南西の風がもたらす「幻の波」を求めて
このエッセイでお話しするのはこれが初めてなのですが、ありがたいご縁で実はここのところ毎年のように長崎の離島、五島を旅しています。と言っても、僕が訪れたことがあるのは上五島のみ。今回は初めて下五島にあたる福江島まで足を伸ばしましたのでね、ここに記したいと思います、はい。
ご経験がお有りの方はお分かりかと思いますが、いや兎に角いいですよね、離島の旅って。陸続きの場所以上にトリップ感がアンプリファイされると言いましょうか。特にフェリーでのアプローチが主となる五島は格別だと思いますし、キリシタン文化が根付いている島ですから、教会が点在していて独特の雰囲気を味わえます。波乗りができる島でもありますから、当然の事のように僕の場合訪れるときはいつも、ライブだけではなくサーフトリップも兼ねてということとなります、うん。
話は変わりますが、例えばサーファーの仲間とお酒でも嗜みつつアイランドでの波乗り談義に至るとしましょう。そうしますとね、まずは概ねメジャー系の島々が列挙されることになります。国内編としては種子島、奄美大島、沖縄あたりの話が披露され、エスカレートして海外編へと飛び火すればバリ島、ロンボク島、モルジブやスリランカなどの島々における自慢話が花開くことになります。
そんななか僕はおもむろにね、舞の海が繰り出す猫だましからの相手の懐に入り前みつを取るが如きスピード感で、意表を突いたトピックスとして長崎の五島の話をぶっ込むわけです、はい。さすれば一呼吸置いて、皆さんから羨望の眼差しと言いますか、憧れの念を受け取ることになるのです、確実に。
「いいなあ、行ってみたいなあ。」と、ため息混じりでつぶやく人が少なくはありません。いつものようにちょっと話が大袈裟になって参りましたがお付き合いください。
ある人物においてはこうも話していました。「死ぬまでにいつか長崎の五島に行って、サーフィンしたいんだよね〜」っとまでね。そりゃあんた遺言ですかと突っ込みたくなるような、まあそれほど五島はサーファーの間ではある種神格化されたエリアと言いましょうか、詰まるところ何が言いたいのかと申しますと、五島に現れる波は我々サーファーにとってまさに「幻の波」な訳です。
さて、今年は高速船ではなくのんびりとフェリーで入島することにしました。多少時間はかかりますがローコストですし、船内で十分な仮眠が取れますからね、考えようによっては体も楽です。この日は梅雨の終わりに差し掛かっていましたので曇り空でしたが、僕としては気分はすこぶる晴れやかでした。と言いますのも、東シナ海においては波が期待できる時期でもあるからです。
九州付近に掛かる発達した梅雨前線には、東シナ海の沖合から「南西の風」が吹き込みます。そしてこの風によって九州の西、東シナ海に面する海岸沿いでは波が高くなることがあるのです。
「南西のウネリ」を拾うサーフポイントは、この日本においては限られています。梅雨時期はあまり波がないというのが、太平洋側などをゲレンデとして楽しんでいらっしゃるサーファーの皆さんの一般的通念なのですが、レイニーシーズンインは東シナ海を知るサーファーにとってはかなり「そわつく」いい季節の到来なのです。
そこで僕は上五島の奈良尾港に着岸するや否や、ローカルサーファーの友人たちと合流してすぐに海へと向かいました。
仲間とのセッション、いつも以上に感じる有り難み
上五島のメインポイントとなるそのビーチは、白砂とコバルトブルーからビリジアンブルーへとグラデーションする海のコントラストがたまらなく美しい、ワイルドかつ開放感溢れる場所です。まさに幻の波が現れるに相応しい舞台と言えるでしょう。
ローカルのサーファーの皆さんはどなたも心優しい人たちばかり。中にはこの島に魅了されて移住された方も多いので、ビジターに対してかなり寛容なエリアだと思います。
僕は一人のビジターとしてここに改めてお勧めします。ぜひいつか上五島の海に行ってみてください。サーファーとしての最低限のルールとマナーを守りつつ、胸にアロハスピリットを掲げて笑顔で挨拶をすれば、きっとどなたも優しく微笑んでくれることでしょう。
僕は今回サーフボードを持ち込みませんでしたのでね、ロコの一人であるリョウくんにクリステンソンのロングボードを借りてサーフしました。
この日はウネリの向きが微妙に合わなかったのでね、幻の波はとても小さいサイズでしたが、気心の知れた仲間たちとのセッションは何物にも変え難い時間です。港まで出迎えてくれた三人の友人と僕と四人で、美しいビーチを夕暮れ時まで貸し切りでサーフィンしました。
東シナ海は、千葉や宮崎などに代表されるような太平洋側の海とは比較にならないくらい、サーフィンできるチャンスは少ないかもしれません。だからこそ、小さくてもそこに届けられた波の一本一本がありがたく思えるのです、とっても。
僕は上五島でサーフィンする時は、いつも以上に海に、そして波に感謝を覚えているような気がします。
五島列島は幻づくしだった!?
