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    2025.12.04

    京大のネイチャー博士が登場! アフリカの砂漠をごみで緑化して平和の道を拓く

    京大のネイチャー博士が登場! アフリカの砂漠をごみで緑化して平和の道を拓く
    ノーベル賞の受賞者もたくさん出ている東大と京大。大学を歩いてみると、未来のアウトドアライフをより豊かにするのでは? と思わせるオモシロネイチャー研究者たちが隠れていた! 今回はアフリカの砂漠化問題などに取り組む研究者が登場。
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    東大&京大 未来を変える! 注目のオモシロ自然研究

    研究者ファイリング 01 ごみで砂漠緑化博士

    京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科教授 大山修一さん

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    おおやま・しゅういち 1971年奈良県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科後期博士課程修了。人間・環境学博士。ニジェールから始め、アフリカ各地で実践的平和学の研究活動を行なう。著書は『西アフリカ・サヘルの砂漠化に挑む』(昭和堂)など。

    問題解決の糸口は〝ごみ”から芽が出たことだった!

    京大は「探検大学」との異名を誇ってきた。研究者たちが辺境へ行き、徹底したフィールドワークを実践してきたのだ。とりわけアジア各地とアフリカ大陸である。京大の両地域の研究は世界トップレベルだ。
     
    1998年には、後継者育成を目的に大学院が設立された。それがアジア・アフリカ地域研究研究科である。大山修一さんはその教授のひとり。専門は実践的平和学だ。現地の人々の社会と文化の調査をしつつ、社会問題の解決に取り組むのである。

    「小学生のころ、西アフリカの乾燥地帯の飢餓と貧困の様子をテレビで知ったんです。栄養失調でやせ細った子供が映し出されました。これに打ちひしがれた。以来、その地の社会問題の解決に役立ちたいと思うようになり、今の道に進んだんです」
     
    アフリカ北部にはサハラ砂漠が横たわる。あまりの乾燥で人は住めない。大山さんがもっとも長く関わるニジェールはサハラ砂漠の南縁の国だ。時々干ばつが起こる過酷な環境だが、人々は知恵を尽くして逞しく生きている。そこで近年大問題となってきたのが土地の砂漠化だ。

    「サハラ砂漠は気象条件によって砂漠の状態ができます。砂漠化というのは、人が土地を荒廃させることをいいます。その解決に大きく役に立ったのは、なんとごみだったんです」
     

    ニジェールは1960年にフランスから独立を果たし、近代的な都市も生まれた。だが、農業や牧畜を支えてきた土地はどんどん砂漠化していった。

    「植物は土から栄養をとって育ちます。そして、やがて実がなって落ち、葉や茎も枯れていきますが、これらは土の栄養になっていくんです。ところが、作物として都市に運ばれたら戻ってこなくなりました。いらなくなればごみとして捨てられ、都市にたまるだけになったのです」
     
    使える土地が減ると、土地をめぐって農耕民と牧畜民の諍いが起こり始めた。それは紛争の火種だった。さらに若者たちの中には、貧困ゆえに傭兵となって中東戦線に加わるものが現われた。彼らは自国に戻ると反政府武装集団となった。砂漠化は食べものを減らすだけではなく、平和を根底から覆す諸悪の根源だったのである。

    「ニジェールには、外国から援助機関がやってきます。そして、植林を進めるなど、砂漠化対策の手段を指導します。私は、上から下に命令するようなやり方は性に合わない性格で、現地の人と一緒に体を動かすほうが合っているんです。そこで村人から協力者を募って、都市のごみを運び、撒き始めたのです」
     
    とはいえごみである。初めは協力者も多くはなかった。事態が急変したのは、ごみの山から植物の芽が出たことだ。まずはカボチャなどが芽吹き、家畜の餌になった。餌を食べた後に家畜たちが落とした糞は肥料になり、荒廃地は次第に農作物が育つようになっていったのである。

    ごみを栄養だと考えると暮らし方も変わるかも?

