大麦畑でつかまえて!原点に返って農業とビールをつなげるコエドブルワリー | サスティナブル&ローカル 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2021.12.12

    大麦畑でつかまえて!原点に返って農業とビールをつなげるコエドブルワリー

    コエドビールの定番6種。左から「漆黒」(ブラック・ラガー)、「毬花」(セッションIPA)、「瑠璃」(ピルス)、「紅赤」(インペリアル・スイート・ポテト・アンバー)、「白」(ヘフェ・ヴァイツェン)、「伽羅」(インディア・ペール・ラガー)。

    地域に根づいたクラフトビールブルワリーを紹介するシリーズ。第22回は、埼玉県川越市で創業25年を数えるコエドブルワリー。2006年にリブランディングしCOEDOブランドを育ててきた朝霧重治社長にインタビューした。

     冬の地ビール時代を乗り越えて

    東京都心から1時間圏内。小江戸の観光スポット、BBQなど手頃なアウトドアスポットがひしめく川越市。そこで1996年に創業したコエドブルワリーは、日本のクラフトビール会社の中でも有数の老舗だ。

    地ビールの冬の時代を乗り越え、かつ、母体が酒造会社ではないブルワリーは数少ない。そのひとつがコエドブルワリーである。

    コエドブルワリー代表取締役兼CEOの朝霧重治さん。

    祖業は有機農産物の流通事業の協同商事。1970年代に川越に創業し、農家との協同作業を続けてきた。その会社がなぜビール事業を始めたのか。ざっと説明しておこう。

    川越地域の農家は以前から大麦を生産していた。連作障害を防ぐために、畑に麦を植え、緑肥として鋤き込んでいたそうだ。

    その麦をただ肥料にするだけではもったいない。何かもっと有効に使えるないだろうか? 川越の大麦でつくったパンやうどんをつくったらどうか? それは川越名産になるのでは?

    麦といえば、地元産のパンやうどんもいいけれど、大麦なのだからビールがいいじゃないか? と協同商事先代の朝霧幸嘉さんは考えていた。

    そして1994年の酒税法改正。ビールの小規模醸造が解禁された。地ビール時代の幕開けである。

    コエドブルワリーは1996年に創業した。

    しかし結局、川越の大麦をビールの原料にすることはできなかった。国産麦をビールに使うのは想像以上にむずかしかった。まず、麦を麦芽に加工する製麦設備がなかった(現在も埼玉県にはないし、国内全体でも数か所しかない)。コストを考えると非現実的だったからである。

    大麦の有効利用は断念したものの、川越にはサツマイモという農産物がある。イモはビール醸造に必要な糖類そのものだ。規格品外で大量に廃棄されていたサツマイモをビール醸造に活用することにした。こうして生まれたビールが「紅赤–Beniaka」とブラッシュアップされ今も引き継がれている。グラスを光にかざすと鮮やかな紅が差す、コエドビールを代表するビールである。

    その後、東松山市にあった元企業研修施設を買い取り、ブルワリーに改修し、生産体制を整える。しかし、その後、地ビール事業は苦境に立たされる。90年代後半に盛り上がった地ビール人気は、2000年代の前半には終わっていた。理由は複数あろうが、ごく簡単に言ってしまえば、醸造技術が未熟なまま地ビールに参入したメーカーが少なくなく、消費者から「高いのにまずい」という不評を買ってしまったことが大きい。

    とはいえ、高い醸造技術を確立し、おいしくて個性あふれるビールをつくり出すブルワリーはいくつもあったし、それらメーカーが日本のクラフトビールを牽引してきたのも事実だ。

    東松山市の、元企業研修施設を改修したブルワリー(緑の屋根に煉瓦色の建物)。

     やっと“原点”に戻れる時代が来た

    コエドブルワリーは2007年から毎年、コエドビール祭を開催(2020年〜2021年はコロナ禍で中止)。観光スポットの小江戸川越にはコエドビールのタップ(樽生)を備えた店がいくつもある。昨年は川越駅近くの複合施設に、造りたてのビールとアジアンフレンチを楽しめるカジュアルなレストランをオープンしている。

    昨年、川越駅の近くにオープンしたブリューレストラン「コエドブルワリー・ザ・レストラン」。定番6種と期間限定のスペシャルビールのドラフト(生)がそろう。フードメニューも充実。駅の乗り換えついでにフラッと寄れる距離。

    レストランにはテイクアウト用の窓口も。専用の充填機でハウスエールを詰める。ビールをテイクアウトして遊びに行こう!

