初夏の公園の自然観察。ウッドチップはキノコの天国。美味いキノコもあるぞ! | キノコ・ハンティング 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2019.06.01

    初夏の公園の自然観察。ウッドチップはキノコの天国。美味いキノコもあるぞ!

    キノコを採って&撮って30年!マッシュ柳澤の知れば知るほど深みにハマる野生菌ワールドへようこそ!

    「ハタケキノコ(Agrocybe pediades (Fr.) Fayod」モエギタケ科フミヅキタケ属。食毒は不明。名前の通り畑など土が肥えたところに発生する。

    【カサ】

    湿時、弱粘性があり黄土褐色。

    【ヒダ】

    上生~直生、やや密。淡褐色。

    【柄】

    カサと同色、条線と微粉に覆われ、髄状。

    【肉】

    帯褐白色。

    汗ばむ日も増えて、キノコ界もだんだん賑やかになってきた。それでもまだ山の夏きのこシーズン本番まではあともう少しだ。

    一足先に里の公園では、小さく地味なキノコたちが盛を迎えている。そんな公園や遊歩道などに散布されたウッドチップが、最近キノコ好きには無視できない、重要キノコ観察スポットになっている。

    細かく裁断されたウッドチップは、保水性が良く、植物由来の有機物を分解する腐生菌の仲間が菌糸を張り巡らすのに絶好の環境になっている。

    ウッドチップが散布された公園。日当たりがよく乾燥しやすい公園では、日陰や植栽の影を探すとキノコが見つかりやすい。

    ウッドチップに好んで発生する腐生菌の仲間は、もともとは畑や田の畦、樹木の切り出し跡、牛馬の糞など、人の営みに寄り添って生活していたキノコたちだ。

    しかし、有機肥料が科学肥料に置き換えられ、除草剤や殺虫剤などの農薬が多用されるようになって、身近から失われ見かけることも稀になった。

    ウッドチップ散布の目的の一つは、雑草の発生生育を抑えることにある。そういう意味では、除草剤に変わるものとして散布されたウッドチップに、キノコが発生するのは皮肉なことでもある。

    以前は当たり前に生えていたキノコが、今はほとんど見ることができない。都市部では農地や山林が減り、地方では伝統的な農業が失われつつある。

    公園のウッドチップは失われそうになったキノコのミュージアムといえるかも知れない。ウッドチップで生活するキノコのことを頭の片隅に停めて、公園や散策路を散歩してみてはどうだろうか。

    地味かわいい、実は美味しいものもある、小さなキノコたちがだんだん愛おしく思えてくるはずだ。

    ウッドチップに発生する、地味かわいいキノコたちをミニ図鑑として紹介。

    モエギタケの仲間

    モエギタケ科のキノコは、落枝や落ち葉を分解する腐生菌で、公園に散布されたウッドチップ上に発生するキノコも多い。

    畑のすみや、間伐された森林あと、時には工事や住宅建築で出た、のこぎり屑と土が混じったところなど、生活に近いところに発生するキノコでもある。

    中でも「フミヅキタケ」の仲間は、公園などのウッドチップ上ではポピュラーで、大発生する事もあるキノコだ。

    ● フミヅキタケ(食べられるキノコ)

    学名:Agrocybe praecox (Pers.) Fayod

    公園の遊歩道に群生する「フミヅキタケ」。ツバの上面が胞子で褐色に染まっている。歯ざわりが良く、特別な旨味はないが、クセも無くどんな料理にもあう。

    【カサ】

    饅頭形→平に開く。黄土色で周囲やや淡く、平滑。しばしば縁にツバの破片をつける。

    【ヒダ】

    類白色→暗褐色。上生~直生し密。

    【柄】

    棒状~下部がやや太く、中空。上部に白色のツバがあるが脱落しやすい。表面は白色~黄土色、乱れた条線に覆われる。

    【肉】

    上部白色、下部は表面色を帯びる。無味で菌臭あり。

    近縁のツバナシフミヅキタケ(有毒)は、フミヅキタケより全体にがっしりした感じのキノコで、名前の通りツバが無い。

    以前は食用とした図鑑などもあったが、神経系の毒成分を含むことがわかった。めまい、頭痛、悪寒、平衡感覚の異常などの症状が現れる可能性がある。

    ● ツバナシフミヅキタケ(有毒)

    学名:Agrocybe farinacea Hongo


    【カサ】

    饅頭形から平に開く、黄土色で平滑。しばしば不規則なあばた状の皺がある。

    【ヒダ】

    淡黄土色のち暗褐色。上生~直生し密。縁は白色粉状。

    【柄】

    基部が太く中空~中実。カサと同色、表面繊維状で条線がある。ツバは無い。

    【肉】

    白色~淡黄色。小麦様の香りと味がある。

    モエギタケ科は、ニガクリタケなどの猛毒キノコがある一方で、クリタケなど美味なキノコも含む科だ。

    濃厚な旨味の出汁しが、汁物や煮物で、発生環境からは想像できない美味なキノコとして知られる「サケツバタケ」もウッドチップにしばしば発生する。本来は野山の落枝や、山林の間伐跡に発生することの多いキノコだ。

