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第17回 BE-PAL里山WONDER通信
今月の里山クイズ
なんとも不思議な語感の「ムササビ」。その名前の語源とは?
※正解は一番下のほうにあります。

見ようと思っても確実に出会えないのが野生動物。しかし、人里の近くで暮らし、警戒心も薄めのムササビならわりと簡単(?)に出会えます。裏山のアイドルを観察するナイトハイクへ、いざ!
案内人 東京都奥多摩ビジターセンター 飯島瑛梨さん

昔から動物が大好きだった飯島さん。大学時代はアナグマなどの研究をしていた、哺乳類に詳しいインタープリター。

ビジターセンターは奥多摩駅から徒歩3分。奥多摩エリアの登山と自然観察に関する情報を網羅的に案内するほか、定期的に観察会を実施。https://www.ces-net.jp/okutamavc/
木の下で日没まで静かに待つ!
ハラボー(以下、ハ):編集部から電車に揺られること2時間。やってきたのは奥多摩駅。今日はここでムササビを見られる! ……はずです。
コバユカ(以下、コ):え! 確実に見られるわけじゃないの!?
ハ:そこは野生動物ですから。ね、飯島さん、どうでしょう?
飯島(以下、飯):これまでの観察会では見られています……が、下見では空振りしたこともありますね。運が良ければ滑空、そうでなくても枝を渡る姿や鳴き声は観察できると思います。それでは、有望な木を探してみましょう。
ハ:あれ? 巣穴の前で待つわけじゃないんですか?
飯:ムササビは生活圏のなかに複数の巣穴をもち、そこを転々とするんです。だから巣穴の周囲に残されたサインを読み取って巣穴にいるかどうかを確かめるんです。ほら、もう私たちはサインの上に立っていますよ。
コ:え! どこどこ?
飯:答えは地面に落ちているスギの実。本来は球形だけどムササビが齧ったものは崩れています。この周囲を探すと……あった、これがムササビの糞です。
ハ:へー!
飯:ムササビは日没から30分前後に巣を出て食物を探します。今日はこの木の下で静か〜に待ってみましょうか。
ハ:(暗くなってきましたね。今日はお楽しみギアを持ってきたんです。ジャーン、夜目が利くナイトビジョン〜!)
コ:(スゴっ。肉眼では真っ暗なのに見える! これならライトなしでも見張れるわ……って、出てきたよ! ムササビ!)
飯:じゃ、照らしますよ〜。
ハ:あー、ムササビだー!
コ:あ〜、登っていっちゃう!
飯:巣穴を出たら枝先を移動していくので、今度は耳で感じとります。ほら、ギュルルって鳴いてる。夜の森ではこの声や立てる音を聞いて探すんです。
コ:本当だ、あっちでも鳴いてる! ナイトハイク楽し〜!
ハ:ううう、里山通信の取材は楽しいですねぇ。私は今月で異動になっちゃうけど、ビーパルは今後も楽しい野遊びをお届けしますよ〜!
古木と神社が人気スポット。鎮守の森で日没を待つ

「ムササビは樹洞を利用するので、洞ができやすい古木がある森が好き。山に隣接した神社と鎮守の森は人気のエリアで観察もしやすい」と飯島さん。
ムササビウォッチング鉄の掟❺
1 観察は少人数で

多人数での観察は野生動物へのプレッシャーが大きい。できるだけ少人数で行動し、話し声やライトの使用は最低限に。
2 光源は最小限に

野生動物は光に敏感。現代の大光量ライトはインパクトが大きいので、観察用のライトは赤セロハン等で減光する。
3 飛行中の照射は厳禁

飛行中のムササビをライトで照らすと幻惑されて着地に失敗することも。飛行中は直接的な光は当てない。
4 詳細をSNSで公開しない

SNSでの不用意な投稿は人を集中させる原因に。観察した場所などの情報は明かさない。
5 光の輪の辺縁で照らす

光量にムラのあるライトの場合は、中心の明るい部分をわざとはずして、ムササビを直接照らさずに観察する。
探せ! ムササビのフィールドサイン
木の実の食痕

これはスギの実を割って中の種子を食べたもの。マツぼっくりやドングリなども割って食べる。
木の葉の食痕


ムササビは葉を折りたたんでから食べる習性があるので、食べられた葉は丸く抜かれたり、真ん中で両断されたりする。
糞

巣穴や利用率が高い木の下には糞が落ちていることも。新鮮な糞は巣穴利用の目印に。

ココいますね!
爪痕をチェック

ムササビが頻繁に利用する木の肌は爪を立てられて毛羽立っている。利用の頻度や行動のルートを知る手がかりに。
木の穴をチェック

木の幹洞があったら要確認。ムササビは入り口が直径8cm以上の樹洞を利用する。穴の周囲の樹皮の荒れが目印になる。

双眼鏡で見ておこう!
巣穴の前で静かに出待ち

マナー厳守
すごいぞナイトビジョン

サイオニクス/サイオニクスプロ
¥265,100

ISO感度819200の超低照度CMOSセンサーを搭載。星あかり程度の光量でもカラーで造影と撮影(静止画・動画)が可能。ライトで刺激せずにムササビを観察できる。
問い合わせ先:阪神交易 TEL:0120-804058
Complete!

かろうじて明るさが残る日没の10分後、樹洞からムササビが登場! 周囲を確認するとスルスルと幹を登り、枝を渡っていった。
お出かけタイムは耳で探す

樹洞を出たムササビは枝から枝へと渡りながら採食する。日没直後以降は森を静かに歩きながら耳を澄まし、ムササビの鳴き声や枝を揺らす音で探す。

グルグル鳴いてる
編集・コバユカ(右)編集・ハラボー(左)

ハラボーは来月号が最後の登場に。今後もソトに出たいのでメーカー&地方自治体のみなさま、遊びに誘ってください!
里山クイズの答え
滑空時の大きな姿から枝に止まったときの細くなる様子を「身細び(みささび)」と表したのが由来。万葉集にはムササビのサイズ感の変化にかけて「三国山 木末に住まふ むささびの鳥待つがごと われ待ち痩せむ」と詠んだ句もある。
【里山通信後記】ムササビで再会?! そんなことあるの?!
コバユカ
先日、図鑑NEOからビーパルに加入しましたコバユカと申します! ムササビ観察ということで、誘導してくれたのは〝よっち〟の愛称で親しまれている藤原祥弘さん。写真は矢島慎一さんとキタ! 懐かしッ…! 20年も前に、おふたりとは仕事したことがあるのです。アウトドア界、不変すぎるッ……!
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2026年1月号より)







