かつて『BE-PAL』で連載していた「なんでも飼ってやろう」のトミちゃんこと富田京一さんが帰ってきた! 珍獣飼育40年以上のノウハウをつめこんだ新刊『ヘンな動物といっしょ』から、よりぬきをお届けします。
子どもはアウトドア派、大人はインドア派
フジツボは水辺の岩やコンクリートにびっしり張り付いているので、たやすく採取できそうに見える。しかしこれらの物体には細かい凸凹があるから、張り付く度合いが強すぎて、はがすのになんぎする。表面にツルツルの塗装がほどこされた遊歩道の手すりなどに付いている個体がねらい目だ。手にけがをしないよう軍手をして、直径1㎝ぐらいのやつを30~40個プチプチとむしりとって持ち帰ろう。
さて、見かけこそ貝のようだが、フジツボはエビやカニと同じ甲殻類。幼生期にはほかの甲殻類と同様に複眼やひれがあり、好き勝手に水中を泳いで暮らしている。
やがて気に入った岩などを見つけると変態し、あろうことか触角からセメント質を分泌して背中から張り付いてしまう。そして体の周囲に壁をつくり、最終的にはてっぺんだけが開いた富士山みたいな形になる。
あお向けになった小エビが、あしだけ小さな穴から出し、おいでおいでをするように水中の微生物をかき集めて栄養にしているのだ。
繁殖も、専用の管をのばしてとなり近所とすますだけだから、変態後は一生外に出なくとも生きていける。というか、もう出たくとも出られないんだけどね(苦笑)。
潮の満ち引きがパワーの源
採集した場所と同じ濃さの塩分をとかした水を水槽に注ぎ、フィルターを回して飼育開始だ。サンゴ用の液体フードをスポイトで水槽に何滴か落とせば、わずか数秒でちっちゃな触手をいっせいにのばしてくる。
ところが数日たったら、触手の出も悪く、見るからに元気がない。どうやら連中は、潮の満ち引きで生活にメリハリをつけているようだ。一計を案じた私は、潮汐(海水面の上下)を再現することにした。
とはいえ大げさなものじゃない。潮見表を参考に、潮が満ち始める時間になるとフジツボを瞬間接着剤で張り付けた棒を水中につっこみ、引き始めるころに陸へ引き上げるという原始的な方法なんだけどね。
帰らなくっちゃ…! 嬉し恥ずかし縛られ生活
水にひたると、閉じていたフタが少しあいて、ポコポコッと小さなあぶくが出る。しばらくすると触手がおそるおそるのび始め、活性をとりもどしてくれた。よく見ると触手が引っこみ思案なもの、あけっぴろげ(?)なものなど、個体識別もできてくる。
こうなるとかける気合いもちがってくる。フジツボ水槽の潮汐時間には家に帰り、夜も目覚まし時計をかけて棒の上げ下げ…と、だんだんムキになってくる自分がいた。
【フジツボのいきものデータ】
<甲殻類>
分類……蔓脚類(まんきゃくるい)・フジツボ類
大きさ…殻の直径約2㎝
分布……東アジアの沿岸
フジツボは「雌雄同体」の生物。オチンチンにあたる器官をのばして精子をやりとりして子どもをつくる。この器官の体に対する長さは、動物界最大という。
著者/富田京一
1966年福島県生まれ。肉食爬虫類研究所代表。は虫類・恐竜研究家として、国内各地で開催されている恐竜展に学術協力者として参加。『そうだったのか! 初耳恐竜学』(小学館)が好評発売中!
『ヘンな動物といっしょ』
イラスト/コハラアキコ