「シカさんを、どうするの?」
5歳の少年が後ずさる。顔をこわばらせながら。
目の前には逆さ吊りにされた1頭の雌シカ。腹部がパカッと切られている。
「昨日、罠にかかったシカを、血抜き処理した状態です」。猟師であり『森のたね』代表の井戸直樹さんが説明をはじめる。ここは、富士山のふもと静岡県富士宮市。念願のシカ肉解体ワークショップへとやって来たのだ。
「こんな風に、スッスッと皮と肉の間の筋を切りつつ皮を剥いでいきます」。
この時点で、子ども達はショックのあまり完全にアウト。彼らは少し離れた場所で遊ぶことに。「食育」としては、かなりハイレベルすぎたよう…。
「やってみて」。ナイフを手渡された。全身に緊張が走る。実は、魚すらさばいたコトがない私(え?)。少し剥いだ皮の間からピンクの肉が顔を出す。左手に握る皮の厚みと弾力、そして毛並みがなんとも生々しい。そして、下を向いているシカのくりくりした瞳。「目を合わせない、目を合わせない」呪文のように心で唱えつつ、スローテンポで皮を剥がしていく。魚の解体は「美味しそう~」と思うのに、四足になると急に罪悪感にさいなまれる不思議。
「次は、筋肉の方向を見ながら、だいたいの部位ごとに切り分けていきますね」。ない頭をフル回転させて、解剖学を思い返す。が、目の前の肉にばかり集中しすぎて、あらぬ方向に切ってしまったり…難しい(汗)。
肉が削がれ、だんだん細身になっていくシカ。作業用テーブルには、各部位が並ぶ。ココまでくると、生々しさはだいぶ軽減し「食用の肉」として見るコトができる。罪悪感も薄らぐ。自分の気もちながらも、なんと勝手で単純なコトか。なんだか申し訳ないモードになるのだった。
それらを、さらに小分けにしていく。私は後足を担当するコトに。
「そこは、ステーキにすると最高の“シンタマ”って言う部分だから丁寧にね」。“シンタマ”とはモモ肉の一部で、やわらかく脂肪分の少ない部位だ。