映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』監督を直撃!なぜ彼は生きながら伝説の登山家となったのか | 山・ハイキング・クライミング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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  • 映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』監督を直撃!なぜ彼は生きながら伝説の登山家となったのか

    2022.10.27

    2021年に登山界最高の栄誉といわれる「ピオレドール生涯功労賞」をアジア人で初めて受賞した登山家の山野井泰史さん。1996年、ヒマラヤ最難ルートといわれる「マカルー西壁」への挑戦から約四半世紀を密着したドキュメンタリー映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』が11月25日から公開されます。武石浩明監督にお話を聞きました。

    山野井さんと監督のツーショット

    山野井泰史さん(右)と武石浩明監督(左)のメイキングシーン。

    ――山野井さんとの出会いから教えてください。

    「僕が学生時代、山岳部にいたときから、山野井さんのことは知っていたんです。山岳雑誌『岩と雪』(山と渓谷社)の記事で紹介されていたりして。自分とほぼ同年代で、2歳違い。いつか取材してみたいと思っていました。日本でフリークライミング(安全のために確保用具は使用するが、それに頼らず、自己の技術と体力で岩を登ること)のワールドカップが開かれたときに、彼はアルバイトをしていて。『僕も登山をやっていて…』と山野井さんに声を掛けたんです。そのあと、当時山野井さんの自宅があった奥多摩に遊びにいって話をして。『じゃあ(取材を受けても)いいですよ』と」

    ――山野井さんは既に、登山界で特別な存在だったのでしょうか?

    「実力が数値化されるスポーツクライミング等と違い、登山って一般の人にはわかりにくいですよね。そのなかで山野井さんは、当時から最先端を狙っていました。登山の最先端というのは…例えばエベレストに誰も登っていなかったら、初めて登ろうとしますよね。次に無酸素で登られていなかったら、無酸素で。そのあと同じような高い山を登り、それらを登り尽くしたら、今度は難しいルートで登ろうとするでしょう。

    すると次は、登山のスタイルが問題になります。シェルパを雇って大勢で隊を組み、ルート工作をしてもらって隊員のうちの少数だけが酸素を吸って頂上に立つと、自分の力で登っている割合というのは減ります。そこでより少ない人数で、酸素も使わずシンプルに、難しいルートで登る方が価値が高いということになる。登山界では世界的に、80年代からそうした考えに移っていきました。日本では山野井さんが、そんな究極のソロに挑戦する特別な存在だったということです」

    登頂に挑戦する山野井さん

    「びっくりするくらい、岩や山を登るのが好きなんだよね」と山野井さん。

    ――山野井さんとの関係は、最初からスムーズに?

    「気遣いをする、サービス精神旺盛な方で。人見知りするタイプというのか、人に会うと口内炎が出来るとおっしゃってました。僕は登山をやっていたので、共通言語を持っていたのがよかったかもしれません」

    ――取材の起点は、1996年のマカルー(8463m)西壁挑戦への密着ですね?

    「その半年前から取材を始めていました。ソロで、8,000m峰(ヒマラヤ、カラコルム等、標高8,000mを超える14の山の総称)の未踏ルートは、当時からどんどん登られていました。そのうち、もっとも難しいと言われるのがマカルー西壁です。もし山野井さんが、世界で二番目に難しいルートに挑戦するなら取材しなかったかもしれません。ヒマラヤでいちばん難しいルートにソロで挑戦する、それも究極のスタイルで。

    そう聞いて、取材したいと思ったんです。山野井さんも一般の人に本物の登山を見せたい、そんな気持も心のどこかにあったと思います。だっていまだに、マカルー西壁って登られてませんから。その時代時代、何年かにいちど、スゲ~!という登山家が挑戦しますが、あまりに難しくて山野井さんが到達したところまで行けてないんですよ」

    雪山を降りる山野井さん

    山岳雑誌『山と渓谷』読者の「好きな登山家第1位」(2016年1月号)にも選ばれた。

    ――結果として、マカルー西壁への挑戦は失敗に終わってしまって。

    「前の年にもちゃんと偵察に行ってるんですよね。間近で見ると、あの壁はこう…ハングして迫ってくるのがものすごく怖いらしいです。斜面が垂直以上に、上方が下方より突き出しているのが。それでああこれはダメだ…と恐怖に飲み込まれていったと。本当のところは、その場で見た人にしかわからないですけど。トレーニングを積んでいき、全力を出し切ったけど、自分にはまだまだ力が足りない。このままツッコんだら死んでしまうと。山野井さんがソロで登るのが映像で残っているのは、あれが最初で最後です」

    ――登る前に奥さまの妙子さんが「(昨夜は)全然寝てないと思う」と言ったのに驚きましたが?

    「毎回そうみたいですよ。普通の登山でも、いろいろ考えてしまうみたいで。繊細なところがあるんじゃないでしょうか。でも登山でなくてもなにかの大会とか、イベントの前日は眠れないということはありますよね。それが普通の登山やトレイルランと違って、生きるか死ぬかですから。生きて帰れないかもしれないというのが頭をよぎるのではないでしょうか。ソロだと、誰も安全を確保してはくれませんし。

    『フリーソロ』という映画がありましたが、あれはビッグウォール(主に高さ1,000m以上の岩壁)・クライミングのアレックス・オノルドを追っていました。でも岩登りの方が、不確定要素が少ないんですよね。山野井さんのようなアルパイン・クライミング(登山とクライミング両方の要素を合わせ持つ登山スタイル)は雪があったら崩れるかもしれないし、雪崩が起きるかもしれない。寒いですしね。そのほうがはるかに難しい」

    人生クライマー メイン画像

    作品データ

    映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』(配給:KADOKAWA)

    ●監督:武石浩明
    ●ナレーション:岡田准一
    ●11月25日~角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
    (c)TBSテレビ

    取材・文/浅見祥子

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