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    2025.05.09

    写真家・石川直樹さんに聞く「旅の記録を一期一会で残したい」思いとは

    写真家・石川直樹さんに聞く「旅の記録を一期一会で残したい」思いとは
    2025年、写真はデジタル全盛だ。そんな中にあって、フィルムで、しかも中判で、さらに山の上で撮影。そんな人はどれくらいいるのだろう?写真と向き合う、山と向き合う、心意に迫ってみた。

    8000m峰14座登頂達成! ついに大判写真集が発売

    石川直樹さん

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    1977年東京都生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。

    知らないことを自分の体で感じながら知りたい。そういう気持ちが、めっちゃ強いんです

    世界最高峰エベレストをはじめ、標高8000mを超える山は14座ある。昨年10月初旬、石川直樹さんは最後の1座シシャパンマに登頂、14座全てに登った。14座の中でも石川さんが最も思い入れのある山がK2だ。美しい円錐を成し、エベレストに次ぐ高さがある。

    石川さんは過去に二度挑戦するも登頂を断念。’22年にようやく頂を踏み、「呪縛から解かれたような感じ」だったという。下見も入れると、K2には四度も訪れている。先日、写真集『K2 Naoki Ishikawa』を上梓したばかりの石川直樹さんに話を聞いた。

    ―念願のK2登頂を果たしたときは、どんな思いでしたか。
     
    8000mの山、K2以外の他の山もそうなんですけれど、頂上に立っても下山のことばかり考えていましたね。下山のときに危ない目に遭うことが本当に多いので。登頂してもベースキャンプまで無事に戻りたいという気持ちがありました。戻ってようやくひとつの遠征が終わったという実感が湧きました。

    最初にK2に行ったのは’15年。その後は’19年、このときも登れず。不完全燃焼だったので、区切りをつけられて良かったです。下見も入れると、もう4回も行っていますね。そんな山はK2だけです。もともとは、一番高い山から5番目くらいまでを登って撮影したいと思っていたんです。エベレスト、K2、カンチェンジュンガ、ローツェ、マカルー。K2はそのふたつ目で、結果的に手こずってしまって、すぐには登れなかったですが。

    ―8000m峰14座登頂は、いつごろから目指そうと。
     
    ’22年ですね。この年は幾つも山に登り、100泊ぐらいテント泊をしました。1年の半分は海外ってことはよくあったけど、100泊野宿はあまりなくて。直前はコロナ禍で2年間海外もどこにも行けなかったから、パチンコ玉がこう、引かれたまま(弓矢を引くように)、ず〜っと止まっている、そんな状態だったんです。

    だから’22年になってヒマラヤの扉も開いたら、びゅ〜んと勢いよく飛び出しちゃった感じです(笑)。体が高所に順応しているので連続で登ったほうが楽なんですが、自分の力をすべて出し切りました。

    体を使い切ってもうこれ以上動けない!みたいな感じになることは、日常ではほぼなくて、そういう旅を1年に1回くらいすると、生まれ変わったように感じます。特に’22年は人生の中でも一番充実していて、死ぬ間際に思い出すとしたらこの一年でしょうね……。そんな不思議な感覚でした。
     
    ’22年はそうして連続で登っていく中で、自分よりも年下の若いシェルパたちと仲良くなりました。彼らはとても面白くて。それまでは年上のシェルパと登ることが多かったんです。新しい時代を切り開く彼らの姿をきちんと記録しようと思いました。

    あとは、“本当の頂上問題”(*1)というのが’20年ごろから登山界を賑わしはじめ、本当の頂上ってどういうことなんだろう? と。それを自分でも見てきたいという思いもありました。自分が’12年に登ったマナスルも本当の頂上には立っていなかったことが判明したりして、面白いなと思いました(石川さんは’22年にマナスルに再訪して本当の山頂に立っている)。
     
    シェルパと並走し彼らの記録を撮ること、真の頂上問題、このふたつが14座に向かう具体的なきっかけになりました。最初は、14座なんて全く考えたことがなかったんですけどね。

    ―今回の写真集は街や人の風景から始まって、意外でした。
     
    そうですね、旅を追体験するみたいな。ロードムービーのようになっていますから。K2は14座の中でもベースキャンプまでの距離が特に長いんです。K2が見えるまで10日以上はかかるかな、ずっと歩いていきます。途上に町はなくて全部野宿。途中まではガッシャーブルムと同じ道のりなので、バルトロ氷河だけだったら、もう、何度も何度も往復していますね(笑)。

