「食べたものが、私になる」
見るからに元気いっぱいな青々とした葉が風になびいている畑。そこから一本をつかんで引っぱり上げると、土壌がふっかふかなのでしょう、ダイコンもニンジンも、なんなくスポっと抜けて土がこびりつきません。
有機農家のおじさんがそうして収穫した野菜をすぐさまトラックに積み込んで向かう先は、子どもたちにオーガニック給食を提供する保育園。その日の献立は黒豆入り玄米ご飯、切り干し大根の煮物、ひじきの煮物、味噌汁、納豆という純和風。
うわ~、美味しそう! 決して子どもウケしそうなメニューではなさそうなラインアップですが、その姿が味の証であるかのように、子どもたちは誰もが夢中で食べています。
映画『夢みる給食』はそんな風に始まるのです。
監督のオオタ ヴィンはこれまで、「いただきます」シリーズ、『夢みる小学校』と、食育や有機農業、自由教育を追いかけてきました。最新作のテーマは‟オーガニック給食”。全国でどんどん広がりを見せるオーガニック給食、その最前線を取材していきます。
ここでいう‟オーガニック給食”とは地産地消で、出来るだけ農薬を使わない食材でつくられた給食のこと。
食べたものが、私になる。小学校6年間で平均体重が約2倍になるという子どもたち、その3分の1を担うはずの学校給食で、子どもたちに本当の意味で美味しくて安心な給食を提供したい。それをもりもり食べて、心も体も元気で丈夫な子に育ってほしい――。
大人なら誰もが心から願うけれど、まるで夢物語のようにも思えてしまう。そんな理想を現実にしようと奮闘してきた大人たちの姿を映し出します。
まずは映画の前半。オーガニック野菜が、それを食べた人の体にどれほどプラスの効果をもたらすか、が語られます。そうして改めて、有機農業の知識ゼロからスタートして有機稲作づくりに取り組み、たった4年ほどで市内の学校給食で使う42トンを有機米にした市役所職員さん、「日本一の給食を出そう」と地場産食材やオーガニック食材を取り入れた給食を40年前から続ける栄養士さんらが登場。その取り組みを語ります。
千葉県いすみ市、新潟県佐渡市、東京都武蔵野市と、つぎつぎ登場する事例を前に、「えっ、オーガニック給食って、全国で既にこんなに広がってるの!?」と驚かされます。それでいて、そうした市町村には必ず‟キーマン”と呼べるような人物がいて、その人の「よし、やるぞ!」という覚悟が周囲の人間を動かし、信じられないようなことを成し遂げていたりするのです。
そんなミラクルに触れ、「自分の子にもこんな給食を食べさせたたかった…」と思う一方で、ひょっとして自分にも誰かの役に立つような何かが出来るのかも。自分の回りにも、明るい何かが起きるかも!? と思えてきます。
どうにもならない現実の息苦しさや、悲しいニュースばかりの昨今。これほど具体的な夢や希望を、久しぶりに目にした気分になりました。ちょっと、大げさ? いやいや、それほどこの映画に登場するオーガニック給食が美味しそうなのです。
『夢みる給食』
(配給:まほろばスタジオ)
●監督・撮影/オオタ ヴィン ●ナレーター/上野樹里 ●2/2~アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
文・浅見祥子