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北海道の大きなロマン。100%日本産ビールをめざす忽布古丹醸造

2021.04.03

私が書きました!
佐藤恵菜
ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@DIMEとSuits  womanでも仕事中。

左の3本は定番のペールエール「ノンノ」、ピルスナー「ウポポ」、フルーツエール「ハシカプ」。右の3本は限定醸造。IPA「新しい日常」、イングリッシュマイルドエール「一昼夜」、ドライスタウト「ニューソラチスタイル」。

ローカルに根づいたクラフトブルワリーを紹介するシリーズ。第8回は北海道空知郡に2018年にオープンした忽布古丹醸造をご紹介する。

定番ビールは上富良野産ホップ100

忽布古丹はホップコタンと読む。アイヌ語でホップの村という意味になる。

北海道は19世紀後半からホップ栽培が始まり、日本人のビール消費量と比例して生産量も増えていった。それが1970年代の高度成長期に減少に転じる。日本人がとりあえずビールを注文するほど消費量は増える一方で、大手メーカーが、より安定的に大量に供給できる海外産ホップに切り替えていったことが要因である。

それでも近年、日本産のホップ、中でも地元産のホップでビールをつくろうという気運が、クラフトビール人気とともに高まっている。

忽布古丹醸造のある上富良野は、昔から商用ホップが栽培されてきた数少ない土地だ。その地で、上富良野産ホップ100%のビールをめざしてつくられたブルワリーが忽布古丹醸造である。

100%上富良野産ホップでつくられた定番3種。右から、富良野産ハスカップのフルーツエール「ハシカプ」、ペールエール「ノンノ」、ピルスナー「ウポポ」。

創業メンバーのひとりの堤野貴之さんはカナダでビール醸造を学び、北海道江別市にカナディアンブルワリー(現在ノースアイランドビール)を設立。10年以上のキャリアを持つブルワーだ。2014年、初めて上富良野産のホップを試したとき、その品質の高さに驚く。そして100%上富良野産のホップのビールを目指して忽布古丹醸造を創設した。

ヘッドブルワーの鈴木栄さんにオンラインで話を聞いた。

「ミッションをもった醸造所です。理想は、ホップだけでなく、麦芽も地元産100%のビールを目指しています」

すでに、忽布古丹醸造は地元の上富良野産ホップ100%を3種ある定番ビールで実現している。出荷量のケタは違うものの、「通年出荷する定番ビールで、日本産ホップ100%を達成しているビールブランドは大手にまだありません」

クラフトブルワリーだからできたビールだ。

スタッフのみなさん。後列左がヘッドブルワーの鈴木栄さん。中央に座るのが創業者の堤野貴之さん。

世界の「ソラチエース」を生んだサッポロビールのホップ畑から

この地域はサッポロビールの城下町と呼んでもいい土地柄だ。サッポロビールの原料研究センターが集積し、大麦やホップの育種、開発が行なわれている。富良野と聞くと、つい頭の中に「北の国から」のラベンダー畑が広がってしまうが、その隣にホップ畑も広がっているのだ。

忽布古丹醸造は操業を始めた2018年、1軒のホップ農家に専属契約栽培を依頼した。新たにホップの苗を植えるところからのスタートだった。

植え付け3年目の2020年、ホップの収量は約450キロ。品質も収量も安定してきた。定番3種のやりくりはなんとかなるが、醸造量を増えたらあっという間に不足する。

まだまだ足りない。

上富良野でもホップ農家はわずか4軒しかない。そのうちホップ専業農家は一軒。それがサッポロ原料開発センターで長年ホップを研究してきたOBだという。

そんなホップのプロに忽布古丹醸造はカスケード、ウィラメットという2種のホップの栽培をお願いしている。さらに自分たちで新種の育種も始めていると言う。

北海道空知郡上富良野は、「ソラチエース」という世界の醸造家に知られるホップが誕生した土地だ。サッポロビールの研究所で育種され、アメリカに渡って大ヒットし、近年ようやく日本でも飲めるようになった凱旋ホップである。

