職人と後継者をつないで伝統工芸を残したい!動画メディア『ニッポン手仕事図鑑』の挑戦 | サスティナブル&ローカル 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2026.01.24

    職人と後継者をつないで伝統工芸を残したい!動画メディア『ニッポン手仕事図鑑』の挑戦

    職人と後継者をつないで伝統工芸を残したい!動画メディア『ニッポン手仕事図鑑』の挑戦
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    四季折々の豊かな自然に恵まれる日本では、古くから土地の気候風土を活かした伝統的なものづくりがされてきた。しかしそう遠くない未来、中には途絶えてしまう産業が出てくるかもしれないという。

    そこで伝統工芸の産地に希望を届けたいと立ち上がったのが、動画メディア『ニッポン手仕事図鑑』だ。2015年に産声を上げた同メディアは、職人と後継者をつなぐ活動などが評価され、2025年に日本生産性本部サービス産業生産性協議会主催の『第5回日本サービス大賞』で地方創生大臣賞を受賞した。

    産業と人にフォーカスして地方創生に取り組む『ニッポン手仕事図鑑』。立ち上げから10年を超え、多くの伝統工芸と職人を見つめてきた代表・大牧圭吾(おおまき けいご)さんに、お話しを伺った。


    動画メディア『ニッポン手仕事図鑑』とは?

    『ニッポン手仕事図鑑』代表・大牧圭吾さん。

    もともとコピーライターとして活動していた大牧圭吾さん。大牧さんが『ニッポン手仕事図鑑』を始めたきっかけは、そのルーツにある。父親が京都府南丹市美山町、母親が長野県安曇野市の出身。いずれものどかな地域で、子どもの頃から大好きだったという。ところが大人になるにつれ、町への印象が変わっていった。

    「30手前くらいでしょうか。ふと、2つの町から文化や風習が薄れたように感じました。個性が希薄になるというか……。

    なぜ個性を感じなくなったのかと考えたときに、町の個性とは古くからある“産業”であり、産業を支えている“人”が個性を支えて文化を作っていると思ったんです。ところが時代とともに、こうした産業が途絶えたり衰退したりして、日本各地で産業を支える人の姿が見えづらくなっていました。

    そこで、日本が誇る伝統工芸の文化や職人技を職人さんのインタビューとともに紹介していく『ニッポン手仕事図鑑』を立ち上げたんです」(以下「」内、全て大牧圭吾さん)

    2025年『第5回日本サービス大賞』の授賞式の様子。2段目の右から3番目に大牧さんの姿がある。


    日本の手仕事の現状は?見えてきた3つの課題

    動画メディアとしてスタートし、大牧さんたちは10年で100本近く職人の映像を撮った。その中で、大きく3つの課題が見えてきたそうだ。

    一つが、商品開発の課題です。いいものを作っていれば売れるという、昔ながらのやり方から脱却できない方はまだまだ多い。時代に合わせて、今売れる商品を作ることも大事です。

    もう一つが、販路開拓の課題。商品開発と同じく昔ながらのやり方では、なかなか利益が出ません。SNSなどで情報発信をしたり、催事に出たり、営業活動をしたりと、コツコツ動けることが大事で、そういう活動ができている職人さんは利益が出ています。でもお年を召した方や、たった一人で続けている場合は厳しいですよね。

    そしてもう一つが、後継者がいないという課題です。商品開発や販路開拓は、民間企業や国・市町などの自治体がサポートしてくれるパターンも多く見られました。ところが当時、後継者の課題はどこも動いていない様子だったんです。誰かがやらないと職人さんが途絶えてしまうと危機感を覚えました」

    職人さんの仕事に密着し、その見事な技と本音を動画で切り取ってゆく。一見の価値ありだ。

    そこで『ニッポン手仕事図鑑』では、2018年から新たな担い手を生むことに注力。2018年から2019年にかけ、経済産業省の補助のもと、長野県で職人と後継希望者をつなぐイベントを4度開催した。

    「現地に連れて行くのは6名という条件で公募したところ、毎回40~60名ほどの希望者が集まりました。しかも4回のうち1回は後継者も誕生したんです。これは需要があると分かり、県庁や市役所、町役場などの行政と手を結び、『後継者インターンシップ』と名付けて取り組み始めました」


    職人の採用を目指す「後継者インターンシップ」

    2020年から始動予定が、コロナ禍により延期。2021年に晴れてスタートした『後継者インターンシップ』。その方法は、いわゆる就職活動と似ている。

    全国各地の250〜300もの学校や地域の掲示板などに、募集するポスターを提示。選考は、書類、リモートでの集団面接、そして1泊2日か2泊3日の実地研修の3度に渡る。実地研修を行うのは、受け入れる側が後継希望者の性質をはじめ、親方との相性や、仕事への姿勢を見る。後継希望者には、実際の産地で体験を通じて仕事の本質を感じたり、生活拠点を見ることで就業後のイメージを深めてもらうなどといった意味合いからだという。

    2025年1月時点で、総応募者数は4477名。また、5年間で誕生した後継者は109名に及び、各地で活躍。地域の職人と後継希望者をつないでいる。

    1度につき6名の参加者が、各地の職人や工房に行く。見学したり、実際に作業したりして、採用されるのは1〜2名ほどだ。


    町が、職人が、後継者を募集しなかったのはなぜ?

