて、別に何もしなくても大事にしてもらえる存在なのに、いちいち面倒くさい関係図があって、そこも含めて猫のかわいさなんだなと。「この子って、きっとこういうこと考えてるよね?」と、見た人が感じられる。それで「やっぱりかわいいよね」という猫の内面が見える写真を撮れたらいいなと思っています。
――沖さんの写真は、猫の性格が本当に見える感じがします!まず、じっくり猫を観察することが重要なんですね。
はい。猫って基本寝てるか、座って遠くのほうを見てるんです。夏場に動かない猫がいて「なんでココおるんやろ」と思って近づいてしゃがんでみると、風の通り道になっていて「涼しい所におったんやぁ!」ということもあります。

当たり前なんですけど、猫には心があって、それぞれのアイデンティティーがあるってことを、それまで猫を飼える環境ではなかったので知らなかったんですよ。よく考えれば人と一緒で当然ふつうの話なんですけど。
ある日、ひとりだけ座ってずっとトンボがくるのを待ってる、トンボが大好きな子がいたんですよ。
――想像するだけでかわいいですね。
そう、猫の行動には意図があって。その子の自発的に出た意志がめちゃめちゃかわいいと思うんですよ。トンボが捕れなくて、こっちに振り向いて戻るときに、なんか悲しそうに「……にゃー」って泣くんです。
――かわいい(笑)。
あれだけの時間待ったのに、トンボが捕れなくって。でもなんかわかるんですよ「つらいよな」って(笑)。また翌日同じ時間帯に待ってるんですよね。一回つかまえた経験があるから。そういうのを見てると「猫は考えてんだなー」って、ますますわかって。
――かなりの時間、沖さんも猫を見ているんですね。
見てますね。ただ、かわいいので大丈夫です。もし「この日にこれだけ枚数を撮らなければならない」みたいなノルマがあったら、トンボを待ってる猫を待つって苦しいと思うんですよ。トンボがくるのは夕方だから、撮れる時間も限られてくるわけじゃないですか。
しかも、トンボがきても「結局やんないんだ」ってことも大いにあって。ふつうだったら腹立つじゃないですか。「やれよ!」って。でもそういう感情になると逆に猫も察してか、やんなかったり、こっちがもう集中切らして「じゃあ今日はもう飛ばへんよね?」って動こうとしたら飛んだり。裏目裏目なこともあって。

――そんなことが。何かが伝わるんですかね。
猫ってなんもしないと言われがちじゃないですか。でも絶対わざとしてないと思っていて。耳も動いてるし、なんとなく視野に入るような動きもするし、声を聞いていても、明らかに情報は拾ってるうえで動いているんですよね。
――沖さんの存在にも気づいてると。
そうそう。その上で「やらない」っていう選択をしていると僕は思っています。期待されてると思って応えてくれる猫もいるけど、大体はこっちの心に余裕がないときほど、猫ってなかなかやってくれなくて。
わかんないですけど、撮るときはノルマとか全く考えずに、自分の悩みを極力減らしてのぞんだほうがいいですね。悩みがあると、ずっと悩みを気にしながらカメラを構えることになるので、パッと猫が動いた瞬間に、悩みに気を取られて脳が止まってるから、その瞬間をドンピシャで逃すんですよ。

――日常で「あれやんなきゃなー」とよぎることはよくありますけど。
相手が人なら話が聞けていなかったりしても、「ごめんごめん!聞いてなかった」で終わらせられるけど、猫にそれをしてしまうと実際に写真は撮れないんで、本当に撮ることだけに集中して「目の前を見る」作業というか意識が重要。撮影に悩みを持っていきたくないです。だからシールブックの入稿さっさとやろうぜっていう(笑)。
――その節は、入稿が遅れてすみませんでした!(笑)猫を見に行くときは、心配事がある状態はよくないってことですね。
よくないです。だから撮影の旅に出る前は、持っている仕事を全部吐き出して、旅しているときは写真を撮ることが最優先なので他の仕事はガン無視してますね。メールやらなんやら、もうどうでもいい(笑)。
――猫と仲良くなる方法はありますか?
僕は猫に特別好かれるタイプではないので、逃げられても、それはそれでかわいいんですよね。別に懐く子がいいわけではなくて。人もみんな性格違うように、猫もいろいろな性格があるので、逃げられたからって「コイツはもうだめ」じゃなくて、この子はこの子なりの楽しみ方があるって、ちょっと離れて眺めてみる。
――一匹に対して最大でどれくらいの時間、観察しているんですか?
いやでも、執着はしないです。推しは必ず島に行くとできちゃうけど、だからといって推しをずっと追いかけてるわけではなくて。撮影している今、ほかの場所でも猫たちは奇跡を起こしてるはずだと思ってるんですよ。粘りすぎると、粘った時間の浪費を考えて元取りたいって、さらに粘ってしまうじゃないですか。博打みたいなもんで。このパチンコ台から出るまで動きたくないなって。
――あと一万円入れちゃおうかなと。
やったことないけどそういうもんじゃないですか、博打って。実際僕の場合は、その子らしさが見える瞬間を撮りたいから、推しに粘りすぎないように意識してますね。