新種のホップの育種には、当然ながら時間がかかる。育成したところで使い物になるかどうかはわからない。それでもオリジナルなホップを育てたいと鈴木さんは話す。

「ホップが受粉すると、ときどきおもしろいホップが現れるんです。それをちょっとずつ集めています。使えるホップが生まれるのは10万にひとつとか、宝くじに当たるような確率らしいのですが、ソラチエースという大当たりの出た土地ですから、もしかしたらって」と鈴木さんは笑う。

ホップ100%だけでなく、新しいスターホップを育てる夢もある醸造所だ。

サッポロビールが育てたホップのクラフトマンがつくるホップ畑で栽培されたホップを、新しいクラフトブルワリーが仕入れて、100%上富良野産のビールをつくる。長い目で見ればそれは、サッポロビールをはじめとした日本のビール製造のスピンアウトであり、北海道という特異な歴史が育んだ農産物とも言えるかもしれない。

 次に地元産の麦芽原料の話だが、こちらの道はさらに果てしなく遠い。

「上富良野には大麦の畑もあります。だから生産はできると思います。ただ問題は、大麦を麦芽にする工場がない。北海道にないだけでなく、日本に数か所しかありません。ここで大麦が獲れても遠くの工場に送ってまた送り返してもらって……、なんていうのはコスト的に現実的ではありませんよね」

 記者はもちろんビールラバーだが、毎晩飲むビールが、そこまで輸入品に頼らざるをえない飲み物だとは知らなかった。北海道に麦芽工場をつくるにはどうしたらよいのか?日本産100%ビールの実現を考えることは、日本の農産物の自給率や地産地消について考えることにもつながっていく。

上富良野のてんさい糖と豚サガリをビールに合わせると 

前述したように、上富良野のあたりは歴史的にサッポロビールの城下町であり、ビールは地域になじんだ存在。そのせいか、忽布古丹醸造がオープンした時の地域の反応は、さほど大きくなかったらしい。逆にへんに大手のビールと比べられ、「お前のところのビール、ずいぶん高いな」などと言われてしまうことも。ムリもない。サッポロ黒ラベルと比べたら3倍近い価格である。

コロナ禍の影響もあり、なかなか地元の人にビールをアピールする機会がない中、忽布古丹醸造は地元とのつながりを模索している。 

「上富良野には目立つ産業はありません。てんさい糖と豚サガリぐらいかな」

その特産品をビールに活かす。糖分を加えるとビールはスッキリ、キレのある味になる。

「うちではインペリアルスタウトに使ってみました。少しどろっとしがちなスタイルですが、てんさい糖を使うと少しさっぱりした味に仕上がります。

豚サガリ、存知ですか?横隔膜の部位ですが、上富良野の豚サガリは横隔膜を手作業でひとつひとつ剥いていく。この手間をかけているから、上富良野産の豚サガリはおいしいんです。昨年、札幌にオープンした直営のタップルームではビールと合う豚下がりのメニューをお出ししています」

上富良野の歴史と自然が育んできたものを、クラフトブルワーたちがビールとともに次へつなげていく。

ホップ畑で作業中。支柱は赤松の丸太を使用している。ホップの枝をからませるワイヤーを張る作業を醸造所のスタッフたちも手伝う。

「ぼくたちがつくるからこそ面白いものができた、と思ってもらえるビール造りをしていきたい。ホップ、麦芽、原材料すべて地元のものでつくられたビールは大手でも成しえていないこと。5年先になるか、10年先になるかわかりませんが、無謀と言われるかもしれませんが、そこをゴールにしています」

北海道の真ん中に、でっかい夢を持った醸造所がある。

 忽布古丹醸造 http://hopkotan.com(オンラインショップあり)
住所:北海道空知郡上富良野町西8線北33

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