ところで僕が上五島でのライブをやる場合は、青方という地区にあるバー「メアリーモーガン」で行うことがメインケースです。メアリーモーガンはこの離島にあって、筆舌に尽くし難いほど豊富なお酒の品揃えでもってお客さんを楽しませてくれるお店です。
日本はもとより世界各地の珍しいクラフトビールやナチュールワインなどは僕のツボでもありますのでね、ライブだけでなくライブ後の打ち上げも楽しみの一つです。このお店の剛くんも、僕がこの島を訪れるようになった時あたりからサーフィンに目覚められてね、今では立派なサーファーですので、サーフトリップに訪れた時はぜひ足を運んでみてください。話が弾む事でしょう、きっと。
サーフィンとライブ以外に、僕がもう一つ楽しみにしているのは名物でもある「五島うどん」を食べること。五島で採れる希少価値の高い椿油を塗って熟成させるという五島うどんは、細麺ながら腰が強く、それでいて油の効果かつるりと滑らかにお腹に収まります。
最も親しまれている「地獄だき」は釜揚げのスタイルで箸に取り、出汁醤油に生卵と刻んだネギを入れた器に浸してズバッと豪快に食べます。いやほんと最高にうまいのですこれが。
そういえばかつて、それがどこだったか忘れてしまったのですが、本州を車で走っている時に「幻のうどん 五島うどん」という看板を掲げたお店を見たことがあります。レアで高級な「幻の椿油」が練り込まれた「幻の五島うどん」、そして海には「幻の波」。バーに行けばレアな「幻のお酒」がずらりと、まさに幻づくしではありませんか!
もしかしたら五島列島それ自体が僕ら日本人にとって幻の島なのかもしれません、魅惑のって意味でね。
エメラルドグリーンの海をいつまでも
さてさて今回は、とある音楽フェスに呼んでいただいてね、慣れ親しんだ上五島から初めてお隣の福江島に行くことになりました、幻探しに(笑)。
否応なく僕の心は弾みます。なぜならばずっと気になっていたのです、福江の波が。それはまだインターネットが主流メディアではない頃、僕はかつて地図を広げて東シナ海でサーフィンできそうなポイントを探したことがあります。その中で、僕の地元である熊本の天草と同じ向きのウネリを拾いそうなポイントを見出していたのです、福江島にね。ここではポイント名は語りませんが、いかにも波が現れそうな名前の浜が記されていたのですよ、その地図にね。
ミュージシャンとしてはね、まずはフェスでの持ち時間を最大限に魂込めてやり切ったのち、僕は上五島の友人でありミュージシャンであり、サーフボードシェイパーでもあるアーティストのしんちゃんと福江島の海へと向かいました。
メアリーモーガンの剛くんから紹介していただいたローカルサーファーのハルくんが、僕らのことを気持ちよく出迎えてくださいました。ほんとに地元サーファーの皆さんが大切にしていらっしゃるビーチなのでしょう、毎週日曜日にはビーチクリーンを行なっていらっしゃるようです。当然僕らも参加させていただきました。海を汚すのも人間ですが、こうして海を守ろうとするのもやはり人間です。僕らサーファーはなるべく海を汚さない存在でありたいと思います。
福江島は上五島よりもさらに梅雨の南西のウネリを敏感にキャッチしていました。時折形のいい美しいブレイクがもたらされます。しかもこの日は梅雨の中休みでよく晴れていて、エメラルドグリーンに輝く海の上で、僕はまるで夢か幻の中にいるような心地さえしたものです。
今回は音楽やサーフィンがインターメディアとなって、上五島ばかりでなくおかげさまで福江島にも友人知人が出来ましたのでね、これから五島を訪れるときはどちらにも顔が出せたらと思っています。無人島なども合わせると、五島列島は大小152の島々からなるようですので、そのうち他の島にもご縁ができたらいいなと想像を膨らませています。
帰りもゆっくりとフェリーで渡りました。行きの時みたいに僕は船の中で眠ってしまいました。ふと目が覚めると窓の外には賑やかな長崎の市内が見えています。五島の美しい面影が、まるで幻かのように思い出されました。
今週のアウトドアにおすすめの曲
ジュニア・マンス「Lilacs in the rain」
フェリーの中でうたた寝に入るには最高の音楽です。
東田トモヒロNEWS
サブスクリプションコミュニティTSC(Tomo Surf Club)
シンガーソングライター東田トモヒロとつくる、
月額制のサブスクリプションで、独自の配信ライブや、
https://community.camp-fire.
【2024.8.25(SUN) WINDBLOW’24】に参加します
■時間 OPEN 11:00 / CLOSE 20:45
■出演 Spinna B-ILL、東田トモヒロ、Leyona 、Keison
■料金 前売一般 ¥5000(8/5~8/24) 、当日 ¥6000
■会場 Beach Garden(さがらサンビーチ) 静岡県牧之原市相良275
■入場券はオフィシャルサイトにて販売中→ https://windblow.jp