     川越のローカルビールに成長したコエドブルワリーは、これから地域にどんな働きかけをしていくのだろうか。

    「ようやく、農業とビールが自然につながる時代になったと思います」と朝霧社長は話す。「以前から埼玉は農業が盛んな農業県だし、人口は730万人。地産地消できるポテンシャルが高い地域です。私たちがビール事業を始めた90年代半ばはバブルの名残があり、なんとなくまだ経済成長が続くと思われていた時代。地産地消なんて言葉も馴染みがなかったですよ」

    ところがその後、日本の人口は減り続け、経済成長も低迷を続ける。

    「今は地に足のついたもの、地域や仲間との関係が見直されています。農産物を見ていてもわかる。あちこちにファーマーズマーケットが立ち、周辺住民の方が訪れ、生産者の顔の見える商品を買って行く。リーマンショックや東日本大震災を経て、私たちはもう、経済成長ばかり信奉しているわけにはいかないんですね。身近なところで、顔の見えるコミュニティで、ていねいに造られているものが見直されているのだと思います」

    一方、農業界はこの25年、どう変わったかといえば、農家の高齢化、人口減少がつづく。

    「農業界も行政もがんばっているんですけど、農業人口も耕作地も減少に歯止めがかからない状態です。私たち(協同商事)が70年代から推進してきた有機栽培も、いまだに耕地面積に占める割合は全体の0.2%に過ぎません」

    少ないですね……。

    「クラフトビールの出荷量が全体の1%と言われているので、ビールに抜かれましたかね。そこで改めて、原点に返りたいと思っています」

    原点とは?

    「大麦を作ってビールを造る。麦を麦として販売するのではなく、ビールメーカーとして原料に使います」

    コエドブルワリー創設の原点にあった川越の大麦。それをコエドブルワリー(協同商事)自らが栽培し、畑を広げていきたいと話す。3年前から実験的に栽培を始めている。実験場は、東松山市の元企業研修施設だったブルワリーに隣接する元サッカーグラウンドだ。

    しかし、なぜ自ら栽培を?

    「はじめは川越の農家の人たちと麦栽培できるかなと考えていました。しかし、国産麦の高額すぎて、農家を買い支えることが難しく、非現実的です。麦を作ってビールにといっても、結局、それに賛同してくれる人たちのがんばりに依存する形になってしまいます。ちょっと高い麦を、ちょっと作っても、それは小さな世界の自己満足で、農業としてのインパクトはまったくありません。増え続ける耕作放棄地に対応することもできません。だから、自分たちでつくる栽培することにしました。畑は農家さんからお借りして」

    日本全国で見られることだが、埼玉県でも耕作放棄地は増え続けている。

    「ふだんここで暮らしていると思うんです。車で走っていて、“あー、このへんの畑も荒れているなあ”とか。施設園芸はその解決にはなりません。露地ものにどう関わっていけるのか、ずっと考えてきました。改めて考えると、麦かな、と。それほど手間がかからない作物ですからね」

    大麦の種撒きから始めた。日本には大麦の種苗メーカーがない。ビールのモルトに適した、かつ川越の気候に即した種を探して、アメリカのオレゴン州立大学からの種にたどり着いた。1000粒買って、撒いた。半年後、10キロほどの大麦が収穫できた。

    醸造所に併設した元サッカーグランドを畑化することに着手した次年度は、30cmほどしか伸びなかったそうだ。それでも収穫できた麦は力強く、素晴らしい繁殖力を見せたという。

    「収穫した麦をまた種撒きしました。一粒万倍と言いますが、まさに手の平に載るほどの種から10キロの麦ができました。息の長い話ですけれど、10年、20年後には何百ヘクタールの大麦畑ができるように」

