ドナウ川カヤック旅の途中、ブルガリアでヨットの旅人と遭遇!そのままヨットに乗ることに… | 海・川・カヌー・釣り 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2022.11.04

    ドナウ川カヤック旅の途中、ブルガリアでヨットの旅人と遭遇!そのままヨットに乗ることに…

    ドナウ川の風景

    川下りの旅に出発してから4か月近く経過したある日のドナウ川の風景。

    ちょうど刺激を欲していたころ

    それは、およそ2,600kmに及ぶ長いドナウ川の旅で、漠然とした退屈感に苛まれていたブルガリアでのある日の出来事。

    退屈だったのは、ドナウ川が長すぎるからではなくて、もっと別の理由があった。それは、ブルガリアに入国してすぐ、ヴィディンという町のはずれにある、タバコとお酒の吹き溜まりみたいなカヤッククラブで、とくに何をするわけでもなく数日ダラダラ過ごしたあと。「時間ならあるから」と時間を浪費する自分のだらし無さが、どういうわけだか急に悲しくなって。それで、毎日休まず漕ぐことを決めた。

    これは今回の旅では新たな試みで、今まではスケジュールを立てることも無ければ、事前に天気予報を見ることもほとんどなかった。朝起きて、天気が良くて気分も良ければ漕ぎ出す。そんなことを何ヶ月も繰り返していたから、スケジュール通りに漕ぐということは、やってみると想像以上にストレスだった。

    私のカヤック

    私のカヤック。とある町のフェリー乗り場にて。

    毎晩、夜寝る前に天気予報を確認して、明日どこまで漕ぐかを決めて。そして、その計画通りに漕ぐという毎日は、とても退屈だった。計画を立てたおかげで、少ない時間で効率よくあちこちを観光してまわれるようになったけれど、なんだかスタンプラリーをさせられているみたいで、私にはまったく楽しくなかった。

    何か、劇的な変化を私は旅のなかに欲していた。

    ヨットとの出会い

    ブルガリアで出会ったヨット「モルダグ号」とヤンさん

    ブルガリアで出会ったヨット「モルダグ号」とヤンさん。

    あの日は、午後になって急に風が強くなってきて、ルゼという町の港に逃げ込んだ。くっそー、と急ぎ足で漕いで大変だったのだけど、風が吹いたのはラッキーだったと思う。本当は、人が来ないような川岸に適当に上陸して静かにキャンプをする予定だったから、風が出てこなかったらきっとその港は通りすぎていた。

    私が港で見たもの。それは、今まさにヨットのマストを立てようと作業している2人組。

    ヨットのマストを立て作業をするヤンさん

    帆を張るためのマストを立てたあと、上に登って作業をするヤンさん。

    直感的に、「おもしろい人を見つけた」とワクワクして、話しかけてみた。彼らもドナウ川を旅しているという。川を旅していると低い橋が出てくるから、今までマストは畳んでエンジンで走行していたけれど、そろそろ河口も近くなって低い橋も無くなるので、ここでマストを立てることにしたらしい。

    近所の別のヨットの人と一緒に夕食をご馳走に

    近所の別のヨットの人と一緒に、どさくさに紛れて私も夕食をご馳走になった。

    町の酒屋でビールを買い込んでヨットにお邪魔して、彼らの旅について詳しい話を聞かせてもらうことにした。

    ティム船長とヨットの出会い

    モルダグ号で舵を取るティム船長

    モルダグ号で舵を取るティム船長。

    ヨットで旅する2人組の男の名前は、ティムとヤン。2人ともベルギー出身で、いくつかの川を経由してドナウ川までやってきた。このまま黒海に出て、ヨーロッパを海岸線沿いにグルっと航海して、またベルギーに戻るという旅の計画らしい。

    「いつかドナウを旅してみたいと、ずっと思っていたんだ。いざこうして黒海が近づいてくると、感慨深いものがあるね」とティム船長。だけどどうして、ヨットで旅することにしたんだろう?

