【SMALL TALK】 vol.9 環ROY インタビュー

ラッパー環ROYを読み解く。

ソロ活動だけでなく、U-zhaanや鎮座DOPENESSとの楽曲発表、美術館やギャラリーでのパフォーマンスやインスタレーション、映画音楽の製作など、幅広い活動で注目を集める環ROYさん。ソロ作品としては、約4年振りとなる「なぎ」のリリースをした彼にお話を伺った。

 

インタビューを通して印象的だったのは、「あなたはどう感じましたか。どう解釈しましたか」と、こちらの問いかけに対して問いかけで返されたことである。個人的に大好きなミュージシャンとして長年聴き続けてきたものの、それは感覚的な“好き”であって、お恥ずかしながら音楽的な構成についてや、詩の世界観について細かな解釈を試みたことはなかった。彼を納得させるような答えは、できなかったに違いない。

今回は、新作にまつわるエピソードや独特な詩の世界観はどのように作られるのかを尋ねようと思ったのだが、正直「だからこうなのか」という明確な答えを引き出すことはできなかった。しかし、インタビュー中の言葉を通して、なぜ彼の書く詩からは具体的な情景が思い浮かべやすいのか、なぜすんなりと聴き続けてこられたのか、朧げながら自分の中での理解が深まったのは確かだ。

みなさんが、環ROYというアーティストの作品を感じ、解釈するうえで、よりその世界観を理解するためのヒントになりうる言葉を、いくつか紹介してみよう。

 

 

 

環ROYの音楽を解釈するためのヒント1

 

「“音楽”とはもっと広い意味を持つ言葉なのでは」

 

前作から4年の間、傍目には“音楽”以外の活動も積極的に行っていたように映る。しかし、彼にとって美術館でのパフォーマンスやインスタレーションも、“音楽”の一部だ。

「“音楽”という言葉を聞いて、多くの人はCDや楽曲、楽器、歌、ライブハウスやコンサートホールなどを連想すると思います。しかし、音楽とはよくよく考えると、もっと広い意味を持っている言葉だと思うんです。例えば、蝉の声や川の流れる音、木々が風に揺れる音も、捉えようによっては音楽だと言ってもいいと思います。

2013年以降、音楽家の蓮沼執太さんを中心とした15人程で編成されたバンド(蓮沼執太フィル)に参加してきました。そのバンドでは、美術館や多目的スペースで演奏を行うことが多くあったんです。そういった経験を通して、そこがどういった場所なのか、置いてあるものはどんな人が作ったのか、どういう理由で置いてあるのか、というようなことを考えるようになりました。そして、様々な空間や表現があることを少しづつ知っていき、音楽を、さきほど話したように解釈してもいいんだと思うようになっていったんです。そういう意味で、音楽という言葉を広く捉えられるように実践していたのが、ここ4年間の活動だったのかもしれません。」

 

環ROYの音楽を解釈するためのヒント2

 

「大まかには同じジャンルだと思っています。」

 

新作では、楽曲ごとに異なる多くのゲストを迎えている。その音楽的ジャンルは多岐に渡る。意識して幅広いジャンルの音楽家を選んだのかとの問いに対するのが、冒頭の答えだ。

「音楽のジャンルの話をよくされますが、僕はジャズ以降に生まれている音楽はすべてポピュラーミュージックという一つのジャンルだと思って取り組んでいます。大体が4拍子ですし、平均律を使っているからです。ポピュラーミュージックを水に例えると、ヒップホップとか、テクノとか、ロックとか、R&Bとかっていうのは、水の種類がエビアンなのか、ヴォルビックなのか、クリスタルガイザーなのか、と言っているようなものだと思うんです。ちょっとした違いはあるけれど水は水だと思うんですよね。だから水と水を混ぜたらどうなるか、というよりも、水と何か別のものを合わせた時に、例えば、水と小麦粉を混ぜるとうどんになった、というような考え方のほうが楽しいと思っているんです。小麦粉はなんでしょうね(笑)、木彫とか油絵とかなんでもいいんですけど、そのくらい離れている物事を異ジャンルと捉えたほうが面白いんじゃないかと思ってるんです。」

