
全国には多種多様な車中泊スポットがありますが、そのルールはさまざまです。キャンプ場のようにイス・テーブルを広げて焚き火ができるところもあれば、完全に火気厳禁のところもあります。すぐ隣に駐車車両が並び、窓を開けての調理が難しいこともあるでしょう。そんなとき、簡単に外食できるのも車中泊の魅力です。
スーパー銭湯のような複合施設なら館内レストランを利用したり、徒歩で近隣の飲食店に出かけたり。中でもユニークなのが、温泉旅館やホテルなどが運営し、食事付きの滞在ができる車中泊スポットです。
今回はひと味違った体験のできる、夕食付き車中泊をご紹介します。訪れたのは岩手県の「奥州平泉温泉 そば庵 しづか亭」。キャンピングカーのオーナーズクラブ「くるま旅クラブ」が認定する「湯YOUパーク(ゆうゆうパーク)」のひとつです。
温泉旅館に滞在するユニーク車中泊
湯YOUパーク「奥州平泉温泉 そば庵 しづか亭」

中尊寺金色堂(秋撮影)
中尊寺をはじめとする世界文化遺産で知られる岩手県平泉。東北自動車道からすぐという交通至便な地で、しかも見どころがひとつの街にまとまっています。渋滞もありますが、地方都市らしいゆったりした道路や大規模駐車場のおかげで、クルマ旅がしやすいエリアです。
その中心地からクルマで約10分の場所に「そば庵 しづか亭」はあります。のどかな田園風景を走り、看板に導かれるように山の中へ。途中分岐もありますが、のぼりを見失わないように追っていくことで無事に到着できました。
「そば庵」の名のとおり打ちたて蕎麦を名物とする全10室の料理宿で、ランチ付き日帰り入浴プランなども用意。自家菜園を有し、季節によっては収穫体験も行っているそう。
どこか懐かしい石油ストーブが燃えるロビーでは、蕎麦茶のおもてなしを受けました。宿帳を記入してチェックインします。車中泊料金は1泊1台2,200円で、入浴料1名770円。ここにオプションで夕食4,400円、朝食2,200円を付加することができます。食事は予約制のため、事前に連絡が必要です(料金はいずれも税込、2025年1月現在)。
入浴料金はタオル付き。しかも翌朝の朝風呂を含め、何度でも入浴可能とのこと。RVパークや湯YOUパークでは「再入浴の際は別途料金」というところも多いので、これは嬉しい心配りです。
さっそく入ってきましたが、ちょうど先客がまったくおらず浴室を独り占め。クルマ旅では一般的な宿泊客と行動時間がずれることも多く、こんなことがしばしばあります。
内湯ひとつ、露天風呂ひとつの一階大浴場は決して広くはありませんが、常に湯船からお湯があふれ出ているほど豊かな湯量。熱すぎない露天風呂はいつまでも入っていられる優しいお湯で、湯あたりを起こしやすい私も長風呂が可能でした。空気がピリピリと突き刺さるような平泉の寒さも、まったく気になりません。化粧水いらず、と言われるお湯で全身がすべすべになりました。
打ちたて蕎麦が付いた豪華な夕食
館内宿泊者は部屋食ですが、車中泊組は食事処でいただきます。テーブルにずらりと並んだ料理に思わず声が出ました。
黒豆や田作りや昆布巻きなど、お正月の余韻を残す先付けが目にも鮮やか。

蕎麦の実を使った料理。
珍しいと思ったのが蕎麦の実の小鉢。さすが打ちたて蕎麦の宿です。お出汁と一緒にするりと喉を通りました。
茶碗蒸し、お刺身、鍋など温泉旅館の定番料理も並びます。車中泊プラン向けに用意された簡易的な食事ではありません。宿泊のお客様と変わらない内容で、贅沢なおもてなしを受けることができました。
楽しみだったのは亭主自らが打つという二八蕎麦。揚げたてサクサクの天ぷらも付いて、風味豊かな蕎麦を堪能しました。このほか、ひとくちサイズのご飯も付きます。成人女性の私は、ちょうどよくお腹いっぱい。大変満足でした。
事前の相談が必要ですが、蕎麦の増量など料理のアレンジにも対応していただけました。飲み物だけは当日の注文が可能で、食後に精算します。
就寝はキャンピングカーで
クルマに戻って就寝します。板前技術の粋を尽くしたお膳料理を食べながら、数時間後にはシュラフにくるまるというギャップに少しおかしくなってしまいますが、これが車中泊。
外気温は氷点下です。積雪はそれほど多くない岩手ですが、底冷えのような厳しい寒さがクルマを包みます。こんな夜はベバスト社のFFヒーターが必須です。ほとんど燃料を消費せず、エンジン停止時でも安全に稼働する優れた暖房装備です。
ただ、暖気が天井付近に溜まってしまうことと、窓ガラスからの冷気の侵入が気になります。ここも少し快適化しなければ……などと考えているうちに眠ってしまいました。
駐車場所は宿の玄関前の特等席で、夜間も館内トイレの利用が可能です。けれど温泉効果か、一度も目を覚まさずに熟睡しました。
「くるま旅クラブ」のメリット
自動車ユーザーなら誰でも利用できるRVパークに対し、今回の湯YOUパークはくるま旅クラブ会員向け施設に位置づけられています。入会金や年会費などの諸費用がかかりますが、湯YOUパークのほか「ぐるめパーク」や「とれいんパーク」など各種車中泊パークの利用が可能となります。車中泊スポットの選択肢が増えるため、全国を広く旅したい人にはおすすめです。
くるま旅クラブ公式サイトで温泉旅館や観光ホテルを中心に探していくと、食事の予約が「可」となっていることがあります。夕食は4,000円~5,000円、朝食は2,000円程度のところが多いようです。
「かんぽの宿」からリブランドした各地の「亀の井ホテル」のほか、下呂、加賀、下田など名だたる温泉地にも登録施設があり、普段は気軽には宿泊できないところも車中泊ならリーズナブルに滞在できます。趣向を凝らしたロビーラウンジや庭園、手入れの行き届いた大浴場など、日帰り入浴施設とはまた違った風格が感じられます。
車中泊×旅館料理というハイブリッド滞在、一度体験してみてはいかがでしょうか。
施設詳細
- 名称:奥州平泉温泉 そば庵 しづか亭
- 住所:岩手県西磐井郡平泉町平泉字長倉10-5
- 料金:1泊1台2,200円
- 備考:夕食・朝食のオプションあり(各種料金は今後変更となる可能性があります)