    職人として一人前になるには時間がかかる。だからこそ後継者の課題解決は急務だったにも関わらず、大牧さんらが働きかけるまで、なぜ産地ではこうした動きが見られなかったのか。

    「理由は大きく2つあると思います。

    一つは、後継者になりたい人はいないという思い込みです。職人さんや町の人に聞くと、『この産業を継ぐのは誰?』となったら、自分の子どもか地域の若者をイメージするそうです。ところが子どもや地域の若者らは『やりたくない』と出ていくケースが多い。それもあって今の時代、伝統工芸に携わりたい人はいないという思い込みがありました。

    もう一つは、伝統工芸では食べていけないので、誰にもやらせたくない。人を雇用しても一人前になるまで食べさせられないという現実です。

    もちろん伝統工芸品は、きちんと作れるまでに何年もかかりますし、技術的な戦力になるのは先でしょう。でも経営的な戦力にはすぐになれると思うんです。というのも、伝統工芸の中には1〜10作れなくても、1〜3の下準備までは弟子のうちからできるようになるものも多い。だからたとえば親方が催事に出ている間に弟子が下準備をしておけば、生産量はぐっと伸びます。あとは、修行中の若い弟子が催事に立つとかえって売れたり、SNSで発信すると注文が入ったりっていうふうに、シーンや得意を活かせば弟子も売り上げに貢献できます。修行中だから何もできないのではありません

    第一回『後継者インターンシップ』で採用された1名の若手職人は、今しっかりと活躍している。

    実際に、「後継者インターンシップ」で誕生した若手職人の中には、新たな販路拡大に大いに役立っているメンバーもいるという。それもあって年々、実施回数は増え、事例も広まり、協力してくれる地域も増えてきた。

    「嬉しい反面、伝統工芸を置き去りにしている地域がまだまだあるのも事実です。『後継者インターンシップ』の実施には行政の協力が欠かせないので、地域としっかりパートナーシップを結べるかどうかが今後の課題ですね」


    1人の後継者が生んだプラスの連鎖

    大牧さんは、伝統工芸の存続には“1人目の後継者が誕生すること”が何より大切だと話す。なぜなら事例を見た他の工房や地域に、プラスの連鎖が生まれるケースがあるからだ。

    その一つが、『後継者インターンシップ』第1回目を飾った愛知県の尾張仏具だ。尾張仏具とは、木製の漆塗り製品を中心に、江戸時代から仏壇とともに名古屋城下で生産され始めたものである。

    尾張仏具。

    「名古屋市役所の方や尾張仏具技術保存会の方と話したときに、最年少の職人が40代という話が出たんです。『今どき仏具を作りたいという後継希望者は出ないだろう』と最初は否定的なことをおっしゃっていたんですが、実際に蓋を開けてみると6名の定員に50名近くの希望者が集まって! 無事に1名の採用も決まりました。

    すると、その採用と活躍を見た神具を制作する工房の代表が、うちも採用してみたいと翌年インターンシップをやってくれました。そのときは2名採用して、名古屋市に3名の20代の職人が誕生したんです。そうしたら、それを見た錺金具の工房もインターンシップをしてくれて、1名採用。この職人さんは、TVにも出たんですよ」

    また、岐阜県高山市では、産地を超えて市内でプラスの連鎖が起こった。

    「高山市にはさまざまな伝統工芸があるのですが、地域の中で後継者がたくさん生まれました。最初のきっかけは、飛騨木彫です。木目の美しさを活かし、色をつけない飛騨高山を代表する彫刻で、国指定伝統的工芸品。高い技術をもった職人さんがいらして、なんとか弟子を取りたいとインターンシップをしたところ、1名の職人が誕生しました。

    飛騨春慶の「塗師・木地師」の手仕事。

    それを地場産センターの方が、『こんなに素敵な子が生まれたんだよ』と拡めてくださったんです。すると、お祭りの山車に漆を塗る職人さんが、『自分の代でやめよう』と考えていたのにインターンシップを開催してくださって。無事に1名が採用されました。そうしたら、2人の採用を見た飛騨春慶の生地を作る職人さんが、産地は違うんですがインターンシップをしてくださりました。今年の4月から1名の職人さんが働き始めます」

    たった1人、されど1人。これまで若手がいなかった地域に1人の後継者という光が差したことで、他の工房や職人にも「この工芸品を残したい」と火がついたといえよう。


    移住して職人になりたい場合はどうしたらいい?