    写真集には、ウシやヤギを潰して肉にする場面もあります。そういうパキスタンのポーターたちの食文化も含めた遠征の一部始終を収めました。

    ―本書はまさに石川さんの旅の記録、追体験した気分でした。
     
    写真を撮り始めた20代前半から自分の旅を記録しようと思っていて。それはずっと変わらないっていうか、今も自分の旅を記録したいと思っています。POLE TO POLE(*2)から戻って、25歳のときに初めて写真展を開いて、初めて写真集を出しました。

    その若いころに比べると写真への取り組みはだんだん増えていて、10年くらい前は週刊誌のグラビアで女優さんを撮ったりしていたんです。誰も知らないかもしれないけど(笑)、そんな仕事もたくさんしてきました。でも、K2を撮るのも女優さんを撮るのも自分の中では繋がっています。

    ずっとフィルムで撮っているし、何ひとつ変わらない記録なんです。記録に徹すると写真はすごく強くなるんですよね。多くの人は記録を表現より下に見るのですが、むしろ独りよがりな表現をすることのほうが危ない。自分の写真は、半端な美意識や主観を挟まず、記録に徹したいと考えています。

    ―山の上ではどんなふうに撮影されているのですか。
     
    自分の体が反応したときに撮っています。1本のフィルムで撮れるのは10枚ですが、勿体ぶって撮ることは全然なくて。街にいるときも山の上でも同じ、何も変わりはないです。サミットプッシュのときにも予備フィルムは3、4本。山の上で3、40枚撮れたら結構十分っていうか。今のデジカメだったら何万枚も撮れちゃうから、比較にはならないけど、撮っているほうかなと思います。

    フィルムはやっぱり一期一会な感じがいいですね。そういうカメラのほうがよく写る感じがしているのと、世界中で誰もそんな撮影の仕方をしていないので、それだけでオリジナリティが出てきます。

    ―プラウベルマキナ670(下の写真)を使い始めたきっかけは。
     
    大学時代に写真家の鈴木理策さんにお会いしたときに、プラウベルマキナ670を使っていらしたんです。調べてみると、“山岳カメラとして生まれた”みたいなことが書いてあって。自分は山も登るし、旅もするし、大きなフォーマットのカメラを使うならいいかなと思って使い始めたんです。

    今はそのプラウベルマキナ670が4台とマミヤ7という機種が4台、計8台を使い回しています。壊れやすいので。写真展をする機会も多くて、中判カメラで絞り込んで撮影したものは大きく引き伸ばしたときにもきれいなんですよ。

    ―今後はどんな旅を予定していますか。
     
    5月にはネパール、6月にはアラスカに行きます。また新たなプロジェクトを始める予定もあって。国内では各地の半島を撮るという自分のプロジェクトも続いています。

    これまで北海道知床半島や大分県国東半島などを撮影し写真集にしました。自分の性格的なことですが、世界のこと、知らないことを自分の体で感じながら知りたいっていう気持ちが、めっちゃ強いんです。自分の感覚を通して理解したい気持ちが強いんでしょうね。

    幾度も訪れたK2の記録

    『K2 Naoki Ishikawa』

    石川直樹著 
    小学館 
    ¥9,900

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    パキスタンと中国国境に聳える標高8,611mの単独峰K2。幾度も訪れたK2頂への旅の記録。30.8×26.5㎝の大判、どっぷり世界に浸れる。

    石川さんの愛機

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    プラウベルマキナ670。’84年発売の中判カメラで今は製造中止。レンズは蛇腹式ニッコール80mm F2.8。

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    昨年10月のシシャパンマ山頂にて。手にしているのは、もう一台の愛機マミヤ7だ。

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    ブロードピークから見たK2。ほとんどの山の写真は下から見上げているが、横にK2! というなかなかお目にかかれない風景。

    *1 近年検証が進み、幾つかの8,000m峰で頂上とされていた場所は最高点(真の頂上)ではないことが分かってきた。

    *2 石川さんが22歳のときに参加したプロジェクト。様々な国から選ばれた8名が北極から南極までを人力で踏破する。

    ※構成/須藤ナオミ 撮影/黒石あみ

    (BE-PAL 2025年5月号より)

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