    ● サケツバタケ(食べられるキノコ)

    学名:Stropharia rugosoannulata Farl. ex Murrill

    高速道路のパーキング併設の公園のウッドチップに発生した「サケツバタケ」。野山で見かけるものより、栄養状態が良いのか一回り大きく立派な姿だ。

    【カサ】

    平に開く。湿時、粘性があり平滑~微片鱗状。紫褐色。

    【ヒダ】

    直生し密。類白色→紫褐色。

    【柄】

    上部に星型に裂けた厚いツバがあるが、脱落しやすい。下方に太く、中実~中空。白色~淡黄褐色で絹糸状光沢と条線あり。

    【肉】

    白色無味無臭。

    オキナタケの仲間

    畑や林のすみで、雑草などに隠れて目立たないオキナタケやナヨタケの仲間、華奢で小柄なこのようなキノコも、雑草の少ないウッドチップの環境では子細に観察できる。

    普段気にしていない、小さなキノコの意外な美しさに気づくはずだ。残念ながら、食用にはならないけれど。

    ● キオキナタケ(食べられないキノコ)

    学名:Bolbitius titubans (Bull.) Fr. var. olivaceus (Gillet) Arnolds

    名前は黄翁茸だが、むしろ金色に近い鮮やかな色合いで美しい。

    【カサ】

    釣り鐘型→中高の平に開く。鮮やかな黄色で粘性がある。中央部に網目状の皺があり、周辺に放射状の溝条がある。幼時、中央部は褐色を帯びる。

    【ヒダ】

    白色→肉桂色。上生~離生し密。

    【柄】

    中空で白色~黄色。微粉状。

    【肉】

    薄く淡黄色。無味無臭。

    【食毒】

    食毒不明。

    華奢で乾燥しやすいので、日陰を探すと見つけやすい。残念だが小型で食べるほどのものでもなく、食毒は不明。

    ヒトヨタケ(注1)の仲間 

    一晩で溶けて消えることから、一夜茸の名で呼ばれるキノコのグループ。実際には数日は保つのだが。

    黒く液状化するのは、実は腐ってしまったのではない。キノコ自らの持つ消化酵素によって、自分を消化して溶かしているから。

    キノコの溶けた黒い粘液は昆虫などの餌に成り、胞子を運ぶ。

    ウッドチップには、多種多様なヒトヨタケの仲間が発生する。

    ● ウシグソヒトヨタケ(食べられないキノコ)

    学名:Coprinopsis cinerea (Schaeff.) Redhead, Vilgalys & Moncalvo

    散布前のウッドチップに発生したウシグソヒトヨタケ。幼菌は可食と言われるが、ボリュームに乏しい上、同定の難しい一群ということもあり、あまりお勧めできない。

    【カサ】

    卵型→円錐形→縁より黒色液状化。幼時、白色の繊維状鱗片に覆われる、のち灰色地肌を現す。放射状の長い条溝がある。

    【ヒダ】

    離生し密。白色→黒褐色→黒色液状化。

    【柄】

    細長く、基部太く、中空。地中に根状に伸びる。表面を白色細鱗片が覆うが、やがて脱落。

    【肉】

    薄く白色、無味無臭。

    【環境】

    積みわらや馬糞上にも発生。

    (注1)ヒトヨタケの仲間の一部、ササクレヒトヨタケなどは分子系統学による分類の再編の結果、ハラタケ科に移動したが、ここでは区別せず、現在のナヨタケ科(新設)に属する大部分を含めて、旧分類のヒトヨタケの仲間として扱った。

    ホウライタケの仲間

    ホウライタケの仲間も、その多くが枯れた植物を分解して生活している。観察にルーペが必要と思えるほどに小さなキノコが多い仲間だ。オオホウライタケはその中では例外的な大きさを誇る。

    ● オオホウライタケ(食毒不明)

    学名:Marasmius maximus Hongo

    量感に乏しいキノコで、一般に食用とはされないが、毒は無いという。

    【カサ】

    釣鐘型→中高の平→反り返り波打つ。深い放射状の条溝があり、黄土色~淡褐色。乾燥すると白色化。

    【ヒダ】

    幅広く、極めて疎。白色→淡褐色。

    【柄】

    棒状で固く中空。白色~淡褐色で上部は粉状、下部は条線が覆う。

    【肉】

    極めて薄く、無味無臭。

    カサは紙のように薄く、湿っているときは透明感があり、日差しが透けて美しいが、乾燥すると類白色になり透明感も失われて、薄皮のような質感になってしまう。

    地下にウッドチップを菌糸で固めた、菌糸マットが広がり、キノコの本体が地中にあることが実感できる。

    キシメジ科のキノコ

    キシメジ科には、ブナシメジやハタケシメジなど、栽培されていて家庭でもよく食べられているキノコも多い。

    キシメジ科のキノコは生活史が変化に富む。マツタケやホンシメジなどは菌根菌(樹木と共生するキノコ)だが、他の多くは腐生菌だ。ウッドチップに発生する種も少なくない。

    中でも「コムラサキシメジ」は、晩秋のキノコ狩りで人気のある「ムラサキシメジ」に近縁のキノコで、味はこちらのほうが上と評価するキノコ通もいる。

    ● コムラサキシメジ(食べられるキノコ)

    学名:Lepista sordida (Fr.) Sing.