 

 

 

環ROYの音楽を解釈するためのヒント3

 

「即興と音源は全く別のもの」

 

音楽を作ったことのない者にとって、はっきりとした違いはイメージできなかったが、音楽家にとって即興と作曲という行為は全く別の感覚なのだそう。その違いは、環さんの言う「時間の使い方」だと考えると、僕らにもわかりやすいかもしれない。

「即興で言葉を紡ぐことと、録音を前提として言葉を構成することは全く別の行為だと考えています。即興でラップすることってすごく演奏的な行為だけれど、作品のために歌詞を書くことは作曲的な行為なので、時間の使い方が全く違ったものになるんです。楽曲は、何度も再生されることを前提に作られています。即興ってその場の時間の使い方なんですよね。そこで消えるものとして演奏されているんです。だから全然違うものだと思います。」

 

環ROYの音楽を解釈するためのヒント4

 

「和製漢語を意識する」

 

今作は、情景を想像しやすい詩の世界観と日本語の美しさが印象的だ。すっと頭に入ってくるのは、英語のフレーズを使っていないからだけではなく、独自のこだわりがある日本語の選び方にも理由がある。

「英語のフレーズを使っていないのは、普段の生活であまり外来語を使わないからです。単純に日本語以外の言葉が上手じゃないんです。なので、使わないというより使えないんです。歌詞を書くときも同じです。ただ、和製漢語をどう扱うのかという点は意識的に注意しました。和製漢語とは、明治以降に入ってきた西洋の概念を、翻訳しなくてはいけなくなった際に、既存の漢字を組み合わせて作った、比較的新しい熟語のことをいいます。作られた目的が、言葉そのものへ最初から埋め込まれているため、歌詞として使うには合理的すぎる時があるんです。だから避けてみたり、類語を探したり、時には韻を踏むために意識的に連続させたり、自覚的に使うよう心がけていました。」

 

 

環ROYの音楽を解釈するためのヒント5

 

「ヒップホップはポップミュージックのひとつの形」

 

前出の通り、ジャンルには捉われない環さんだが、あえて「ヒップホップ」という音楽をどう捉えているのか伺ってみた。

「とにかく、ポップミュージックだと思います。音楽の、西洋における定義って、メロディ、ハーモニー、リズムの3つが集合した状態のことらしいんですが、ヒップホップとかラップって、メロディやハーモニーの印象があまりないですよね?極端にいうとリズムと言葉だけでも成立する音楽だと言えます。リズムとそこにのる言葉が主題なんですよね。それってある意味で、従来の音楽と比べるとすごく簡単ってことですよね。もっというと、従来の音楽とはまた違う、”音楽に似たなにか”、といってしまっても面白いですよね。だから多くの人々へ爆発的に広まっていったと思うんです。とても敷居が低く、伝播力の強い大衆音楽だと思います。そして、しばらくはそうあり続けるのだと思います。」

 

今作は、従来のヒップホップの固定概念には全く捉われない、ラップ・ミュージックを通した新たな表現活動と言えるだろう。その深淵な世界観を紐解くためには、彼が音楽や詩の世界とどう向き合っているかがヒントになるはずだ。

さて、あなたはどう感じるだろうか。どう解釈するだろうか。

 

 

 

環ROY
『なぎ』
¥2,600+tax

近年の活動の集大成としてリリースされる5thアルバム。楽曲ごとにゲストミュージシャンを迎え、新旧ジャパニーズカルチャー/コンテンポラリーポップ/エレクトロニカ/格式を探求した日本語表現/など様々なキーワードを散りばめた作品に仕上がっている。
http://www.tamakiroy.com/

 

文=池田 圭 写真=小倉雄一郎

 

→【b*p SMALL TALK】音楽家インタビュー

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