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    2022.08.03 クラフトビール

    その土地、その場所だからできるビールがある。飲めるビールがある。ローカルを大事にするブルワリーのビールを飲みたい。第35回は、東京都狛江市にある籠屋ブルワリー。1902年創業の秋元商店が始めたクラフトブルワリー。専務の秋元慈一さんにインタビューした。

    籠屋ブルワリーの「遥風」(ベルジャンホワイト)、「白鯨」(ベルジャン酵母を使ったヘイジーIPA)、「翔天」(ヘイジーIPA)。いずれも500ml瓶。

    蔵元が酒に込める思いもいっしょに売る酒屋

     東京・狛江の酒屋に、地域と世界の平和を願うクラフトビールがある。

     小田急線の和泉多摩川駅から徒歩25分くらい。田園都市線二子玉川駅から歩けば1時間くらいだろうか。住宅街のバス通り沿いにある年季の入った酒屋さん。一歩足を踏み入れるとすぐに、焼酎と日本酒の、ただならぬ奥深さを感じさせる。その隣に、籠屋ブルワリー、レストラン「籠屋たすく」が並ぶ。

    地酒専門店、籠屋秋元商店の前で秋元慈一専務。この左隣にブルワリーとレストラン。店の前の道は、江戸時代に「青山道」と呼ばれていた通り。

    籠屋秋元商店は1902年、この地で創業したお店。現在はワインやウイスキーなどの洋酒も扱うが、日本酒と焼酎の地酒専門店として、その道のファンに知られる。30年ほど前、秋元商店の社長、秋元慈一専務の父が、もはや酒を売っているだけの酒屋ではダメだと地酒に特化した方針に転換した。30年前といえば1990年代初め、バブル経済ははじけ、高い酒が売れる時代は終わっていた。

    今、秋元商店に並ぶ焼酎や日本酒は、「日本全国、これはと思う蔵元を一軒一軒訪ね、どんな思いを込めてその酒を造っているのか、こちらはどんな酒を売りたいと思っているのか、膝を詰めて話し合って仕入れている酒です」

    日本全国から酒を集めて売るだけでは、この地で長年、店を構えている意味がない。オンライン通販全盛の時代だが、店に来なければ知り得ない酒、知り得ない情報はたくさんある。それに気づかせてくれるのが、こういう店だ。「この1本にどんな思いが込められているのか」。そこまでの話を聞けるのは、蔵元と直に話し合っている店の人だけだ。長い時間をかけて築き上げた信頼関係があって、この地の酒屋が成り立っている。

    狛江の枝豆を使ってエールをつくろう!

    地酒専門店としての籠屋秋元商店は、時代のニーズに合い、遠方からファンがわざわざ買いに来る名店となった。しかし「それも善し悪しなんですよね」と秋元さんは言う。

    「地酒専門店として経営は安定しましたが、地域の人にとってはちょっと近寄りにくい店になってしまったようで。本来、酒屋は地域に根づいた場所であるべきだと思います。うちは地域のコミュニティスペースになれていないのではないか、と考えるようになりました」

    狛江に生まれ、多摩川で遊んで育った秋元さんは、町との関係を大事にしている。狛江市は小さな街だ。特に観光名所はないが、すぐ南側を流れる多摩川の河川敷は、都心から近い格好の遊び場であり、憩いの場。あまり有名ではないようだが、釣り人は絶えず、夏には花火大会があり、手作りいかだレースがあり、実はアウトドア好きが集まるスポットでもある。秋元さんは毎年夏に行われている駅前のビアフェス、夏祭りの「狛江フェスティバル」に初年度から携わっている。(この2年はコロナ禍のため、商店街のスタンプラリーを行った。今年は9月に開催予定)。

    そんな愛する狛江をアピールできる酒があればと、近隣で栽培されている枝豆を使ったビール「こまえ~る」を造り始めたのが2012年のことだ。 

    「その頃はまだ世間に地ビールのマイナスなイメージが残っていて、自分でもリスキーだと思いましたけれど」と振り返る秋元さん。なぜそんなリスキーな“地ビール”に取り組んだのか、といえば、「やっぱりビールって身近な存在。近所の人にとって敷居が高くなってしまった店の入り口になるといいなと」。だからこそ地元の枝豆にこだわった。