    自ら畑に行って成育ぶりを点検し、記録をつけている朝霧社長。祖父の代が農業をしており、農作業は子どものころから見慣れたもの。トラクターを扱うのも楽しいと笑う。

     農作業中の朝霧社長。自ら麦の育成日誌を記録。

    農作物は3年目からその土地の特徴が現れてくると言われる。土壌や気候の特性を反映し、同じ品種でも植えた場所によって異なる風味が出てくる、いわゆるテロワールだ。

    「今年3年目になるので、来年の春に収穫された麦には川越のテロワールが感じられるんじゃないでしょうか」と、朝霧社長は楽しみにしている。

    地元スーパー「ヤオコー」とのコラボビールが定番に!

    コエドブルワリーはさまざまなコラボを行なうことでも知られる。昨年は東京・渋谷のビールプロダクトとコラボした「渋生」をリリース。今年は、同じ埼玉の秩父麦酒とコラボしたり、堀口珈琲とコラボしたり、FM東京の、DJ村上春樹の「村上RADIO」とコラボしたり。

    左からFM東京「村上ラジオ」とのコラボ「風歌 Kazeuta」。堀口珈琲とのコラボ「織香 Worka」と「黒艶 Kokuen」。埼玉県川島町で採れたイチジクを使ったハードセルツァー「FIG HARD SELTZER」、台湾のクラフトビールSUNMAIとのコラボ「囍雨 ki-u」。

    なぜこんなにコラボするのですか?

    「まったく別のジャンルでも、同じ方向に理想をもっている人たちと組むのが楽しい。お互いに持っているものを持ち寄ったときに、予想もしないおもしろい化学反応が生まれて、補完し合う。それが楽しい」

    だから1回きりで終わらない。たとえば、堀口珈琲とのコラボは4回目になる。

    「コエドビールのファンと、堀口珈琲のファンが交わるところがあって、そのベン図の重なる部分がジワジワ広がっていけばビジネス的にもいいでしょう。遊んでいるだけじゃないです(笑)」

    昨年の夏、川越市に本社を構えるスーパーヤオコーとコラボした「COEDO×YAOKOアニバーサリービール」が誕生した。1890年創業のヤオコーは市民に愛される町のスーパー。今では東京や千葉にも出店している。そして創業130周年を迎えた今年7月、アニバーサリービールはヤオコーの定番商品になった。

    ヤオコーのバイヤーと議論を重ねた結果、ビールスタイルはエールではなくピルスナーに落ち着いた。

    日本のクラフトビールブルワリーから発売されるビールの大半はエールというスタイル。一方、大手ビールメーカーがつくるビールの大半はピルスナー。

    クラフトビールはまだまだ都市部の一部の人の飲み物に過ぎない、と朝霧社長は言う。昨年来、オンラインショップが充実し、日本全国どこでも入手できるようにあったとはいえ、送料含めて価格面のハードルはもちろん残る。地元スーパーの定番商品となったクラフトビールは価格も含め、飲みやすいビールをめざした。

    「世界中でピルスナーがこれだけ売れているのは、ピルスナーがおいしいことの証でもありますね。ヤオコーさんのお客さんが何を求めているのかを突きつめ、究極のピルスナーにたどり着きました。

    地元でつくっているからといって地元のビールと思ってもらえるほど甘いものじゃないことはわかっています。でも、コエドビールは地元のビールだよねと、生活に取り入れてもらえるビールになりたい。本当の意味で、地ビールになりたいと願っています」

    ここにもコエドブルワリーの原点回帰の考えが見える。地ビールという名称は負のイメージを背負わされているが、もとはいえば地産のビールであり地元のビール。その名は全国に知られるようになったけれども、コエドビールは今も、埼玉県川越のローカルビールを目指している。

    ●コエドブルワリー https://www.coedobrewery.com/jp/

    私が書きました!
    ライター
    佐藤恵菜
    ビール好きライター。日本全国ブルワリー巡りをするのが夢。ビーパルネットでは天文記事にも関わる。@ダイムやSuits womanでも仕事中。

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