     
    成果が出るまでに時間はかかった。大山さんを支え続けたのは村人の変化だった。子供たちまでごみ運びを手伝うようになったのだ。さらに、草が生えると鳥がやってきて、糞に混ざったタネから樹木の芽が出た。
     
    それでも、ごみの中にはサンダルやペットボトルなど、土に還らないものもあった。どうやって取り除くか思案していると、自然の力で分解が始まった。立役者はなんとシロアリだった。

    「驚きました。シロアリは家の柱などを傷める破壊者としか思っていなかったのに、砂漠化の克服という面では創造者だったんです。人間の思い込みというのは怖いですね。ごみにしても、暮らしに必要ないと捨てるわけですが、じつは土の栄養になります。動物の糞もそうですね。
     
    考えてみると、私の研究はごみとウンチばかりを追いかけている(笑)。ただ、生きるということは、自然から栄養をいただくことです。いただいた栄養の残りは、いただいたところに還すことが大切。少し難しい言葉でいうと物質の循環。とくに都市と農村の間では重要で、紛争地の平和にもつながるのです」
     
    京大の近くに総合地球環境学研究所がある。環境問題を研究する国立の研究機関だが、大山さんはそちらの教授でもある。西アフリカでの成果を、日本人の暮らしに役立てられないかというのも大きな課題で、家庭の生ゴミを土に還すコンポストを研究し、その普及に努めている。

    「難しい。でも、完璧を求めず、できることからやろう、と勧めています」

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    サハラ砂漠の南縁に位置するニジェールの調査地で。飢餓、貧困、紛争に苦しむ人々が笑顔を取り戻した立役者は、なんとごみ!

    ごみって何でしょう?

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    「暮らしに必要ないものがごみ。でも、必要か不必要かは人それぞれに決められています。統制できないから難しい」と大山さん。

    Before

    砂漠化は人も動物も苦しめた

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    ニジェールの調査地は農耕民と牧畜民が共存してきたが、砂漠化により農作物だけではなく牧草も生えなくなり、家畜もやせ細った。
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    砂漠化した土地に区画を設け、都市で放置されたごみを運んだ。大山さんの計画に対し、住民たちの理解も少しずつ進んでいった。
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    ごみをならして土を盛っていくと、やがて植物が芽を出した。まずは家畜の健康を取り戻すために放牧から始めていった。
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    11年後

    11年後、荒れ地に緑がよみがえった!

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    牧草地はその後、家畜の糞により土地がさらに肥えて森ができた。ごみを入れると、荒れ地は牧草地、農地、そして森になったのだ!

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    ごみに混じっていたゴム製サンダルのつま先。小さな穴はシロアリがかじり始めた痕跡。「食べたとはまだ検証できていない」という。

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    研究室にはアフリカの品々が飾られていた。常に現地を思いやるのだろう。問題に直面した現地の人から電話がくることも多いという。

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    ニジェールでは、1人の女性が平均7人ほどの子供を産む。食糧難に苦しんでいた彼らも大山さんを手伝い始めた。

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    先進国からの支援は住民の「やる気」を促してこそ効果がある。大山さんの実践的平和学は国際協力のあり方を問うものである。

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    効果が目に見えてくると、草の根的な砂漠の緑化活動にニジェール政府も注目し始めた。環境大臣(赤い服)が大山さんを訪問。

    生ごみで土を作ります

    京都市内のホテルと共同で実用コンポストを研究

    そこは京都市内にある老舗ホテルのバックヤード。大山さんはウェスティン都ホテル京都と共同で、コンポストに取り組んでいる。こちらのホテルの名物は食べ放題のビュッフェだが、残りものの処理がスタッフを悩ませていた。そんな声が大山さんに届いて、フードロス問題への取り組みが始まったのだ。

    「農家に堆肥として使ってもらえるようになるのが理想です。でも、農家によって施肥のレシピがあり、なかなか難しい。ようやくイチジク生産者で一部を使ってもらえようになりました」

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    実践するのは水を入れないドライコンポスト。「農家から土と鶏糞をいただき、混ぜたうえで食品の残りものを入れる」と大山さん。

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    いい土に近づいているかどうかは、土の色で知る。

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    生ごみで土は発酵を始める。発酵すると温かくなってサーモグラフィーが赤く反応(下)。

    ※構成/藍野裕之 撮影/作田祥一

    (BE-PAL 2025年12月号より)

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