    雨上がりのコムラサキシメジ。湿っている時は美しい紫色だが、乾燥すると汚白色になる。

    【カサ】

    幼時、縁が内側に巻き、饅頭形→平に開く。表面、平滑で淡紫色。乾燥すると白色化。

    【ヒダ】

    カサより淡色で、上生~直生、やや垂生し、やや疎。

    【柄】

    カサと同色、表面条線があり中実

    【肉】

    帯紫白色で無味無臭。

    ハラタケの仲間

    栽培種のマッシュルーム(和名:ツクリタケ)を含むのがハラタケ科だ。昔はマッシュルームの栽培は、馬糞と落ち葉や藁を混ぜた菌床が使われた。

    現在は、馬糞は使わず化学肥料を使って発酵させた堆肥を菌床として利用するのが普通だ。

    ハラタケ科の多くは、ウッドチップが土に帰る過程や、草刈りで出た雑草の堆積跡によく見られる。

    マッシュルームがポピュラーな食用キノコだと思うと、他のハラタケの仲間も・・と思いがちだが、じつは有毒のキノコの多いグループで、猛毒のものもある。安易に口に入れないように。

    ● オニタケ(有毒)

    学名:Echinoderma asperum (Pers.) Bon

    公園も静かになる頃、夕日に照らされたオニタケ。弱い胃腸系の中毒を起こす。

    【カサ】

    半球形→平に開く。暗褐色で尖った小突起を同心円状に付着。黄土褐色~帯赤褐色→表皮が裂け白色地肌が現れる。

    【ヒダ】

    白色、離生し密。

    【柄】

    基部ややや膨らみ、中空。上部に白色膜質のツバがあるが、消失しやすい。

    【肉】

    白色、無味無臭。

    変わった形のキノコ(腹菌類など)

    キツネのエフデやツマミタケなど、腹菌類でウッドチップや公園の肥えた腐葉上に発生するキノコは多い。ハエなど昆虫と関係が深いキノコのグループだ。

    傘と柄がある普通のキノコのイメージから大きく外れた外観を持つキノコの一群だ。少々キモいが造形的には、神様のいたずらかと思うほど興味深く、とっぴな形のものが多い。

    ● カニノツメ(食べないキノコ)

    学名:Clathrus bicolumnatus (Kusano) Sacc. & Trotter

    暗緑色の粘液質の部分(グレバという)で胞子を作り、昆虫のハエなどを呼び寄せて胞子を運ばせる。

    【形態】

    腕は湾曲し上部でつながる、淡紅色~橙黄色。グレバは腕の間にできる。悪臭がある。

    チャワンタケの仲間

    お椀や皿のような形をしたチャワンタケの仲間も、ウッドチップの常連だ。

    小さなキノコの多いチャワンタケの仲間だが、大型の「オオチャワンタケ」は大型で観察が容易だ。胞子を作るのは、椀の内側で、湿度が高く風の無いときに、胞子をポッと吹き出すのを見ることができて楽しい。

    ● オオチャワンタケ(食べられないキノコ)

    学名:Peziza vesiculosa Bull.


    【形態】

    幼時は球形、やがて上部が開き椀型になる。椀の内側は淡褐色~黄土褐色。外側は同色~淡色で粉状の鱗片があるが老成すると粗面平滑。

    以上、初夏に公園や遊歩道に発生する代表的なキノコを、ざっとまとめて見た。もちろんこれらは、ウッドチップのキノコのほんの一部でしか無い。

    野山や森で、大物狙いのきのこ狩りはもちろん楽しい。しかし、ちょっと気をつけて見れば、いつも行く公園なども、実はキノコで賑やかだったということに気がつくだろう。

    たまには近所でふだんあまり顧みられない小さなキノコを、じっくり観察するのも良いものだ。

    文・写真/柳澤まきよし
    参考/
    「日本のキノコ262」(自著 文一総合出版)
    「Gakken 増補改訂 フィールドベスト図鑑 日本の毒きのこ」(長沢英史監修 学研教育出版)
    「山溪カラー名鑑 増補改訂新版 日本のきのこ」(山と渓谷社)
    「カラー版 きのこ 見分け方 食べ方」(清水大典・伊沢正名著 家の光協会)
    「カラー版 きのこ図鑑」(本郷次雄監修 幼菌の会編 家の光協会)

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