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    2025.12.07

    最も身近で謎だらけの絶滅危惧種・ウナギの生態を東大博士が解き明かす!

    最も身近で謎だらけの絶滅危惧種・ウナギの生態を東大博士が解き明かす!
    ノーベル賞の受賞者もたくさん出ている東大と京大。大学を歩いてみると、未来のアウトドアライフをより豊かにするのでは? と思わせるオモシロネイチャー研究者たちが隠れていた! 今回はワシントン条約の規制拡大案で話題になったばかりの、ニホンウナギを研究する博士が登場。
    ※2025年10月に取材しています。
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    東大&京大 未来を変える! 注目のオモシロ自然研究 研究者ファイリング 05 ウナギ博士

    東京大学大気海洋研究所 助教 板倉 光さん

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    研究者は一に体力! 背負っているのは電気ショッカー。感電して浮いたウナギを網ですくう。「禁止漁法なの
    で、知事から特別採捕許可を受けています」。

    いたくら・ひかる 1986年、島根県出雲市生まれ。少年時代は釣りと生きもの遊びに明け暮れる。長崎大学水産学部を卒業後、東京大学大学院新領域創成科学研究科で博士号取得(環境学)。メリーランド大学環境科学センター、神戸大学大学院などでも研究。

    ニホンウナギの生命力は強い

    ウナギと聞くと脊髄反射のように蒲焼きを連想するのが日本人。そのウナギをめぐって、水産や飲食の業界が揺れている。
    絶滅の恐れのある野生動植物の国際取引を規制するワシントン条約の事務局が、かねてEUなどが提出していたウナギ取引の規制強化案を、締約国に採択するよう促したからだ。
    提案内容は、ニホンウナギとアメリカウナギをより厳格な附属書Ⅱに掲載すべきというもの。その他のウナギについては前記2種と附属書Ⅱに掲載済みのヨーロッパウナギとの区別が困難な場合を想定し、類似種と位置づけて掲載*¹する。

    「世界には16種+3亜種のウナギがいますが、稚魚や蒲焼きの状態では判別が難しいのが現状。全種の貿易を規制しなければ包括的保護は困難という考え方です。日本の養殖ウナギの稚魚は長い間ニホンウナギでしたが、今は他種も輸入されている可能性があります。世界で最も消費されているのはじつはアメリカウナギで、日本にも入っていますが、きっかけはヨーロッパウナギが附属書Ⅱに掲載され取引が難しくなったため。
    貿易に起因する圧迫からウナギという種を守るには、実効力のある取引制限をかける必要がある。そうでなければ、世界規模で過熱化が進むウナギマーケットを冷やすことはできない、という考え方です」
     
    こう語るのは、ウナギを中心に海と川とを行き来する魚の生態を研究する板倉光さんだ。

    「政策的なことは専門外なのですが、ニホンウナギの保護の難しさは、パンダなどと位置づけが違うことです。食べながら守るという落としどころをどこに据えるか。それを考えるには、まだまだ情報が足りません」
    ニホンウナギは性成熟を迎えると川を下り、2000㎞以上離れたグアム西方の海域に集まる。そこで産卵し、稚魚はふたつの海流を乗り継ぎ半年から1年がかりで日本沿岸へたどり着く。産卵場所が突き止められたのは2011年だが、産卵場までの経路や川へ入ってからの行動などは、まだ断片的にしかわかっていないという。

    真実を明らかにするには調べまくるしかない

    ウナギが減っている原因はさまざまだ。ひとつは前述したような経済原理を背景とする世界規模のウナギマーケットの拡大。水質汚染の影響、ダムや堰、コンクリート護岸などの人工構造物も要因だろう。

