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    2022.04.17

    2時間の散策でも大満足! 熟練の森の案内人と行く奥飛騨の森

    一般開放されて18年ほどしか経っていない神秘の森

    富山・岐阜・長野・新潟の4県にまたがる北アルプスは、眺めてよし、登ってよしの山々が揃う山岳ユートピア。この山脈の最南端に位置する乗鞍岳の麓に、一般開放されて18年ほどしか経っていない神秘の森がある。約3,000ヘクタールに及ぶ森林地帯「五色ヶ原の森」だ。

    遊歩道が整備されたところも多く、アップダウンは少なめで、トレッキング初心者でも楽しめるショートコースが設定されているのがうれしい。短時間でも、木々が織り成す彩り豊かな自然のグラデーションに圧倒されること間違いなし!

    案内板の設置なし。本物の森らしさを堪能できる

    古くは修験者が山岳修行を行なう霊場だった五色ヶ原の森。現在は岐阜県高山市の条例により、専任ガイドといっしょでなければ散策することができない。しかも、一日当たりの入山者数を制限しているため、事前予約が必須。ただ、そのおかげで森は何年経っても美しい状態を維持できている。リピーターが多いというのも納得だ。ちなみに、自然環境の保全と利用の両立を図る取り組みが評価されて、2021年度にエコツーリズム大賞を受賞している。

    さて、ツアーは丸一日かけて森を散策するコースから、往復のバス移動を含めても3時間という手軽なコースまでいろいろ用意されている。今回は五色ヶ原随一の景観と称される布引滝を目指す「雌池布引滝コース」に決定。歩く時間は、正味1時間半程度ともっとも短い。

    五色ヶ原入山口にあるビジターセンターに向かい、コースの概要と乗鞍の自然にまつわるレクチャーを受けたあと、バスに乗って出発地点の出会い小屋へ。ガイドといっしょに、「五色ヶ原」と書かれた看板がぶら下がるゲートをくぐり、自生している植物や、小さな滝の説明を受けながら30分ほど山道を進む。

    ガイドと歩くからこそわかる五色ヶ原の魅力

    そして、「この先から変わりますよ」とガイドが話すと辺りの景色が一変。ここは、かつて乗鞍岳から流れ込んだ溶岩流に埋められた「ゴスワラ」と呼ばれる大地。苔むす森が広がり、立ち並ぶ樹木と溶岩が創り出す風景は、太古の森に迷い込んだようで幻想的だ。落ち葉でふかふかした大地は、歩く度にじんわり沈み、クッションの上を歩いている感じがして心地よい。

    ガイドの上平尚さんは御年81歳。穏やかな語り口から豊富な知識と経験がにじみ出ていて、立ち止まって説明をするたびに、参加者から感嘆の声が上がる。山道をすいすいと軽やかに進む姿は、今もなおステージ上を華麗に動き回るミック・ジャガーの姿と重なる。

    こちらは地上に根が露出した「根上り」の起きた木。なぜ大地にどっしりと根を張らず、こんな不可思議な姿をしているのか。

    この木はかつて、倒木の上に種が落ちて芽吹いたものだという。新たな命が成長していくのとは反対に、土台となっていた倒木はどんどん朽ち果てていく。根の部分に空洞ができているのは、すでに自然に還ってしまった倒木があったことを示す証だ。人間の一生があっという間に感じるほど長い時間をかけて変化したものが、目の前にあるという不思議さを噛みしめる。

    こちらは、128万年前から続いた乗鞍岳の噴火による流れの跡が残る溶岩。先ほどの根上りの木と同じく、ゆっくりとした時の流れが作り出した無作為の芸術だ。

    ところで、乗鞍岳というと独立峰みたいな名前だが、こちらは128万年前の火山活動によって形成された23の峰々が連なる複合火山。32万年前にも大規模な噴火が起こって溶岩が流出したという。ちなみに、最新の溶岩は2万年~9000年前のものと推察される。

    苔むした森の先にある豊かな水をたたえた佳景

    春から夏まではまったく水がないという雌池。乗鞍岳に降った雨や雪が地中深く浸透し、夏になると、それが染み出してきて池になるという。訪問時は秋だったので、カラマツの紅葉が楽しめた。

    来た道を戻って、途中で脇に逸れると水の音が聞こえてきた。そのまま進み、目に飛び込んできたのは布引滝。滝壺の近くまで、足元に気をつけながらゆっくりと降りていく。

    鮮やかな苔をまとった岩が重なり合い、その隙間から流れ落ちていくいくつもの白い筋。高い位置から見ているよりも、下がれば下がるほど迫力が増してくる。落差は約25mとのことだが、真横には同じ滝壺へと流れ込んでむ桜根滝があるためか、実際の数字以上に大規模な滝のように見えた。スローシャッターで切り取った写真を見ると、なるほど、布引との名前がしっくりくる。「今まで見た滝でいちばん良い!」参加者は口を揃えて言っていた。かくいう私も、同じことを思っていた。

    最後に、横手滝の上流である桜根滝前の吊り橋に到着。ここは桜根滝、横手滝、布引滝が一堂に見られる場所で、滝と森に包まれているような気分に浸れた。

    標高約1400mの出会い小屋をスタートし、点在する池を巡りながら、岩陰を流れる清流や湿原の草花を楽しみつつ歩いた約2時間。自然環境の保護と森の観光利用の両立は、理想的ではあるが、言葉で言うほどたやすくはない。それが、しっかり実現できているのが、この五色ヶ原の森ではないだろうか。ツアーに参加しないとアクセスできないからこそ、保たれている素晴らしい自然。ここで過ごす時間は、深く心に刻まれるだろう。

    乗鞍山麓五色ヶ原の森案内センター

    岐阜県高山市丹生川町久手471-3
    HP:https://goshikinomori.com/

    ※五色ヶ原への入山はガイドの同行が義務付けられています。10日前までに要予約。営業期間は5月20日~10月31日。2022年5月上旬、プレオープン予定!

    私が書きました!
    旅行作家、カメラマン、ライター
    旅音(たびおと)
    カメラマン(林澄里)、ライター(林加奈子)のふたりによる、旅にまつわるさまざまな仕事を手がける夫婦ユニット。単行本や雑誌の撮影・執筆、トークイベント出演など、活動は多岐にわたる。近年は息子といっしょに海外へ出かけるのが恒例行事に。著書に『インドホリック』(SPACE SHOWER BOOKS)、『中南米スイッチ』(新紀元社)。
    https://tabioto.com

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