    尋ねてみると、ティム船長とヨットの出会いはかなり特殊な偶然らしかった。

    若かりしころの船長は、馬の世話をしていたらしい。だけど、30歳手前になって他の動物とも仕事がしてみたくなった船長は、アラスカに渡り、犬ぞりレースに出ることになった。それはアンカレッジからベーリング海峡を目指す世界最長の犬ぞりレースで、ベルギーからの参加者は当時珍しく「ベルギーの弾丸」として、地元新聞記事に紹介されたらしい。結果はビリだったが、怪我や遭難をしたりすることもなく無事にゴールした。

    ティム船長の愛犬のロキちゃん

    犬が大好きなティム船長。ヨットの旅にも愛犬のロキちゃんを連れている。

    悲劇は、レースのあとに起こった。完走したら、バンを乗り回してカナダ、アメリカ、南米まで行こうと計画していたのだが、レース期間中に誰もエンジンをかけなかった車は、アラスカの寒さに耐えかねて故障。

    このままベルギーまで飛行機で飛んで帰るんじゃつまらない。何か、クリエイティブな方法で帰国できないものか。そしてインターネット掲示板をさまよっていると、偶然、トリニダード・トバコの港町に浮かんでいるヨットの船長が、ヨーロッパまで航海するのに船員を募集しているのを見つけた。

    当時、ヨットの経験はまったくなかったティムだが、乗船させてもらえることになり、ヨーロッパまで航海する道すがら、船長の手伝いをしてヨットの操作を覚えたという。

    以来、ティムはタンカー船の乗組員になったり、運河に座礁した船を救出する仕事をしたり、すっかり船の世界にハマってしまったらしい。

    このヨット、6,000ユーロ

    ルゼの港に浮かぶモルダグ号

    ルゼの港に浮かぶモルダグ号。写真中央にあるマストが一番高いヨット。

    ところで彼らが乗っているこのヨット、いくらで買ったのかというと、なんと驚愕の6,000ユーロ。記録的な円安を叩いている今のレートで換算しても、90万円でお釣りが来る。

    1974年の古い船で、購入当初は木製のデッキがコケだらけだったらしい。見た人みんなが「そのデッキは張り替えなくちゃ、もうどうしようもない」と言うなか、一生懸命ブラシでこすって掃除して、今の姿になったらしい。

    ピカピカのモルダグ号の木製デッキ

    ピカピカのモルダグ号の木製デッキ。こまめにメンテナンスをしている。

    ヨットという乗り物は、しょっちゅう修理やメンテナンスをしながら乗るものらしく、加えて1974年製という古さも相まって、2人は旅をしている最中もずーっと船を直しながら移動しているという。

    「船は安かったけど、修理するコストと手間を考えると、安い遊びとはいえないね」そう言いながらデッキの撥水コートを塗ったり、電気系統を直したり、エンジンのメンテナンスをしたりと、とにかく毎日忙しない。私はヨットのことはまったくわからないけれど、少なくともDIYが苦痛に感じる人には乗れない乗り物だ。

    ティム船長とアマゾン川

    彼らとヨット旅の馴れ初めを聞いたところで、今度は私が自己紹介する番。「数年前にミシシッピ川を漕いで、そして今はドナウを漕いでいて…」と伝えると、ティム船長はニヤッと笑って、「じゃあ次はアマゾン川だね」と言った。彼の言う通り、私が目標にしている次の川は、アマゾン川だ。

    そしてなんと偶然にも、ティムはアマゾン川を源流地域から河口までモーターボートで旅したことがあるらしい。

    「もともと川を下るつもりじゃなかったんだ。南米を普通に飛行機で移動でする予定だった。だけど地元の人が、川があるんだから飛ぶ必要ないじゃないかって、アマゾン川を指さしたんだ」

    たったそれだけのきっかけで、ティムはアマゾン川を下り切ってしまったらしい。なんて破天荒な男だろう。それよりも、アマゾン川を旅したことがある人と、こうして偶然出会う確率って、どれくらいなんだろう。

    ルゼの港で彼らを見たときに、ひらいめいた直感は正しかった。ドナウ川の旅人で、彼らはダントツに、おもしろい。

    ドナウ川で退屈感に苛まれていたのが一瞬で、楽しさに変わった。

    カヤックを折り畳んでデッキに置かせてもらう

    カヤックを折り畳んでデッキに置かせてもらえることに。

    私も、少しだけ彼らと旅をしてみたい。そう伝えると、2人はヨットに乗ることを快諾してくれた。まさかその「少しだけ」が3週間もの居候生活になるとは思いもせずに…。

    私が書きました!
    剥製師
    佐藤ジョアナ玲子
    フォールディングカヤックで世界を旅する剥製師。著書『ホームレス女子大生川を下る』(報知新聞社刊)。じつは山登りも好きで、アメリカのロッキー山脈にあるフォーティナーズ全58座(標高4,367m以上)をいつか制覇したいと思っている。

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