    秋元さんは東京農業大学醸造科の出身。日本では数少ない醸造科とあって、酒蔵の後継者や、醸造の道を目指す若者が全国から集まる。秋元さんの同級生たちも、卒業後、酒業界に進んだ人が少なくない。その中の一人に、サントリーのビール工場の醸造師がいた。現在の籠屋ブルワリー醸造責任者の江上裕士さんだ。大手で着々とキャリアを築いてきた会社員が、アーリーリタイアでもないのに、籠屋ブルワリーにやって来たのは、秋元さんが「口説き落とした(笑)」から。「彼には彼のつくりたいビールがあり、目指すビールがあり、それは大手企業で実現するのはなかなかむずかしいこと。彼と1年くらいかけて話し合い、ここから世界で戦えるビールを造ろうと」

    高い技術力と豊富な経験をもつ強力な助っ人を得て、秋元さんのブルワリー計画は一気に進んだ。2017年、レストラン籠屋たすくを開店、籠屋ブルワリーが始動した。ちなみに、籠屋とは創業時の秋元商店が籠屋だったことに由来する。

    秋元商店に隣接するレストラン籠屋たすく。ビールはもちろん、全国から選りすぐりの酒と料理のマリアージュが楽しめる和食レストラン。週末は予約で埋まる。

    レストランでは常時、10種類のタップ(生)が用意されている。この店に来ないと飲めないビールが多数。お店の人から、料理と合わせてレコメンドしてもらうのもいい。

    ところで、籠屋ブルワリーはどんなビールをめざしているのか。

    「基本的に、その地域の食に合うビールを造りたい。私たちは、まず食ありき。造りたいのは和食の食中酒としてのビールです」

    その代表的なビールとして、木桶仕込みのビールを造っている。多くのビールはステンレス製の樽で発酵、醸造される。木桶はその木に住み着いた数多くの微生物があいまって発酵を進める。自然の力を借り、手間も時間もかけて造られるビール。現在のところ、醸造量が限られ、寿司屋や料理屋などに卸されているが、市販はまだない。

    多摩川のほとりの小さなブルワリーで、人知れず、世界のビール界が驚くようなビールが仕込まれている……筆者は狛江市民ではないが、ワクワクしてくる。

    吉野杉でつくった木桶で発酵中のビール「和轍」(わだち)。

    ビールを入り口に、酒屋を入り口に

    籠屋ブルワリーにとっても、コロナ禍の影響は良くも悪くも大きいものがあったと、秋元さんは言う。ダメージを受けたのはレストランのほう。ランチ営業が厳しくなり、現在はディナータイムのみ営業している(2022年7月現在)。一方、うれしかったのは、近所の人たちがグラウラーやマイ水筒を持ってビールを買いにきてくれるようになったこと。特にクラフトビールファンというわけではないけれど、「おいしいビールを売っている」という口コミが広まり、ブルワリーを始める前までは盆暮れくらいしか来店することのなかった近所の人がビールを買いに来てくれるようになった。 

    地域に根づいた酒屋を取り戻そうとビールづくりを始めた、秋元さんの目的は、うまく運んでいる。籠屋ブルワリーのビールをきっかけに、日本酒や焼酎へ関心をもつお客さんも少なくないそうだ。

    「不思議ですね。クラフトビールのほうが単価は高いのに、ビールが入り口になるんですから」

    ビールの間口は広い。これがクラフトビールの力か。

    秋元さんは跡継ぎとして秋元商店を守るミッションとともに、「なぜ酒を売り続けるのか」を考えつづけている。そして、その理由を「酒は世界を救う。酒を飲める世界は平和であるはずです。ただ酒を飲んで、“これおいしいね”で終わるのではなく、世界の平和に貢献したい」と説明する。社長や店長をはじめ、15人に増えたスタッフたちとも、世界の平和って何のこと、貢献するってどういうこと、しょっちゅう議論になるらしい。きっと話好きなブルワリーなのだ。お店に行けば、ビールや蔵元の話をたっぷり聞かせてくれることだろう。

    秋元さんは今、「レストランたすく」も含めた籠屋秋元商店が、地域のコミュニティスペースとして使えないかと考え始めている。何が始まるのか、楽しみである。

    店頭で販売していた狛江ホップの栽培キット。購入できるのは狛江市民のみ! 原料については醸造長のこだわりもある。狛江市内の農園で育てたホップを使った「狛江ホップ」(セッションエール)は毎年秋に醸造される。 

    籠屋ブルワリー 
    所在地:東京都狛江市駒井町3-34-3 
    https://www.kago-ya.net

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜
    ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@ダイムやSuits womanでも仕事中。

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