    『後継者インターンシップ』応募者の80〜90%は20〜30代で、その多くは学生。内定者の76%はIターンで、縁もゆかりもない土地に移住する覚悟で飛び込んでいる。また、応募者の約70%は女性なのだとか。

    しかし移住でよく聞くのが、土地になじめず出ていってしまうケース。Iターンだと余計にハードルが高そうだが……。

    「ありがたいことに、『後継者インターンシップ』で採用された職人さんが辞めるケースはごくわずかです。というのも、伝統工芸の職人さんって、地元のキーマンだったり有名人だったりするんですね。“○○さんのお弟子さん”というだけで認知されて、早くに受け入れてもらいやすい。移住したいという夢がある方は、伝統工芸のお弟子さんになるのも地域への溶け込みやすさでいうと良いかもしれません」

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    後継者インターンシップでは、地域を歩き、町の様子を感じるひとときも。こちらは飛騨高山。

    また、伝統工芸の弟子を目指すには、大きく3パターンの方法があるそうだ。一つが「地域おこし協力隊」などの制度を活用する方法。もう一つが、専業で雇用してくれる職人や工房を探す方法。もう一つが兼業で弟子になるパターンだ。

    「働き方は一概に言えず、『地域おこし協力隊』は3年間の任期を終えたあと、工房で雇用するパターンもあれば組合で働くなどの道もあります。専業の場合は『いつか独立してね』という場合もあれば、工房で働き続けてほしいという場合も。

    飛び込みで雇ってもらうのはかなり厳しいですが、可能性はゼロではありません。ただ、もし興味があれば、『後継者インターンシップ』にトライしていただくのも、移住を叶える一つの手段かもしれませんね」


    子どもたちが憧れる存在になってほしい

    最後に、今後についても聞いた。

    「職人さんと後継者のマッチングは、この5年でずいぶん型ができたと感じています。次のミッションは、若手職人が活躍できる場を増やすこと

    というのも、未来を担う子どもたちに『伝統工芸の職人さんになりたい』という“憧れ”を生むには、20〜30代の若手職人の活躍を見せることも大事だからです。ただ実際のところ、伝統工芸には技術力が必要なので、ルーキーや中堅が世に出づらく、親方世代が活躍する傾向にあります。実力は追いつかなくても、若手職人の活躍の場を増やして認知を高めたいですね」

    小学生の子どもに向けた大牧さんの著書『ときめくニッポン職人図鑑』には、31人もの職人が登場。こちらはその一部。憧れやときめきを誘う内容だ。

    その一つとして、2026年には『弟子と親方展』というイベントを開催予定だ。その名の通り、弟子と親方の作品や、弟子と親方の2ショット写真を展示するという。

    「職人さんって、厳しそう、取っ付きづらいなどというイメージもまだまだあります。でも実際は、弟子と親方の間には和やかな空気があるんですよね。

    働き始めて数年の若手でも、経営的な戦力になれるんだ。弟子と親方って厳しいだけの関係性じゃないんだというイメージが、世の中にもっともっと広がってほしい。そして、それを見た職人さんの中にも『うちの弟子も表に出していこう』とか、5年間は掃除だけといった厳しい修行スタイルを変えてみようかなという方も出てきたらいいなと願っています」

    試験的に2024年「弟子と親方展」を開催したところ、大盛況だった。弟子と親方の作品を並べ、その横には2ショットが飾られている。

    地元からの発信も待っている

    『ニッポン手仕事図鑑』はこれからも、日本の伝統工芸の産地に希望を届け続ける。そのためにも大切なことは「地元からの発信」とも。

    「これまで様々な伝統工芸を見つめてきましたが、僕らが知らない伝統工芸はまだまだあります。つまり、知名度がない伝統工芸は知ってもらうきっかけを作ることがまずは必要です。地元の人たちから『この産業を残したい』と声を上げてほしいです。そしてよければ、僕たちに声をかけていただけたら嬉しいですね」

    一人ひとりの声は小さいかもしれない。でも小さくても声を上げることはできるし、その声がメディアに届けば大きく拡散する可能性はある。もし、あなたの地元やあなたが好きな地域に、近い未来なくなってしまうかもしれない伝統工芸があったとしたら、どうぞ臆すことなく声をあげてみよう。きっとその声は、届くから。

    『ときめくニッポン職人図鑑』大牧圭吾・著オークラ出版

    日本には、すばらしい職人さんがたくさんいます。そして、職人さんが手がける工芸品は、高い技術とこだわりが詰まった、世界にひとつ。

    この本には、31人の職人さんと31の工芸品が登場します。

    フルカラー164ページで、イラストをふんだんに使い、職人さんの仕事や想いなどを紹介します。

    楽しく知って、心ときめく。学びと発見に満ちた1冊です。


    ニイミユカさん

    編集・ライター

    兵庫県生まれ、東京・浅草在住。朝ランが日課の編集者・ライター。女児の母。「衣食住子」と地に足のついた企画を編集・取材・執筆しています。Instagram @yuknote

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