    「川によっては、堰の下にものすごく高密度でウナギがいることがあります。そこだけ見るとウナギはたしかに多い。注意しなければならないのは、だったらこの川はいい環境なんだねと結論づけてしまうことです。
    堰があるから上れず溜まっていたんじゃないか。じゃあ個々の栄養状態はどうなのか。堰の上下の状況は。どこに真実があるかを明らかにするには、とにかく川に入って調べまくるしかないと思っています。
    頭の中にある耳石の縞や、骨や筋肉内の酸素、炭素、窒素の安定同位体比*²を調べたり、おなかに発信器を埋め込んで行動を追跡したり。そんなことを学生時代から続けています」
     
    絶滅危惧種のニホンウナギだが、生命力は強い。じつはほかの魚が棲めないドブ川のような環境でも暮らしている。上流近くまで行くかと思えば海にもいる。ニホンウナギはこのしなやかな適応力で生き抜いてきたと板倉さんは語る。

    「川沿いのお年寄りからは、昔はクロコと呼ばれる幼魚が、岩が真っ黒になるほど張り付いて上流を目指していたとか、ものすごくたくさん釣れたと聞きます。たしかにウナギはたくましい魚なんだなと実感できるのですが、そんなに生命力のある魚がなぜ絶滅危惧種に指定されるほど減ったのか。この点を考えなければいけません」
     
    ウナギと蒲焼きの未来を共に守るには、まだまだ地道な事実の積み重ねが必要。板倉さんは今日もどこかで電気ショッカーを背負っているに違いない。

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    大量の胴長類は9月に奄美で開催されたアジア国際ウナギシンポジウム用に準備したもの。主催を務めた。

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    ニホンウナギ。国際自然保護連合のレッドリストでは2014年に絶滅危惧ⅠB類に指定。近い将来、野生絶滅の危険が高いという評価だ。

    研究道具は超ミニ!

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    小さなものは魚に取り付ける発信器。右上の大きなものは受信機。発信器を付けた魚が受信機近くを通ると移動記録が残る。

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    島根で発信器を埋め込んだ個体が東京の高級鰻店で発見されたことも。「変なものが腹から出てきたと騒ぎになったそうです」。

    耳石は情報の宝庫

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    頭蓋骨の中の耳石。含まれる元素を調べると、淡水、汽水、海水でそれぞれ何年暮らしていたかといったこともわかる。

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    スライスして染色した耳石。縞と縞の間隔を見ると、年齢だけでなく年ごとの成長の違いも調べられる。このニホンウナギは約13歳。

    「密漁者と間違えられ通報されることもあります」

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    電気ショッカーはバッテリーを含めると20㎏近くにも。世間がクリスマス気分に浸っているときも調査の日々。

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    奄美のマングローブ帯での調査のときはカヌーを使った。奄美に多いのはオオウナギだが、ニホンウナギも生息する。

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    自分とほぼ同級生です。

    1.2mのオオウナギ。赤道周辺に分布する種類だ。「ぐんぐん大きくなるわけじゃなく30年、40年かけてこのサイズに育ちます」。

    やっぱりウナギはミミズが大好きだった!

    板倉さんが執念で突き止めたウナギの生態がある。ミミズへの依存度と、陸域の自然度の関係性だ。利根川下流域で継続調査したところ、雨の後に捕れるウナギの胃からは決まってミミズが大量に出てくるが、岸辺が人工的なエリアではミミズが見られなかった。ウナギは流域の環境を明確に示す指標種なのだ。

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    ウナギの胃からミミズが出て来た2水域の比較。上段は岸の自然度が高い地点で、下段はコンクリート護岸の地点。赤色はミミズ。上段の水域は餌の種類も下段の水域より多い。

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    水深のある利根川下流では、節を抜いた竹筒を沈めておく伝統漁の方法で捕獲を行なった。

    ※1 EUなどが提案した規制強化案は2025年11月27日、ワシントン条約締約国会議において否決された。12月5日の本会議で正式決定される見込み(11月29日に加筆しました)。
    ※2 安定同位体比とは、同じ元素でも質量が異なる原子の割合を調べることで生物個体の成育歴などを推定する方法。

    ※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平 写真提供/板倉 光

    (BE-PAL 2025年12月号より)

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