秩父演習林のフィールドワークに同行! シカの食害で荒れゆく森林を再生する東大の博士 | ナチュラルライフ 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.12.03

    秩父演習林のフィールドワークに同行! シカの食害で荒れゆく森林を再生する東大の博士

    秩父演習林のフィールドワークに同行! シカの食害で荒れゆく森林を再生する東大の博士
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    東大&京大 未来を変える! 注目のオモシロ自然研究研究者ファイリング 04 森林再生博士

    東京大学大学院 農学生命科学研究科附属演習林 フォレストGX/DX協創センター 平尾聡秀さん

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    ひらお・としひで 1980年東京都生まれ。2008年北海道大学大学院環境科学院博士後期課程修了。東京大学大学院特任助教・助教を経て、2012年より現職。日本各地の森林で、生物多様性の保全や生態系機能の回復、野生動物の管理などの研究テーマに取り組む。

    山の道なき道を7時間!

    ニホンジカの食害によって衰退した森林生態系をどう回復させるか。その研究を長年続けている平尾聡秀先生にフィールドワークに連れていってもらった。…のだけど、じつは取材前のワタシ藤谷はかなりビビッていた。というのも、平尾先生からこんなメールが届いたからだ。

    「当日はいったん秩父演習林の林内に入りますと、登山道等はありませんので、取材が終わっても先にお帰りいただくことはできません。駐車場に戻るのは17時ごろになると思います」
     
    10時に集合して7時間フルで道なき道を山歩き!? 研究者って頭脳だけでなく体力もバケモノ! ワタシついていける?
     
    なんとかなったのは、集合場所からメインフィールドまで標高差500mに林業用モノレールが敷かれていたおかげだ。サンキュー、モノレール! じっと乗ること小一時間。左右には、落ち葉が敷き詰められた美しい天然林が広がり、素人目にはシカの食害の痕跡などどこにも見当たらなかったのだが…。

    行きと帰りで同じ森が違って見えた

    「ぜんぶシカに食べられてしまっていますね。地面に緑がなくて、落ち葉ばかりでしょう? いわゆる下草や藪といった下層植生が食べ尽くされているんです。こうなると、栄養に富んだ土壌が流れてしまい、簡単には回復しません」
     
    と、平尾先生。一見美しい森が、健全な状態ではなかったとは! さらに、平尾先生はモミの巨木の幹を指さした。

    「シカは樹皮も食べるんです」
     
    見ると、モミの樹皮がワタシの身長ぐらいの高さから根元までない。しかもガッツリ分厚く食べられていた。

    「幹が一周全部食べられてしまうと、木は水を吸い上げることができなくなって枯れてしまいます。そして、1本の木が枯れて倒れると、周囲の木が風の影響を受けやすくなり、次々に倒れてしまうんです」
     
    木が枯れても健全な森であればすぐに再生が始まると平尾先生はいう。木が枯れると光が地面に届くようになり、待機していた幼木が一気に大きく育つからだ。ところが、シカが下層植生を食べ尽くしてしまっている森では再生も進まない。木の本数が減っていく一方だという。シカが増えていることは知っていたけれど、シカの食害で森が危機的状態にあること、こんな山奥の森でこれほど深刻化していることはまったく知らなかった。いったいいつから被害が拡大したのだろう?

    「秩父山地では、2010年ぐらいからシカの食害によって下層植生が急速に減り始めました。シカの個体数は2014年ごろにマックスになり、そこから減らないまま現在に至っています」
     
    帰りのモノレール。行きに美しいと感じた森が、違う景色に見える。この森を再生するためには、どうすればいいのか。平尾先生に尋ねてみた。

    「森林の生態系を回復させるためには、シカの数をコントロールする必要があります。しかし、狩猟と捕獲では十分な成果を出せていません。そもそもシカが増えたのは、林業が衰退して人間が山に入らなくなったことが大きな要因です。人間を警戒する時間がなくなり、その時間を食事・繁殖に充てられるようになったわけです。ですから、シカを減らすためのカギは人間が再び森に入っていくこと。昔の林業の復活は難しいかもしれませんが、たとえばエコツーリズムなど森に新たな価値を見出し、活用することはできるのではないでしょうか。そうやって森に人間が戻ることが一番大事だと私は考えています」

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    こんな
    巨木まで……。
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    全国で急増したニホンジカ。奥秩父山地においても、2000年代にシカ密度が10倍以上に。写真は五葉山(岩手県)のニホンジカ。

    樹皮をチェック

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    亜高山帯に生える針葉樹のモミの仲間は、その樹皮をシカが好んで食べるため、全国的に被害が深刻化している。

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    シカに幹の周囲の樹皮を一周まるまる食べられたため、立ち枯れてしまった木。地面の次世代の芽も食べ尽くされている。

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    同じ森のミズナラやブナは樹皮を食べられていなかった。シカが好む樹木は、幹をネットで覆って樹皮を保護。

    モノレールに乗ってGO!

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    これも
    やられてる。

    急峻な斜面の多い秩父演習林では、山の上の研究フィールドにアクセスしやすいように林業用モノレールが3か所に整備されている。

    森の下草をチェック

    16年前

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    標高約1600mの尾根上の同じ場所。研究を始めた2010年は、登山道の周りはスズタケの藪に覆われていた。しかし現在は、スズタケはシカに食べ尽くされてしまっている。

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    現在

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    シカを立ち入らせないシカ柵の実験地。柵の中は下草が生える本来の森だが、柵の外はシカに食べ尽くされて落ち葉のみ。緑と茶色にくっきりと分かれる。

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    森の中で身を守る三種の神器

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    月に5回から10回も演習林に入るという平尾先生の護身道具。熊よけスプレー、ポイズンリムーバー、雷探知器。

    ※構成/鍋田吉郎 撮影/中村文隆

    (BE-PAL 2025年12月号より)

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