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卵・幼虫期のカマキリの天敵

カマキリは、一度に100~300個の卵を産みますが、無事成虫になれるのは多くても4%程度といわれています。まずは、卵や幼虫の前に立ちはだかる天敵を3種類紹介します。
カマキリタマゴカツオブシムシ
カマキリタマゴカツオブシムシは、カマキリの卵鞘(らんしょう)に産卵する虫です。卵鞘はスポンジのような物質で、中の卵を乾燥や物理的衝撃から守り、ある程度の温度変動にも耐えられるようになっています。
ふ化したカマキリタマゴカツオブシムシの幼虫は、卵鞘の中で、カマキリの卵を食べて成長します。
卵鞘にカマキリタマゴカツオブシムシがいるかどうかは、外見では分かりにくく、カマキリがかえったと思ったら、違う虫が出てくるといったシーンに遭遇することも珍しくありません。
種類によっては、約20%の確率で卵鞘からカマキリタマゴカツオブシムシが出てくるとされています。
アリ
アリは、集団でカマキリの幼虫を襲うことがあります。1匹1匹は小さくとも、集団で襲われるとさすがのカマキリでもひとたまりもありません。
逆に、カマキリの幼虫がアリを捕食するケースも見られます。1対1ならカマキリに分があり、両者はライバル関係にもあるといえます。
カマキリを飼育するときは、餌をあげるつもりでアリを大量にケースに入れると、かえってカマキリが襲われてしまうので注意しましょう。
鳥やトカゲなどの爬虫類
カマキリの幼虫は、鳥やトカゲ、カエルなどによって捕食されることがあります。しかし、成虫になると逆にそれらの生き物を捕食する例もあり、幼虫期と成虫期で力関係に大きな差があることが分かります。
カマキリは卵や幼虫期に、さまざまな天敵に食べられてしまうため、成虫にまで成長できるのはほんの一握りです。成虫は昆虫界でもトップクラスの強さを持ち、多くの昆虫や小さな生き物の天敵として君臨します。
成虫期のカマキリの天敵

無事に成虫となったカマキリも、無敵とまではいきません。成虫になってもなおカマキリの安全を脅かす、3種類の生き物を紹介します。
スズメバチ
スズメバチとカマキリは、お互いに天敵でライバル関係にあります。カマキリがスズメバチを捕食することもあれば、スズメバチがカマキリを倒すこともあります。
大型のカマキリは、サソリや小さなネズミを食べるケースもあるため、個体差によってどちらが強いかが変わるのでしょう。
実際どちらが強いのかは意見が分かれるところですが、空中を自在に飛び回れる野外であれば、飛行能力が優れているスズメバチが有利なケースが多い傾向です。
しかし、不意打ちによってカマキリが勝つ場面もあり、両者はまさにライバルと呼ぶにふさわしい関係といえます。
クモ
カマキリがクモの巣に捕まり、糸で拘束されることがあります。『昆虫記』で有名なファーブルは、カマキリをクモの巣に引っ掛けたところ、カマキリがクモに捕食されたことを観察しています。
ただし、ファーブルによると、野外でカマキリがクモに捕食されたシーンを見たことがないとも指摘しており、カマキリがどのようにクモからの捕食を逃れているのかはよく分かっていません。
近年では、カマキリが自らクモの巣に飛び込んでクモを捕食するシーンも確認されています。狩りの得意なカマキリであれば、クモの巣も難なく攻略できてしまうようです。
ハリガネムシ
ハリガネムシは、カマキリの寄生虫として有名です。ハリガネムシは水中で生まれ、最初はユスリカやアカムシなどに寄生して陸に進出します。
カマキリが宿主の虫を食べると、今度はカマキリのおなかの中で成長します。十分に成長すると、産卵のためにカマキリを水辺に向かわせるよう操るのです。
ハリガネムシは、カマキリが確実に水へ飛び込むよう、水特有の反射光である『水平偏光』に引かれるように操作します。これにより、ガラスなど水と似たように反射する物質と間違えることを防いでいるそうです。
カマキリが水へ飛び込むと、ハリガネムシはおなかを突き破って水中へ出ていきます。カマキリは陸に戻ろうとしますが、おなかを突き破られたダメージで弱っているため、ほとんどはそこで力尽きてしまいます。
まさに、カマキリの天敵と呼ぶにふさわしい存在です。
カマキリが天敵から身を守る方法

