にっぽん刃物語「フリースクールの小刀」~夢中になれることを毎日探せるのは子供時代の特権である~

2019.06.13

刃物の持ち主
NPO法人自然スクールトエック代表
伊勢達郎さん
阿南市の農家に生まれる。トエックの教育方針は、叱らない、褒めない、比較も評価もしない。そして認め、見守ることだ。
※ 所属や肩書は取材当時のものです。

※この記事は、BE-PAL 2016年1月号『 フィールドナイフ列伝 18 フリースクールの小刀 』の再掲です。

かつては肥後守も使っていたが、扱い店が近くになくなったため、切り出し小刀に統一されていった。片刃の切り出しは竹との相性が良く、子供たちの力でもよく切れる。

子供たちが一日中走り回り、笑いころげ、ベーゴマに興じ、黙々と刃物を動かしている学校がある。自然スクールトエックが、遊びを学びに育てる種蒔き活動を始め30年。その芽は着実に大空へ伸び上がりつつある。

刃物を使うのが初めての子は、上手な子の指先を見ながら覚えていく。「これがいいんですわ。今の教育はなんでも聞きなさいでしょ。大学生なんかは口を開けばこれはどうすればいいんですか、です。聞く前に考えてみろ、手を動かせといいたい」(伊勢さん)

懐かしい景色を見た気がした。田んぼで全身泥にまみれながら歓声をあげ続けるやんちゃ坊主。桶の土俵に額を寄せ、真剣な眼でベーゴマを回す子らもいる。かまどの横では、なんとなく寄り集まりながらも、小刀を黙々と動かす子たちの姿が。

ここは徳島県阿南市にある「自然スクールトエック」。代表の伊勢達郎さんが、今から30年前に立ち上げた“学校”だ。当初は夏キャンプが中心だったが、米国で見たフリースクール(オルタナティブスクール)に刺激を受け、子供たちのための通年型施設を作った。いわゆる認可外学校である。

「フリースクールというと、日本では不登校児のための学校と思われがちですが、ほんとうのフリースクールはそうではない。子供の好奇心を伸ばし人間形成を後押しする場です。僕はそれを、自然に囲まれた田舎でやりたかった。普通の子も不登校の子も関係なく、来る者拒まずです。そもそも子供はみな違っていてあたりまえ。同じ型に嵌めて育てようとするから問題が出る。ひとりひとりの存在と個性を尊重し、たくさんの選択肢を用意するのが本来の教育です」

トエックとはどんな学校か。ひと言でいえば毎日が小学校の放課後のようなところである。ここには時間割もカリキュラムもない。教材的なものは楽器や図画道具、図書、図鑑ぐらい。その代わり、学校には田んぼや畑、思わず登ってみたくなる大木がある。近くには生き物がたくさん棲むきれいな川も流れる。

伊勢さんが考える教育のもうひとつの象徴が、工具箱にいつでも使えるように置いてある切り出し小刀だ。

「うちは一方的に教えることはしないし、叱ることも、褒めることもしません。刃物の安全教育も最小限。構えも削り方も、それぞれが試行錯誤しながら自分で覚えます。たとえば、柄を握らずに刃の近くの鉄のところを持つ子がちょくちょくいるんです。最初は危なっかしいなとか、手が小さいから握りにくいんかなと思うたんやけど、違うんです。細かい仕上げのときは、作用点である刃先近くを支点にしたほうが細工しやすい。自分なりの答えをちゃんと体で見つけているわけ。教育で大事なのは、信頼し認めることです」

トエックの子供たちは、中学校からは義務教育に戻る。最初は学力差が歴然と出るそうだが、すぐに遅れを取り戻せるのが共通する特徴で、国公立大学を狙える子もいる。個性はさまざまだが、順応性が極めて高いというのが周囲の一致した声だ。

NPO法人自然スクールトエック
https://toec.jp/

文/かくまつとむ 写真/大槗 弘

※ BE-PAL 2016年1月号 掲載『 フィールドナイフ列伝 18 フリースクールの小刀 』より。

現在、BE-PAL本誌では新企画『 にっぽん刃物語 』が連載中です!フィールドナイフ列伝でお馴染みの『 かくまつとむ&大槗弘 』のタッグでお届けしております!

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