にっぽん刃物語『 農家のユーティリティーナイフ 』~ ナイフは優れた農具である ~

2019.01.30

刃物の持ち主
白石農園( 大泉 風のがっこう )
白石好孝さん
東京都練馬区の専業農家に生まれる。東京農業大学農学部卒業後、就農。’97年から体験農園『大泉 風のがっこう』を運営。
※ 所属や肩書は取材当時のものです。

右はガーバーの『LST』。これは10年ほど前に購入したモデル。左は収穫時に使うことが多いGサカイの『フィールドシェフ』。シース(鞘入れ)式の料理ナイフだ。

「 かつて勤労者の多くは、自然と向き合って生きる農民だった。その手先となり農作業を助けたのが刃物である。鎌のように専用化された道具もあるが、欧米式の多目的ナイフも、現代の農家にとって便利で心強い一本だ。 」

かつてバブルのころ「地価が高騰するのは都市に残っている農家が土地を手放さないからだ」と揶揄する経済論者がいた

都市部に残る農地は今や貴重な共有資産。農産物の生産は広い土地がある地方や海外にまかせ、社会のためにもっと効率よく活用すべきだという論だ。東京・練馬に300年続く農家の白石好孝さん(60歳)にその話を振ると、一笑に付した。

「そうやってはぎ取られた農地は多いですよね。でも、その土地はどう社会の役に立ちました?企業に消費されただけでしょう。都市農地の価値をいちばん知っているのは、愚直に農業を続けてきた僕らだと思うな」

練馬区では、白石さんら16軒の農家が手を結び、計1600区画の体験農園を運営している。たいへんな人気で、緑や土に接したい、命の土台である食のことを真剣に考えたいという人たちが順番を待つ状況だ。

「都市と農村はもともと一体の関係だったんです。すぐ隣に食料生産の場があったから、都市は安心して高度な経済活動に専念できた。農地の緑には心を癒す効果もあります。そのことは現在の体験農園が示しています。都市農地の役割を経済の尺度だけで測るのは間違いですね」

白石さんの農地は1・4ha。このうち体験農園は0・6ha。残りの0・8haで販売用の野菜を生産する。農業の平均から見ればきわめて小規模だが、都市ならではの強みがある。周囲は住宅地なので直売をすると喜ばれる。よい野菜ならいつでも欲しいというレストランも多い。

限られた土地で効率をあげる基本が、多様なニーズに対応する少量多品種の生産だ。年間100種類に及ぶ作付けローテーションは複雑で、さまざまな作業が待つ。そんな白石さんが肌身離さず携えているのが、折りたたみ式の多目的ナイフである。

「農作業ってけっこう刃物が必要なんですよ。苗を支柱に誘引する紐を切る。資材の梱包を開封する。収穫する…。収穫鋏でこなす人も多いけれど、僕は就農して以来折りたたみ式ナイフ派です。屋内の作業場にも同じナイフをいくつか置き、いつでも手が届くようにしています」。

刃の長いフィールドシェフは、キャベツの収穫やスイカの味見のときなどに包丁代わりとして使っている。ステンレス鋼材特有の、刃がスムーズに滑り込んでいく感覚が好きだという。「硬いカボチャもよく切れます。錆びにくくて手入れが簡単で済むのもいいね」。

いちばんのお気に入りはガーバーの『LST』。薄身の短いブレードで、取り回しが軽いのがよい。廉価なこともあってか鋼材は軟らかめだが、そのぶんとても研ぎやすい。

「日本じゃオイルストーンの砥石なんて使わないわけですよ。このナイフは鎌や包丁を研ぐ砥石で普通にジャリジャリ水研ぎできます。急いでいるときは鉄パイプの断面の縁にこすりつけます。そんな方法でも十分刃が立つ。ラフに使えるのがいいね」。

学生のころはバックパッカーで、北海道を放浪した。旅のサポーターだった折りたたみ式ナイフはいま、心強い右腕として都市農業の未来を支えている。

刃物の持ち主
白石農園( 大泉 風のがっこう )
白石好孝さん
東京都練馬区の専業農家に生まれる。東京農業大学農学部卒業後、就農。’97年から体験農園『大泉 風のがっこう』を運営。
※ 所属や肩書は取材当時のものです。

文/かくまつとむ 写真/大橋 弘

※ BE-PAL 2014年9月号 掲載『 フィールドナイフ列伝 02 農家のユーティリティーナイフ 』より。

『 フィールドナイフ列伝 02 農家のユーティリティーナイフ 』掲載号
BE-PAL編集部
BE-PAL 2014年9月号

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BE-PAL編集部
BE-PAL 2019年2月号
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