大きな鎌を使った攻撃が注目されがちなカマキリですが、天敵から身を守るためのすべも心得ています。攻撃一辺倒ではない、カマキリの自衛方法を二つ紹介します。
体色により周りの植物にまぎれる
カマキリは、緑や茶色など体色が保護色となっており、周囲の自然に溶け込んで身を隠しています。周囲に擬態することは、鳥などの天敵からのカモフラージュになるだけでなく、獲物に接近するのにも役立ちます。
日本では緑のオオカマキリが有名ですが、体色が茶色で枯れ葉に擬態しやすいコカマキリも生息しているので、自然の中で擬態しているカマキリを見つけるのも楽しいでしょう。
マレーシアやインドネシアには、花に擬態するハナカマキリもいます。
威嚇で自衛する
カマキリは危険を感じると、前脚を大きく上げたり羽を広げたりするポーズを取ります。ポーズの意図は、体を大きく見せて相手を怖がらせることです。
カマキリは、自分よりも圧倒的に強い人間に対しても、威嚇ポーズを取ることがあります。『蟷螂の斧(とうろうのおの)』は、力関係を顧みず強者に反抗するカマキリが由来となった故事成語です。
人によっては、その姿がかわいらしいと感じるかもしれませんが、威嚇ポーズを見たいからといって、執拗にカマキリを刺激するような行為はやめましょう。
カマキリの強さを生かした天敵農法

確かに天敵は存在するものの、カマキリは昆虫の中では屈指の強さを誇り、多くの昆虫にとっての天敵です。最後に、カマキリの強さを生かした天敵農法について紹介します。
カマキリが害虫を食べてくれる
カマキリは肉食性の昆虫で、動くものであれば自分より大きな生き物であっても襲う習性があるため、天敵農法に適任です。天敵農法とは、害虫の天敵を畑・田んぼに住まわせて被害を防ぐ農法です。
カマキリは、食料があれば生息場所をあまり変えないため、この意味でも天敵農法に向いています。アブラムシやバッタなど、好き嫌いなく害虫を食べてくれるカマキリは、農家にとっては頼もしい存在です。
天敵農法は、農薬に頼らない農法でもあるため、無農薬栽培を売りとしたいときにもよい選択肢となります。
天敵農法は古くからある
天敵農法の歴史は古く、古代中国でかんきつ類の害虫対策としてアリを使った記録が残っています。同じく中国では180万匹以上のカマキリを放ち、収穫量が増加したという記録もあります。
カマキリ以外で、天敵農法で好まれて採用されている昆虫の一つは、てんとう虫です。てんとう虫はダニやアブラムシなどを食べてくれるため、例えばピーマンの栽培で活躍します。
殺虫剤が効きにくい害虫も存在する昨今、自然の摂理に基づいた天敵農法は、現代だからこそ真価を発揮するともいえます。
まとめ
カマキリは、昆虫界でも屈指の強さを誇りますが、実際は一生を通して複数の天敵の脅威にさらされています。特に幼虫期は、他の生き物の餌となりやすく、多くが命を落としてしまうのが現実です。
生存競争を勝ち抜き成虫になっても、スズメバチやクモ、ハリガネムシなどが天敵として立ちはだかります。
しかし、カマキリが昆虫界での強者であることは変わらず、その強さを生かした天敵農法では畑を守るパートナーとして重宝されています。カマキリは、自然界の複雑な食物連鎖の中で、重要な役割を果たす存在なのです。