
絹のストールに写し取ってみました!!

絹のストールに写し取った里山の植物たち。身にまとう植物絵巻といった趣だ。アルミ(ミョウバン)媒染は明るめに仕上がり、鉄媒染の仕上がりはアンダー系の落ち着いた色合いになるのが特徴だ。葉の色素が種類ごとに異なっていることがわかる。
教えてくれた人

染色できます!
ののはな草木染アカデミー 岐阜 美濃支部教室 椿ゆかりさん
子供が野外活動教育「森のようちえん」に通っていた時代に草木染と出会う。5年前から今回紹介するバンドルダイを始める。Instagram@TSUBAKIYUKARI
里山が宝の山に見えてきた
染めの原点は植物などから採った天然色素だ。19世紀に化学合成の染料が開発されると染色の主流はそちらに移り、日本では植物を使った旧来の技法を「草木染」(植物染)と呼び分けるようになった。
「化学染料の登場が大革命だったことは間違いありませんが、天然色素も人間のすばらしい発見です。媒染剤で反応させると、植物内に隠れていた色の成分が可視化され、定着性も良くなります。どんな色が出てくるのか、毎回わくわくします」
草木染の魅力を楽しそうに語るのは、植物に造詣の深い椿ゆかりさん。その椿さんが5年前から取り組む草木染が、植物の葉の形を色とともに転写するバンドルダイという技法だ。
「オーストラリアのインディア・フリントさんというアーティストが偶然目にした、自然現象をヒントに確立した染色技法です。葉の形がそのまま布に写るので色も柄も楽しめます。私が注目するもうひとつの魅力は、図鑑としての可能性。葉の特徴を色で標本化することができます」
たとえば、タンニンを多く含む植物はモノトーン系の濃い色に仕上がる。シュウ酸を多く含む植物は色自体が染まりにくい。成分が媒染を阻害するためだが、この染まりにくさを逆手にとって白く型抜きする手法もある。
多くの植物は葉の裏面が鮮やかに染まる。気孔が分散しているためだ。表面は輪郭がくっきり染まる。外周に水分を排出する水孔が集中しているからだ。
「水孔は朝露が出るあの穴ですね。虫に食われた部分もタンニンが増えるので明瞭になります。生の葉のうちはどれも緑色ですが、それぞれの植物の生き方が発色を通して見えてきます」
植物の知られざる特徴や染色の原理が実感でき、でき上がったものはアートやファッション、図鑑としても楽しめる。
「バンドルダイを始めてからは里山が宝の山に見えます」と椿さん。日本の野遊びにとびきり魅力的なアイテムが加わった。
手順1 植物採集

①樹木、草、シダなど基本的になんでも材料に。花も染まる。同じ種類でも採集時期や場所で色合いがさまざまに変化する。

②種名がわからない植物は、ひとまずスマホで写真を撮って図鑑アプリで検索。帰ってから信頼に足る図鑑を使って再同定。

③色の濃度は葉のエキス分(葉緑素量など)に比例。スケッチブックに生葉を擦り付け、緑の濃淡から植物の特徴を覚える。

④持ち帰るときは押し葉の要領で紙にはさむ。布と密着しないとよく染まらないので、この段階で葉のねじれなどを調整。
染めに向かない植物
1.かぶれる可能性がある ヤマウルシ/ハゼ/ヌルデなど
2.葉緑素が出にくい タケ類/イネ科植物/針葉樹
3.シュウ酸が多い カタバミ/イタドリ/スベリヒユなど
手順2 布の準備
❶精練
布に付着している糊や汚れを落とす。中性洗剤を入れたぬるま湯でやさしく洗い、よくすすいでおく。
❷濃染
植物繊維は色素が結合しにくいため事前にタンパク質処理をする(絹、ウールは不要)。お湯1対呉汁1(※)の液になじませ陰干しする(A)。

※呉汁 大豆をすり潰した汁。おからを含む濃厚タイプの豆乳(『まるごと大豆飲料』など)でも可
❸媒染

繊維と植物色素がしっかり結合し、発色も良くなるように媒染処理をする。アルミ媒染剤は市販のミョウバンで、鉄媒染剤は古釘と食酢からつくることができる(B)。

アルミ媒染剤は布の重さ(乾燥重量)の10%をお湯に溶かす(C)。

鉄媒染剤は1%。浸す時間はアルミ媒染剤が30分。鉄媒染剤が5分。布はよく動かし繊維の芯まで浸透させる(D)。

水洗いしてからしっかり絞る(E)。
手順3 植物の配置

作業台に薄いビニールシート(ごみ袋など)を敷き、ウエットティッシュ程度に湿らせた媒染済みの布を広げる。その上に好みの種類の葉や花を配置(F)(G)。


木綿と絹、葉の表面と裏面でも鮮明さや色合いが変わるので、2枚の布で葉を挟んでも面白い作品ができる。配置が済んだらシートをのせ、ラップを巻いた丸棒(麺棒など)で布と植物が密着するよう巻き付ける(H)。

巻き終わったら紐かストレッチフィルムでしっかりと固定しておく(I)。
世界で1足だけの靴下

生地は天然繊維100%のものを使う。サイズの小さな靴下は家庭用鍋でも作業がしやすいので、バンドルダイの入門にぴったり。
手順4 蒸し・仕上げ・手入れ
蒸し

作品の大きさは蒸し器のサイズ(巻き付けた丸棒が収まる大きさ)に規定される。椿さんは木で作った箱型の専用蒸し器を使っているが(J)、家庭用の蒸し器の場合は丸棒の代わりにビニールホースを使えば曲げたまま蒸すことができる。蒸す時間は100度Cの温度で60分前後。
仕上げ

蒸し器から取り出したら、完全に冷まして開封(K)。付着している葉や花をていねいに取り除き一度乾かす。その後水でゆすぎ洗いし自然乾燥。
手入れ
洗濯は中性洗剤で軽く手洗いし、風通しの良い場所で陰干し。アイロンがけは色が褪せるので避ける。
これも楽しい! 葉っぱのイースターエッグ

復活祭でおなじみの、卵にペインティングを施して楽しむイースターエッグ。バンドルダイでアレンジすればアウトドアのランチでも大人気に。方法は殻を植物色素で染め、葉をのせた部分を白く抜く逆転写。食べてしまうのがもったいないほどの仕上がりになる。

卵は白い殻がおすすめ。押しを利かせてしんなりさせた葉を殻に置く。

染料は市販品なら蘇芳、茜など。玉ねぎの皮煮出し汁やカレー粉でも。

不要になったストッキングで卵を包み端を縛る。葉と殻は密着させる。

媒染はしない。染色液が80度Cになれば葉が触れた部分以外は染まる。
★使用する布類は染色材料専門店からの入手がおすすめ。媒染剤も購入できる。
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平
(BE-PAL 2025年10月号より)