――猫たちの性格や特徴がわかるようになると、いい写真が撮れるんですね。
それもありますよね。たとえば、前に来たときはこの子が階段からごろんごろん転げ落ちる遊びをするって知らなくてポジションとれなかったけど、この子が今度同じところに行ったときに「あ、またこの子、転がるかもしれない」みたいに、その子の今のブームやクセが見えると、ポジションとりやすいですよね。

撮ったけど、これが100点じゃないな。階段に寄って、この子と同じくらいの高さで狙ったらもっとかわいく撮れたのになぁと思ったら、翌日それに挑戦する。そうやってちょっとずつ撮れなかったことを反省しながら「この子のクセってこうだよね」っていうのが見えてくると撮れることもあるよね。ただ生き物なので必ずやってくれるわけではないよね。その辺は仕方がないよね。という、流れを楽しんでる感じだよね。
――プロファイリングみたいに今日はやるかなと予想して、打率を上げる。
それに近いかもしれない。当たるかわかんないけど、そういうところを楽しんでますね。撮れなくても「この子こういうこともするんだ。もし今度来たら撮れるよね」って頭で理解させとけば、そのシチュエーションがきたときに、めっちゃ気持ちいいですよね。
――猫写真家って、そういわれてみると意外と“自然写真家”なんですね。野鳥や動物の写真家さんたちと言っていることがあまり変わらない。
でも猫って多少なりともコントロールできるじゃないですか。でも僕はその子の心やその子らしさが見える瞬間が見たいので、何かにつられて受動的に動いているなら撮らなくていいかなと。
人間でも「優等生でつまんねーなー、お金につられてんなー」って子よりかは、「今日もう仕事したくないから、コンビニ行ってこーよっと」着いたら「あ、ちいかわ、かわいいなぁ」ってなんか手に取って見てる。そういう行動のほうがその子らしくてかわいいじゃないですか。会社にとってはプラスかわかんないですけど(笑)。
――そういう意味で、猫がいちばん素が出ている生き物なんですかね?
わかんないですけど、ワンちゃんって人ありきになっちゃうところがあると勝手に思ってるんですけど、猫って、人と猫の別々の時間軸があって、猫は猫で機嫌ようやってるけど、人と関わりたいときは人の時間軸に引っついて、また離れて。ずっと猫の心のままにやってなんだなと。

「どうした?おまえ、かわいいなぁ~」と。(写真/沖昌之)
――シールブックのなかでは「おすわり」の状態だと見かけがちですが「アクロバティック」や「ごろにゃん」あたりは性格わかってないと撮れないですよね。

猫が動かなくて撮れない日があったりも当然あるんですけど、そういうときに猫のお世話をしてる方が、猫に運動させないとなーとか言って、おもちゃを使って遊んだりするんですよね。
本心なのかどうなのか、僕を働かせたいだけなのかそこはわからないのですが、猫もノリノリなのでそれならばと、お言葉に甘えて撮影したりもします。

――全部野生の生き物じゃなくて、人間との関係も猫の本来の姿ですしね。
そう、そういうところがかわいい。飽きないですね。

――猫仲間の人など、誰かと一緒に撮ることはありますか?
基本は独りですけど、たまに現地で合流することはありますね。でも撮るときは独りで、飯食うときに会って、また別々に撮りにいく感じです。人が来ちゃうと人懐っこい子はその人のほうに挨拶しに行くので、何かしら猫も考えることが増えてしまう。それを極力排除したいから、あんまり人のいるところでは撮りたくないけど、逆にその人がいるからすることもあるし、むずかしいですよね。
――へぇー。
そうなんやぁ。
――心読まれた!?
「なんか売れそうな本作りたいなぁ」「へぇ、猫って人気あるんやぁ」「猫のシールブックいいかもしれん」「誰か猫の写真撮ってる人いないかなぁ」「インスタで探そっと」「沖さんって人がいるんやぁ」「沖さんに声かけてみようかなぁ、写真かわいいし~」
――なんでそんなにわかるんですか!
で、作り始めてみたら「なんか沖さんよくわかんないなぁ、むずかしいなぁ、これ~」
――それはハズれてますよ!どの写真もかわいいから、写真選ぶのにめっちゃ時間がかかっただけです!
ははは(笑)。
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著者プロフィール

沖昌之(おき・まさゆき)
猫写真家。1978年兵庫県神戸市生まれ。猫の表情やしぐさから伝わる猫同士の複雑な関係性や、人間臭さを感じさせる撮影を得意とする。写真集『必死すぎるネコ』シリーズ3作(辰巳出版)、『これネコ それネコ?』(インプレス)など多数の著書がある。公式Instagram https://www.instagram.com/okirakuoki/







